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2.ラディアスとの夜 ①
しおりを挟む結婚式と披露宴を終えたミルゼとラディアスは、公爵邸の私室に戻った。
お互いに緊張しているのか、無口なままだった。
それでも、披露宴では招待客からの祝辞を笑顔で受け、爽やかな新婚夫婦の印象を与えていた。
「奥様、湯浴みの準備が整いました。こちらへお越しください。」
ミルゼの専属侍女となったエマが笑顔で促した。
エマは二十二歳で明るく、ミルゼには優しい姉のように思えた。
浴槽には薔薇の花びらが浮かび、良い香りが漂っていた。
丁寧に髪や体を洗い、仕上げに香油を付けてもらった。
「こちらをお召しになってください。」
エマが着せてくれたのは、胸と腰回りにフリルが付いているが、あとは透け透けのミニ丈のナイトドレスだった。
上品な淡いピンク色のドレスは、ミルゼの白い肌によく似合っていた。
「エマ、これは…」
「ラディアス様との初夜ですから、可愛らしいドレスを大奥様が選ばれたのです。」
「アザリア様が…?これを…」
「ちなみに、シグネスティ公爵家では、初夜は三日間続きます。お食事はいつでもお声掛けください。湯浴みは、寝室にも浴室がございますので、御身を清めることは出来ますし、私をお呼びいただいても構いません。」
ミルゼはエマから聞く話に驚きを隠すのがやっとだった。
そもそも仮初の結婚で初夜があるとは思っていなかった。
白い結婚で二年後に離縁されると思っていたからだ。
(ラディアス様と話さなくては…)
ミルゼはエマに連れられ、寝室に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「旦那様、奥様をお連れしました。」
「おう、ミルゼ、入ってくれ。」
ラディアスは、ガウンを緩めに着こなし、ミルゼを迎えた。
漆黒の髪は湯浴みで濡れ、少し長めの前髪で黄金の瞳が隠れていた。
「ラディアス様、髪が濡れていますね。乾かしましょうか?」
ラディアスは少し驚いた顔をしたが、タオルをミルゼに渡し、ソファに腰掛けた。
「失礼致します。」
ソファにもたれ、上向き加減のラディアスの頭をわしゃわしゃと髪を拭くミルゼは、目を瞑って、されるがままにしているラディアスをじっと観察した。
(まつ毛が長くて綺麗…)
「ありがとう。もういいよ。ミルゼも何か飲まないか?こっちにおいで。」
ラディアスは微笑んで、ミルゼをソファの隣に促した。
テーブルには、ワインやシャンパン、リンゴジュースにレモン水が並んでいた。
ラディアスはシャンパン、ミルゼはレモン水をグラスに注ぎ、乾杯した。
グラスが空になると、ラディアスはミルゼをベッドに誘った。
ミルゼは大人しくラディアスに従うが、未だに初夜が執り行われるのか不安でいっぱいだった。
「ミルゼ、傍においで。」
ラディアスは隣に横になるよう、ミルゼの手を取った。
ミルゼは恥ずかしさと緊張でどうにかなってしまいそうな気持ちだった。
「ミルゼ、こっち向いて?怖い?」
「いえ、怖くはありません。ただ近くて、恥ずかしいです…」
「可愛いな、ミルゼは。俺達は夫婦になったのだから、慣れてもらわないとな。ほら、顔を上げて?」
ミルゼが怖々顔を上げると、ラディアスは金色の瞳を輝かせて、微笑んでいた。
「まだ恥ずかしい?」
「はい…」
「うーん…では、目を閉じて?」
素直に目を閉じるミルゼに、ラディアスはそっと口付けた。
ミルゼの可愛らしい唇に吸い寄せられるように、角度を変えて何度も触れた。
(ラディアス様と口付け…本当に私でいいのかしら…)
ミルゼは口付けられている状況に、ますます恥ずかしさが増し、唇が離れても目が開けられなかった。
「ミルゼ、ずっと目を閉じているつもりか?そんなんじゃ俺に好き放題されてしまうが?くくっ。」
ラディアスはミルゼを揶揄う。
真っ赤になったミルゼが可愛くて仕方ないのだ。
「ラディアス様、ちょっと意地悪です…」
「意地悪なんかしていないぞ?ミルゼが可愛いから愛でているだけだ。」
ラディアスがミルゼを抱き締めて、再び唇が触れ合う。
先ほどの口付けよりも深くなり、ミルゼの唇をラディアスの舌がなぞる。
驚いてぎゅっと結んだ唇が緩むと、不透ラディアスの舌はミルゼのそれを捕らえる。
「んぁ、ぁぁ…」
小さな吐息がミルゼから漏れると、ラディアスの体は昂ってくる。
深く口付けたまま、ラディアスはミルゼのナイトドレスの肩をずらす。
「ミルゼ、いいか?」
ラディアスがミルゼに切なく乞うような表情をすると、ミルゼの胸が高鳴る。
「私でよろしいのでしょうか…」
「ミルゼは俺の妻だろう?後継ぎも欲しいが、先ずはミルゼをもっと知りたい。」
ミルゼは、ラディアスとの子どもを授かることも身代わりなのだろうと思った。
リリスは体が弱く、子どもを望めないかもしれないからだ。
(ラディアス様とのお子…産めるならば、私もこの手に抱きたい。例え、手放すことになったとしても…)
ミルゼは心にズキンと痛みを感じながらも、ラディアスを受け入れる決意をした。
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