7 / 36
7.思い遣り
しおりを挟むしばらくしてラディアスが帰宅した。
ミルゼは急いで出迎えると、ラディアスは、皇都で流行りのスイーツ店の箱を持っていた。
「お帰りなさいませ、ラディアス様。」
「ミルゼ、ただいま。お土産だよ。母上に庭園を案内するように言われたから、ガゼボでお茶にしないか?」
「ありがとうございます。嬉しいです。もし良ければ、お義母様もお誘いしませんか?」
ラディアスは意外というような顔をしたが、即座に断った。
「母上は出掛けられたよ。それに、母上と三人でお茶とか勘弁してくれよ。それでなくても…」
ラディアスは言葉を濁し、やれやれといった顔をした。
そんなラディアスを見ながら、お土産を買ってきてくれたラディアスの思い遣りに感謝した。
それから二人はエマにお茶を準備させ、ガゼボでのんびりと話をした。
「ラディアス様、このブルーベリーや無花果のタルト、美味しいです!食べ過ぎてしまいそう…」
嬉しさと困惑を交互に表情に出すミルゼが可愛らしくて、ラディアスは癒された。
「好きなだけ食べろ。ミルゼが美味しそうに食べてくれるなら、また買って来てやる。一緒にスイーツ店に行くのもいいな!ミルゼは痩せ過ぎだ。………胸以外は……」
「ラディアス様!何を…」
閨事を思い出して、ラディアスが顔を赤らめた。
「すまない…」
釣られて赤くなったミルゼは、慌てて話題を変えた。
「き、今日は、と、とても、良いお天気ですね。薔薇が綺麗。」
「そ、そうだな。この薔薇は我が家の自慢なんだ。他家の薔薇よりも色合いが美しいと言われるしな。」
「確かに!赤と表現するには深みがあって緋色といった方が似合うかもしれませんね。」
「え…赤は赤じゃないのか…?って母上に言ったら『ラディアスには分からないわよ』って言われそうだな。ははっ。」
「ふふ、ラディアス様ったら。」
ラディアスは落ち着きを取り戻し、少し照れたように笑った。
「そう言えば、母上と仲良く話していたようだが、大丈夫だったか?なかなか厳しい人だから、ちょっと心配したのだが。」
「大奥様とお呼びしたら叱られました。」
「何!?ミルゼを叱っただと?」
ラディアスは椅子から立ち上がらんばかりに一瞬険しい顔をした。
「あっ、違うのです。『おかあさま』と呼びなさいって。嬉しかったです。優しいお顔で仰ってくださって…」
「なぁんだ、ほっとした。てっきりガミガミ言われたかと思ったよ。まあ、あれでも理不尽なことは言わない人だから、何があったら相談するといい。」
ラディアスは、アザリア夫人を実は尊敬し愛しているのだなと、その表情から察した。
「はい、そうさせていただきます。ドレスについても、プレゼントしたいと仰ってくださって…私は、あまりドレスを持っていないので、明日ラディアス様と出掛けるようにと…ラディアス様のご予定も伺わず、申し訳ありません。」
「大丈夫だよ。俺もタキシードを作りたいと思っていたし、ミルゼのドレスと色調を合わせたドレスを作ろうか。」
「お義母様は、ラディアス様の色を入れるようにと…」
「誰の妻か、はっきり示すドレスやアクセサリーを用意しよう。デザインはミルゼの好きな物を選んでくれ。妻の為なら金に糸目は付けない。」
ラディアスは本気のようだが、ミルゼのドレスはリリスには着られない。
せめてアクセサリーならば、何れリリスも使える筈とミルゼは思った。
(無駄になるような出費は、いくら公爵家でも控えなければ。特に私しか使えないような物は…)
ラディアスもアザリア夫人も二年の話をしない。
きっと二人はミルゼを思い遣ってくれているのだと感じている。
だからこそ、ミルゼは迷惑を掛けないように振る舞わねばと思うのだった。
596
あなたにおすすめの小説
パーキングエリアに置いていかれたマシュマロボディの彼女は、運ちゃんに拾われた話
狭山雪菜
恋愛
詩央里は彼氏と1泊2日の旅行に行くハズがくだらないケンカをしたために、パーキングエリアに置き去りにされてしまった。
パーキングエリアのフードコートで、どうするか悩んでいたら、運送会社の浩二に途中の出口に下ろすと言われ、連れて行ってもらう事にした。
しかし、2人で話していく内に趣味や彼に惹かれていって…
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
結婚したくない王女は一夜限りの相手を求めて彷徨ったら熊男に国を挙げて捜索された
狭山雪菜
恋愛
フウモ王国の第三王女のミネルヴァは、側室だった母の教えの政略結婚なら拒絶をとの言葉に大人しく生きていた
成人を迎える20歳の時、国王から隣国の王子との縁談が決まったと言われ人物像に反発し、結婚を無くすために策を練った
ある日、お忍びで町で買い物をしていると、熊男に体当たりされその行く先々に彼が現れた
酒場で話していると、お互い惹かれ合っている事に気が付き………
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
図書館の秘密事〜公爵様が好きになったのは、国王陛下の側妃候補の令嬢〜
狭山雪菜
恋愛
ディーナ・グリゼルダ・アチェールは、ヴィラン公国の宰相として働くアチェール公爵の次女として生まれた。
姉は王子の婚約者候補となっていたが生まれつき身体が弱く、姉が王族へ嫁ぐのに不安となっていた公爵家は、次女であるディーナが姉の代わりが務まるように、王子の第二婚約者候補として成人を迎えた。
いつからか新たな婚約者が出ないディーナに、もしかしたら王子の側妃になるんじゃないかと噂が立った。
王妃教育の他にも家庭教師をつけられ、勉強が好きになったディーナは、毎日のように図書館へと運んでいた。その時に出会ったトロッツィ公爵当主のルキアーノと出会って、いつからか彼の事を好きとなっていた…
こちらの作品は「小説家になろう」にも、掲載されています。
独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい
狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。
ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
週1くるパン屋の常連さんは伝説の騎士様だった〜最近ではほぼ毎日ご来店、ありがとうございます〜
狭山雪菜
恋愛
パン屋に勤めるマチルダは平民だった。ある日、国民的人気の騎士団員に、夜遅いからと送られたのだが…
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しています。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
毎週金曜日、午後9時にホテルで
狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。
同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…?
不定期更新です。
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる