バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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それぞれの夜

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ファミレスで香澄たちと別れた私は、そのまま自室のベッドの上に倒れ込んだ。
 告白された……有馬っちに。
 枕に顔を埋める。
 さっきまでバクバクしていた胸の苦しさは、もうない。
 あの締め付けられるような痛みは、どこかに消えた。
 でも――
 ただ頭の中に残っているのは、有馬っちの声。
 『僕は、白瀬さんのことが好きです』
 あの告白が、何度も何度も脳裏を行き来する。
 まるでリピート再生されているみたいに。

「有馬っちは、私のことが好き――」

 声に出してみる。
 心臓が、また跳ねた。

「私も、有馬っちのこと……」

 言葉が続かない。
 ダメだ。
 有馬っちのことを意識すればするほど――好きが増える。
 オタク趣味の延長線上で友達になったつもりだったのに。
 なのに!
 あんなシチュエーションで、あんな優しい顔で諭されて、あの真剣な目で告白されたら――意識しちゃうよ。

「まぁ、別に?」

 誰もいない部屋で、強がってみる。

「私、有馬っちのこと、別に異性として見てなかったと言えば嘘になるし?」

 自分でも分かる。
 この言い訳、全然強がりになってない。

「……ハァ」

 大きくため息をつく。
 なんで私、あの告白を受けて、答えを先送りしちゃったんだろう。
 胸の苦しさは消えたのに。
 胸のドキドキは、全然止まらない。
 むしろ、さっきより激しい。

「うーん、明日会うの、ちょっと恥ずかしい!」

 ベッドの上で、ゴロゴロと転がる。

「あんな泣き顔、晒しちゃったし!」

 思い出すだけで、顔が熱くなる。
 有馬っちの前で、あんなにボロボロ泣いて。

「あんなカッコいいこと言われたら、私!」

 枕を抱きしめる。
 有馬っちの声が、また頭の中に響く。

「めちゃくちゃ有馬っちのこと、好きになるじゃん!」

 声に出して、はっとする。
 言っちゃった。
 好き、って。
 顔が、熱い。
 心臓が、うるさい。
 ダメだ!
 このままじゃ、どうにかなっちゃう。

「お風呂入って、リセットしよ!」

 ベッドから飛び起きて、急いでバスルームに向かった。

 ※

(有馬蓮の視点)

 バイトから帰ってきた僕は、ベッドの上に寝転んだ。
 ふと、天井を見る。
 白い天井が、ぼんやりと視界に入る。
 告白したのか……僕は。
 白瀬さんに。
 告白。
 実感が、じわじわと湧いてくる。
 あの聖地で。
 白瀬さんの手を握って。
 想いを、伝えた。

「…………」

 沈黙。
 そして――

「あああああああああ!」

 ベッドの上で叫ぶ。

「恥ずかしい! 死にたい! めちゃくちゃ恥ずかしい!」

 枕で顔を覆う。

「いやあああああああ! 誰か殺してぇ!」

 ベッドの上で暴れる。
 足をバタバタさせる。
 布団をぐちゃぐちゃにする。
 僕の脳裏を巡るのは、白瀬さんに放った言葉の数々。
 『僕は、白瀬さんのことが好きです』
 『友達としてではなく、一人の異性として』
 『本気で、白瀬さんのことが好きです』
 どれも思い返すと、恥ずかしすぎる。
 よく、あんなこと言えたな、僕。
 顔から火が出そう。
 明日、白瀬さんに会いづらいよぉぉぉぉ!

「蓮! アンタうるさい!」

 ガチャリ。
 部屋のドアが勢いよく開いた。
 怒った顔の姉さんが、立っていた。

「ご、ごめんなさい……」

 姉さんは呆れた顔で僕を見て――

「…何かあったの?」

 少しだけ、心配そうな顔をした。

「い、いえ、何も!」

「ふーん。まぁ、静かにしなさいよ」

 ドアが閉まる。
 また、一人。
 僕が告白したことは、有村さんも須藤さんも司くんも知らない。
 白瀬さんと僕しか知らない――秘密。
 そう思い返しながら、僕は来る明日に備えて身構えた。
 明日、白瀬さんに会ったら――
 どんな顔をすればいいんだろう。
 いつも通りに話せるかな。
 避けられたりしないよね。
 不安と期待が、ぐちゃぐちゃになる。

 ※

 ――1時間前。

(有馬蓮の視点)

 僕が白瀬さんと1対1で話し終え、休憩室に戻ると――

「あ、蓮くん!」

 そこに水野さんがいた。

「どうだった? ちゃんと話せた?」

 水野さんが、僕に駆け寄ってくる。

「まぁ、はい……」

 僕は少し戸惑いながら答えた。

「色々話して、なんとか元気を取り戻したみたいで」

「良かった!」

 水野さんが、ほっとした顔で笑う。

「LINE交換もしました――アハハ」

 苦笑いする僕を見て、水野さんは優しく微笑んだ。

「良かったじゃん!」

 その笑顔に、少しだけ胸が痛む。
 さっき、白瀬さんに告白したこと。
 それを、水野さんは知らない。

「何か悩みができたりしたら、私にいつでも言ってね! 蓮くん!」

「助かります……」

 水野さんは、本当に良い人だ。
 でも――
 僕が好きなのは、白瀬さんだ。

「そう言えば、店長は?」

 話題を変えるように、僕は尋ねた。
 水野さんは、気まずそうな顔をする。

「店長は、ちょっとね……」

「え?」

「蓮くんがいなかった間、それを埋めるために店長がめちゃくちゃ働いて、今バテてるかな?」

「えええ!? 店長ー!!」

 僕は慌てて急ぎ足で休憩室を飛び出した。
 水野さんの笑い声が、後ろから聞こえた。

 ※

(白瀬紗良の視点)

 お風呂から上がって、またベッドに倒れ込む。
 髪を乾かしながら、スマホを見る。
 有馬っちとのLINE。
 友達一覧に、ようやく追加された有馬っちのアイコン。
 ついそれを見て、頬が緩む。

「まさか、LINEを追加する前に告白されるなんて……」

 普通、逆だよね。
 LINE交換して、仲良くなって、それから告白。
 でも、私たちは逆。
 告白されてから、LINE交換。
 何か、順番がおかしい。
 でも――
 それが、私たちらしいのかも。
 私はスマホを自分の胸に当てる。
 深呼吸をする。
 有馬っちのLINEが、有馬っちの想いを実感させる。
 ここに、有馬っちがいる。
 そんな気がする。

「明日……会うの、楽しみだな」

 素直に、そう思えた。
 恥ずかしいけど。
 でも、楽しみ。
 有馬っちに会えるのが、楽しみ。
 ふと、思い出す。

「そういえば、『ヒーリング』の最新話、読むの忘れてた」

 スマホを大切に持ち、私は満月の見えるベランダに立つ。
 夜風が、気持ちいい。
 月が、綺麗。
 満月が、静かに輝いている。
 ねぇ、教えて。
 明日の君は、どんな顔してるの?
 私は明日、笑えると思う。
 本当の自分も、みんなが望む自分も、愛することにしたから。
 有馬っちが、教えてくれたから。
 どっちも、私なんだって。
 月に向かって、小さく呟く。

「ありがとう、有馬くん」

 風に乗って、その言葉は消えていった。
 その夜。
 なかなか眠れなかった。
 でも、理由は同じ。
 相手のことを、考えていたから。
 そして――
 明日が、楽しみだったから。
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