記憶の箱庭

むらびっと

文字の大きさ
22 / 33

21話

しおりを挟む
「外でも出てみるか」

 午前十時、新聞を読み終えてテーブルに雑に畳んで置きながらセルリックはそう言った。

 「もうライもだいぶここに閉じこもるのも飽きただろ?」

 「えっ、ほんとに!?」

 ボクはその言葉に素直に喜ぶ。が、すぐに冷静になる。

 「でも……ボクってもしかしたら外で迫害されるような奴かも知れないし……でも……んー……」

 (でも記憶を取り戻す手立てにもなるかもしれないし……)

 ボクが悩んでいるとセルリックはベッドに座ってきた。

 「変なことで悩むんじゃねぇよ。それに前に言ったこともう忘れたのか?」

 「?」

 「お前に手出ししてくる奴は俺がボコボコにしてやるってやつだよ。本当に忘れたのか?薄情な事で」

 「わ、忘れてないよ!覚えてる!」

 前にそんなこと言ってくれたことをボクは覚えている。確かにガタイのいいセルリックがいればどんなとこでも安心出来る気がする。

 「じゃあ何も心配は要らねぇな。着替えてさっさと出発だ」

 「うん……!」

 ******

 ボクはワイシャツの上にサスペンダーを装着した。そしてルカに貰った車椅子に乗せてもらい、いざ出発、というところであることを思い出す。

 「そうだ。セルリック、麦わら帽子ない?ルカから貰ったんだけど」

 「麦わら帽子?これのことか?」

 そう言うとセルリックはゴミ籠から麦わら帽子を取り出す。

 「ちょっと!なんで捨ててるの!ルカから貰った大切な帽子なんだよ!?」

 「?でもルカもゴミだって言ってたぜ?」

 「そ、そうなんだけど違うの!ボクにとってはゴミじゃないの!」

 「なんだよ人がせっかくあのとっちらかった服やらなんやらを片付けてやったってのに。わがまま坊ちゃんめ、ほらよ」

 セルリックは面倒くさそうに帽子の埃を払い、ボクの頭の上に乗せる。
 その帽子はつばが広くてボクの顔をすっぽりと隠してしまう。

 「……まあ、今の時期には丁度いいかもな。じゃあ行く前に……」

 そう言うとセルリックはボクの目を自分の腕で覆う。

 「わっ!ちょっとなにするの!」

 「いいから黙って目を閉じてろ。悪いようにはしねぇよ」

 「……分かった」

 言う通りに目を閉じて大人しくする。
 不意にボクの顔の横をセルリックの手が通ったのを感じた後、ドアのガチャリと開く音が響く。すると空気が一変する。

 多分もう外だ。何となくそれが分かる。
 不思議なことに玄関を通っていないのにもう土の匂いや外気の湿った空気がする。
 車椅子が進められ、ドアから外へと押し出された車椅子はガタンっと段差を降りる。車輪がザリザリと土を蹴散らす音を少し奏でた後、いきなり眩しい光がボクの目に入ってきた。

 (眩しい……)

 まだ目を閉じているのに感じるこの強い光、これはきっと太陽だ。

 「もう目を開けていい?」

 「ああ、良いぞ」

 ボクはドキドキしながらゆっくりと目を開ける。眩しさから目がくらみそうになるが、数秒ですぐに慣れる。

 目の前にはキラキラと輝く何かがある。すごく大きくて青くて。ボクはそれが何かを知っている。それは海だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

何故か男の俺が王子の閨係に選ばれてしまった

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男アルザスは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 なぜ男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へ行く。 しかし、殿下はただベッドに横たわり何もしてこない。 殿下には何か思いがあるようで。 《何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました》の攻×受が立場的に逆転したお話です。 登場人物、設定は全く違います。

処理中です...