バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件

沢田美

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プールへ

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 バスに揺られること三十分。
 目的地のバス停で降りると、目の前にはBBQとプールの複合施設が広がっていた。

「で、どうする? 先にプール行く? それともBBQ?」

 須藤さんが振り返って全員に問いかけた。

「プール!」

「私も~!」

 有村さんと白瀬さんが即答する。
 その流れに乗って、海斗くんと光くんも手を挙げた。

「俺たちも!」

 プール。白瀬さんの水着。見られる。

 いや、落ち着け有馬蓮。お前は紳士だ。冷静になれ。

「僕も行きます」

 気づいたら声が出ていた。

「じゃあ決まりだな。BBQは午後からにして、今のうちに泳いじゃおうぜ」

 司くんがその場を仕切る。
 須藤さんが「賛成!」と元気よく答えて、僕たちはプール施設へ向かった。

 ※

 受付を済ませ、男女で分かれる。

「じゃあ後でね、有馬っち!」

 白瀬さんが手を振る。僕も振り返す。心臓がうるさい。

「有馬、行くぞ」

 司くんに背中を押されて、男子更衣室へ入った。

 ※

 ロッカーに荷物を入れ、服を脱いで水着に着替える。

 僕が黙々と準備していると、隣から海斗くんの声が漏れた。

「司、ヤバ」

 視線を向けると、そこには司くんの鍛え抜かれた肉体があった。

 シックスパック。厚い胸板。広い肩幅。
 これが高校生の体か。

「親父の仕事手伝ってたり、部活やってたらこうなった」

 司くんが照れくさそうに頭を掻く。

「すごいね、司」

 光くんが素直に感心している。

「光も結構あるじゃん」

「そうかな?」

 司くんが光くんの腹筋を触っている。

 確かに、光くんも細マッチョだ。良いな。

 あれ、僕は?

 ふと、三人の視線が僕に集中した。

 沈黙。

「まあ、それくらいが平均的だな」

 司くんが僕の肩を叩いた。

「司くん!?」

「有馬も筋トレすれば、司みたいになるって」

 海斗くんがフォローしてくれる。

「海斗くん!?」

「言ってくれれば、僕も付き合うよ」

 光くんも優しく言う。

「光くん!?」

 何故か慰められながら着替えを終えた。

 悲しい。でも、これが現実だ。

 僕は普通の高校生。それでいいんだ。多分。

 簡単にシャワーを浴びて、僕たちはプールへ向かった。

 ※

 プールエリアに出た瞬間、太陽の光が視界を満たした。

 眩しい。水音。歓声。夏の匂い。

「うぉー、すげえ!」

 司くんがテンション高く叫ぶ。

「俺も久々だけど、いいな」

 海斗くんも頷く。

「僕、浮き輪取ってくるよ」

 光くんがそそくさと移動した。

 目の前には広大なプールが広がっている。
 ウォータースライダー、流れるプール、波のプール。

 どれも楽しそうだ。ワクワクする。

「で、どこから攻める?」

 司くんが真剣な顔で問いかける。

 僕と海斗くんと司くんは、目を合わせて――

「「「全部!」」」

 三人で拳を突き上げた。

「みんな、これで泳げるから!」

 光くんが大きなドーナツ型の浮き輪を持って戻ってきた。
 カラフルで可愛い。

 よし、行くぞ――

「みんな、お待たせ!」

 聞き覚えのある声。

 僕たちは反射的に、いや、男の本能的に振り返った。

 そして――固まった。

 須藤さんのピンク色のビキニ。
 有村さんの黒を基調とした大人っぽいビキニ。
 水野さんの向日葵柄のワンピース型ビキニ。

 そして――白瀬さん。

「眼福だな」

 司くんが小声で呟いた。

「ああ」

 海斗くんが頷く。

「至福の時間だね」

 光くんがうっとりしている。

「白瀬さん、可愛い」

 僕も思わず声が漏れた。

「有馬っち……お待たせ」

 照れながら歩いてくるのは、白の水着を着た白瀬さんだった。

 白い肌が太陽に照らされて輝いている。
 細い腰。綺麗な脚。鎖骨のライン。
 後ろで結んだ銀髪から覗くうなじ。

 全部が可愛い。理性が蒸発しそうなほど、可愛い。

「可愛い」

 思わず口に出た。

「――あ、ありがと」

 白瀬さんが顔を真っ赤にする。耳まで赤い。

 その姿も可愛い。心臓がうるさい。顔が熱い。
 でも、目が離せない。

「有馬っち、そんなに見ないでよ……」

 白瀬さんが上目遣いで言う。

 やばい。可愛すぎる。

「あ、ごめん!」

 僕は慌てて視線を逸らした。
 でも、白瀬さんの姿は既に脳裏に焼き付いている。

「有馬、鼻血出てるぞ」

 司くんがニヤニヤしながら言う。

「え!?」

 慌てて鼻を触る。出てない。

「冗談」

「司くん!」

 みんなが笑っている。恥ずかしい。

「じゃあみんな、プール入ろ!」

 須藤さんの声で、僕たちはプールへ向かった。

 ※

 最初は流れるプールに入ることになった。

 ゆっくりと流れる水に身を任せる。冷たくて気持ちいい。

 太陽が暑いけど、水が冷たいから心地よい。

「有馬っち、一緒に流れよ?」

 白瀬さんが僕の隣に来た。距離が近い。肩が触れそう。

「う、うん」

 白瀬さんと並んで流れる。ゆっくりと、のんびりと。

 幸せだ。これが夏で、青春なんだと思う。

 白瀬さんが隣にいる。それだけで幸せだ。

「ねえ、有馬っち」

「うん?」

「今日、楽しい?」

 白瀬さんが僕を見つめる。

「うん、すごく楽しい」

 素直に答えた。

「良かった。私も、すごく楽しい」

 白瀬さんが微笑む。その笑顔が眩しい。
 太陽よりも眩しい。

「有馬っちと一緒だから、楽しいんだよ」

 小さな声で囁かれた言葉に、心臓が跳ねた。

「僕も……白瀬さんと一緒だから、楽しいです」

 僕も小声で答える。白瀬さんが嬉しそうに笑った。

 また、ゆっくりと流れていく。

 この時間が、ずっと続けばいいのに。

 そう思った。
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