バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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夏休み前のテスト勉強

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白瀬さんと共に、僕は『ヒーリング』の一番くじを引いた。
 結果は下位賞だったが、僕も彼女も推しのグッズを手に入れることができたため、結果オーライだ。
 僕はスズミのアクリルキーホルダー。
 白瀬さんはケンヤのアクリルスタンド。
 満足そうに戦利品を眺めている。

「有馬っち、付き合ってくれてありがと!」

 白瀬さんがケンヤのアクスタを掲げて、嬉しそうに言った。
 その笑顔が、とても眩しい。

「いえいえ……それより、僕、ビックリしました」

「――なんで?」

 白瀬さんが、不思議そうな顔をする。

「いや、その……今日、避けられてる気がして……」

 頬を掻きながら、今日のことを思い出す。
 朝、挨拶しても無視されたこと。
 顔を合わせてもらえなかったこと。
 話しかけても、素通りされたこと。
 あの時の、胸が締め付けられるような感覚。

「あ、それは……ね」

 白瀬さんが、どこか照れているような顔になる。
 頬が、少し赤い。

「だって……さ? 有馬っちを見てたら――意識しちゃうから」

「――ッ!」

 心臓が、跳ねた。
 そうだったのか……。
 僕だけじゃなかったのか。
 白瀬さんも、僕のことを意識していた。
 告白のことを、忘れられなかった。
 今日の一日を、振り返っていく。
 白瀬さんが避けていた理由。
 それは、嫌いになったからじゃない。
 意識しすぎて、顔を合わせられなかったから。
 どうやら僕の告白が、ここまでの影響を出していたことに、僕は内心驚く。
 でも――
 嬉しい。
 すごく、嬉しい。

「な、なんだ~。てっきり嫌われたのかな、って思いました~。アハハ」

 僕が本心を、笑いながら漏らす。
 一緒に歩いていた彼女が、立ち止まる。
 そして、真剣な顔で――

「ならないよ。私が有馬くんのこと、嫌いになんてならないから」

 予想外の白瀬さんの言葉に、僕も真面目な顔になる。
 白瀬さんの目が、真っ直ぐ僕を見ている。
 嘘じゃない。
 本気で、そう言ってくれている。
 数秒の沈黙が続いた。
 夕方の街の雑音だけが、聞こえる。
 そんな沈黙を破るように、白瀬さんは笑った。

「それに――答えを、まだ言ってないからさ!」

 白瀬さんが、いつもの笑顔に戻る。

「それまで、付き合ってよ! 有馬っち!」

「はい!」

 僕は、力強く頷いた。
 僕があの日、白瀬さんに伝えた告白は、確実に影響が出ているらしい。
 そんなことを実感しながら、僕も白瀬さんにつられて笑った。
 やっぱり、白瀬さんといると、今まで経験できなかったことを経験できる。
 ドキドキする。
 胸が温かくなる。
 笑顔になれる。
 そんな気がした。
 いや――
 気がするんじゃない。
 確信している。
 白瀬さんといると、僕は変われる。
 もっと、成長できる。
 だから――
 答えが出るまで、待つ。
 何年でも、待つ。
 その覚悟が、また少し強くなった気がした。

 ※

 翌日。
 朝のホームルーム。
 
「今日から1週間、テスト期間に入るからな!」
 
 前澤先生の声が、教室に響く。

「夏休みに補習を受けたくないやつは、この1週間、勉強しておくように!!」 

 そう言って、前澤先生は黒板を叩いた。
 バン、と大きな音。
 教室が、一瞬静まり返る。
 そして――

「「「えええええええ!!」」」

 悲鳴が上がった。
 テストか……。
 この前の学年順位は、そこまで悪くなかったから、今回もマイペースで行けばいいか。
 そんなことを思いながら、ホームルームが終わった。
 ホームルームが終わると、周りのクラスメイトたちの悲鳴や嘆きが聞こえてくる。

「どうしよう!? 全く勉強してねぇよ!」

「今回は赤点確定だァァァ!」

「誰か助けてくれええええ!」

 絶望しているクラスメイトがいる中、僕は少し優越感に浸っていた。
 なぜって?
 僕は前々から勉強していたからだ!!
 余裕を持って戦に向けて準備する――それが武士の心構えだ!
 そんなことを思いながら、ラノベを開く。
 今日も、平和な一日になりそうだ。

「余裕そうだな」

 ラノベを読んでいた僕に、海斗くんは言葉を投げた。

「もちろん」

 僕は、胸を張って答える。
 それを聞いた彼は、ふっと笑った。

「まぁ、有馬のことはあまり心配してない。でも――」

 海斗くんは苦笑いをしながら、とある方向を向いた。
 彼の視線の先には――
 白瀬さんたちがいた。

「どしよ!? 私、全然勉強してないんだけど!?」

 須藤さんが、慌てた様子で言う。
 頭を抱えている。

「今日、勉強教えるから落ち着いて、奏」

 有村さんが、冷静に言う。

「紗良も、奏を止めて――紗良!?」

 有村さんが、驚きの声で彼女の名前を呼んだ。
 僕も思わず、白瀬さんに視線を向けた。
 白瀬さんは、冷や汗を流しながら、顔が青ざめている。
 まるで、世界の終わりを見たような顔。

「ど、どしよ……私、ここ最近、全く勉強してない!」

「アンタもかい!」

 有村さんのツッコミが入る。
 そして、須藤さんが何か思いついたように、手を上げる。

「そうだ! 勉強会しよ! 勉強会!」

「いいね! それ!」 

 須藤さんの提案に、光くんが声を上げる。
 そして、それに呼応するように、司くんも言う。

「いいな! みんなでやれば、楽しそうだし!」

「有馬も海斗も来るよね?」

 光くんが、僕たちを見て手を振る。
 勉強会……。
 いつも、テストには一人で挑んできた僕。
 だが、今回はみんなとだ。
 みんなで勉強する。
 それって――
 なんだか、楽しそう。

「有馬、勉強会、来るか?」

 海斗くんが、僕に尋ねる。
 僕は――

「行く!」

 威勢よく言った。
 海斗くんは、優しく笑った。

「そうこなくっちゃな」

 司くんが、僕の肩を叩く。

「やった! 有馬っちも来るんだ!」

 須藤さんが、ぴょんと跳ねる。

「じゃあ、放課後、カフェに集合ね」

 有村さんが、手帳に何かメモしている。

「え、カフェ?」

「うん。駅前の新しくできた、あのカフェ。勉強スペースがあるんだって」

 有村さんが、スマホで写真を見せてくれる。
 おしゃれなカフェだ。
 こんな場所で勉強するのか……。
 なんだか、新鮮だ。
 そして――
 ふと、白瀬さんに目が合った。
 白瀬さんが、小さく微笑む。
 僕も、微笑み返す。
 勉強会。
 白瀬さんと一緒に勉強できる。
 それって――
 なんだか、嬉しい。
 胸が、温かくなった。
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