バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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勉強会の中に潜むドキドキ

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学校が終わり、放課後。
 僕は司くんたちと共に、駅前の新しくできたカフェへと向かっていた。
 陽キャ御用達らしいこのカフェ。
 僕一人では、絶対に来ないような場所だ。
 でも、みんなと一緒なら――
 少し、楽しみだ。

「有馬はさ、最初のテスト、何点だった?」

 隣を歩いていた光くんが、聞いてくる。

「全部、平均の少し上かな? 70とか80ばっかり」

「へぇ、有馬って頭良いんだ!」

「え!? じゃあ、有馬、俺にも勉強教えてくれよ!」

 前を歩いていた司くんが、こちらを向く。
 司くんの期待の眼差しが、僕に刺さる。
 そして、彼の隣にいた須藤さんが、ヤキモチを焼いたような顔をしている。

「司~、私と勉強するんじゃないのー?」

「いや、お前が勉強してないって言うから、勉強しに来てるんだろ」

「むー、それもそうだけどさ!」

 須藤さんが、僕の方を睨む。
 でも、その目は優しい。
 怒ってるわけじゃない。
 僕はそんな須藤さんに、苦笑した。

「じゃあ、このメンバーで、勉強できる人とできない人で3グループに分かれて勉強しない?」

 有村さんが、提案する。
 すると、須藤さんは司くんの腕を引っ張って、手を上げた。

「じゃあじゃあ! 私は司と勉強したーい!」

「じゃあ、俺が須藤さんと司側につくわ」

 海斗くんが、言う。

「じゃあ、紗良は私とね~」

 有村さんが、白瀬さんに言う。
 黙って聞いていると、どんどん周りの話が進んでいく。
 どうしよう。
 どのタイミングで話題に入れば。
 内心、焦りを感じていると――
 白瀬さんが、僕の服の袖を引っ張った。

「白瀬さん?」

「有馬っちも、私に勉強教えてよ」

 どこか照れながら、お願いする彼女。
 上目遣い。
 正直、めちゃくちゃ可愛い。
 そう思ってしまった。
 心臓が、うるさい。
 そんな時、有村さんが声を上げた。

「紗良!? 私がいるのに、有馬にも頼むの!?」

 驚きながら、白瀬さんに視線を送る。
 すると、白瀬さんは優しく微笑みながら――

「勉強できる人が2人いた方が、早く終わるかもよ?」

「そういう問題か~?」

 白瀬さんの言葉を聞いた有村さんは、呆れながら僕を見る。
 そして、彼女はため息をついて――

「よろしく」

 と言った。

「うん、よろしく!」

 僕は、笑顔で答える。
 そんな会話をしている中で、光くんは言った。

「じゃあ、僕も有馬の方に行こうかな」

 勉強するグループ分けの話が終わる頃、司くんたちが立ち止まる。

「着いたぞ。中に入るか」

 司くんが先導して、カフェへと入った。

 ※

 カフェに入ると、そこはカフェとは思えないほどに広かった。
 まるで、大きな図書館と小さなカフェが合体したようなお店。
 二階建てになっている。
 木の温もりを感じる内装。
 落ち着いた照明。
 静かなBGM。

「す、凄い!」

 つい、言葉が漏れてしまう。
 そんな僕を見たのか、白瀬さんが隣に立った。

「でしょ? 漫画もあるんだよ!」

 白瀬さんが、嬉しそうに指差す。
 壁一面に、漫画が並んでいる。

「へぇ~、隙間時間にでも読もうかな」

「じゃあ、私も~!」

「紗良~? アンタは勉強でしょ?」

 そう言って、有村さんは怖い笑顔で白瀬さんの耳を引っ張る。

「イテテテ!」

「あの席、空いてるから、俺たちはあっちでやるわ」

 司くんはそう言って、海斗くんと須藤さんを連れて、空いている席に向かっていった。
 残された僕と光くん、有村さん、白瀬さん。

「じゃあ、1階は満席っぽいし、二階でやらない?」

「それが良いね。紗良、行くよ」

「イテテテ!」

 有村さんは白瀬さんの耳を引っ張りながら、先導する。
 そんな彼女たちの姿を見て、僕と光くんは笑った。

「有馬も先に行ってて! 僕は、あそこに用があるから」

 光くんが指差した場所。
 注文カウンター。
 ショーケースに、美味しそうなパフェが並んでいる。
 それを見た僕は、納得して笑った。
 目をキラキラとさせながら、光くんはパフェや食べ物を注文する場所に歩いていった。
 相変わらず、食べ物に目がないな~、光くんは……。
 そんなことを思いながら、僕も二階に向かった。

 ※

 二階へ来ると、そこは完全に図書館と思えるような空間だった。
 たくさんの本棚と本。
 読書好きの僕にとって、ここは楽園のようだ。
 落ち着いた環境。
 独特な本の紙の匂い。
 そして、とても静かな勉強スペース。
 完璧だ。
 有村さんと白瀬さんを探すふりをして、僕は文庫本コーナーと漫画コーナーを歩き回る。
 これは――
 探検だ。
 楽しい。

「凄い……有名な漫画も、マイナーな漫画も網羅してる……」

 そんなことを呟きながら、『ヒーリング』の漫画を手に取る。
 この単行本……初版じゃないか。
 世にあまり売られていない初版が、ここにもあるなんて。
 興奮しながら、僕は手に取った『ヒーリング』の単行本・第4巻を読み進める。
 勉強をしに来たことを忘れるように、ページを捲る。
 『ヒーリング』の第4巻は、主人公のケンヤがヒロインの兄であるシュウと死闘を繰り広げ、瀕死の重傷を負う中で、最後にライバルのカズが助けに来るという名シーンがある巻!
 何度読んでも、泣ける。

「やっぱり、何度読んでも泣けるな~」

「こらこら、有馬。勉強をサボっちゃダメじゃないか」

 後ろから聞こえてきた、有村さんの声。
 僕は思わず、体をビクッとさせる。
 ビビりながら後ろを向くと、そこには満面の怖い笑顔を浮かべている有村さんがいた。

「あ! 有馬っち、こんなとこにいたんだ!」

 白瀬さんも、一緒にいる。
 そして――
 僕は有村さんに後ろ襟を掴まれ、引きずられながら勉強スペースに連行された。

「ちょ、ちょっと! 有村さん!」

「問答無用」

 有村さんの声が、怖い。
 白瀬さんが、笑っている。
 助けてくれないんだ……。

 ※

 勉強スペースに着いて、勉強を始めてから1時間が経過した。
 僕の隣に白瀬さんが座り、白瀬さんの向かい側に有村さんがいて、その横に光くん。
 みんな、勉強道具を机に置いている。
 光くんは、勉強道具と美味しそうなパフェ……。
 僕も、買おうかな?
 お腹が、少し空いてきた。

「ねぇ、有馬っち」

 隣にいた白瀬さんが、声をかけてくる。
 ふと視線を横に向けると、彼女が難しそうな顔で、とある数式の問題を指していた。
  
「ここ、教えてほしいな」 

「いいよ」

 そう答えた僕は、白瀬さんのノートを借りながら説明する。

「この数式は、この公式を使って――」

 白瀬さんの髪が、肩に触れる。
 甘い匂いがして、ペンの先が止まる。
 シャンプーの香り。
 心臓が、うるさい。

「どした? 有馬っち」

「い、いや……その……」

 言葉が、出ない。
 白瀬さんが、近い。
 距離が、近すぎる。

「分かった。ドキドキしちゃってるんだ?」

 僕の耳元で、小声で囁く彼女。
 図書館の沈黙が、余計に恥ずかしさを増幅させる。
 周りの静けさが、二人の距離を際立たせる。
 あぁーもう!
 勉強に集中できない!
 でも――
 嫌じゃない。
 むしろ、嬉しい。
 この距離が、心地いい。
 白瀬さんの隣で、勉強する。
 それだけで、幸せな気持ちになる。
 僕は、深呼吸をして――
 もう一度、問題の説明を始めた。

「えっと、この公式を使うと……」

「うん、うん」

 白瀬さんが、真剣に聞いてくれる。
 その横顔が、綺麗だ。
 集中している白瀬さん。
 普段とは違う、真面目な表情。
 それも、また可愛い。
 僕は、ペンを動かしながら――
 この時間が、ずっと続けばいいのに、と思った。
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