記憶の箱庭

むらびっと

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30話

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    (また嘘をついてしまった……)

 ボクは何も思い出していないと言ったがあれは嘘だ。本当は何かを思い出していた。とは言っても断片的なものだ。
 夢の中、ボクは大きな鏡の前に立っていて銀の甲冑を身にまとっていた。腰には立派な装飾の剣を刺し、周りの人間にもてはやされている。
 もしかしたらボクは有名な剣士か騎士だったのではなかろうか?そうじゃなきゃ記憶のような立派な姿をしているわけが無い。それならばあの人攫いひとさらい達を退けられたのも頷ける。ボクは人に誇れるような能力があるんじゃないかと思うと少し嬉しく思った。
 だけど一つ不思議なことがある。その夢の中で鏡に映った僕の顔は全く笑っていなかったのだ。目を伏せて何か物悲しいあの表情をボクは忘れられない。
 この夢の話を何故セルリックにしなかったのかと言うと、何か危機感を感じたからだ。喋ってはいけない、黙って置くべきだとそう頭が告げていたのだ。
 ボクはセルリックに自分のことを全て知って欲しいと思っているのにそんなことをしてしまうなんて矛盾している。とても不可解なことだ。でも後でセルリックに伝えればいいかと考え、ボクは熱に体を蝕まれながらもセルリックが帰ってくるまでにもう一度眠りにつこうとしていた。

 (セルリック、早く帰ってこないかな……)

 ******

 目が覚めると部屋は真っ暗になっていた。何時間寝たか分からないがまだセルリックは帰ってきていないようだ。それに体も未だ鉛のように重いし熱が引いた様子がない。

 (暑い……苦しい……頭が痛い…………でも……)

 でも今一番辛いのはセルリックが居ないことだ。こんなに一日の中で一人でいるのはとても久しい。少し前の自分ならなんでもなかった。一人でもいくらでもいられた。なのに今は寂しくて仕方がない。寂しくてなんだか怖い。暗いところが怖いのか、一人でいるのが怖いのか分からないが何故か怖いのだ。いや、多分この「怖い」はセルリックのことを思って出ている感情だろう。

 (セルリック遅いな……もしかして昨日のボクのように人攫いにあったりしてないよね……?)

 心配と心細さでベッドの中で涙が出てきそうになる。ボクはいつからこんなに心が弱くなったんだろうか?熱が出て気が弱っているから?それと何故こんなにもセルリックのことが心配なのだろうか?セルリックはボクと違ってなんでも出来るし力もあるし何か事件に巻き込まれてもそつなくこなすだろうに。

 「……愛おしい、からだ……」

 ポツリと呟いてみた。
 そうだ、セルリックがいくら背が高かろうと、どれだけ力が強かろうと魔術が使えようと何も無いとわかっていても何かあったらと思ってしまうのはきっと愛おしいからだ。愛おしくて、好きで仕方ないからなのだ。あの日セルリックが僕に言ってくれた「愛おしい」と同じだ。
 多分もうボクはセルリックに何かあったら生きていけない。何かあったら怖い。心配で胸がはち切れそうだ。今すぐにそばにいて欲しい。そばにいるだけでいい。じゃなきゃボクは…………

 もしかしたらこのままずっと一人なんじゃないかと思うと体が震える。震える体を抱き、ベッドで一人泣いた。

 「うっ……う゛ぅ……」

 涙でいつもならくっきりと見える月明かりすらぼやけてしまう。グズグズと鼻も垂れてきて遂に声を上げて泣こうとした時、パッと明かりがつく。

 「!!」
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