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9.不躾な人達
しおりを挟むラディアスとミルゼが帰宅すると、応接室からアザリア夫人の声が聞こえた。
少し口調がキツい印象だ。
「母上、機嫌が悪そうだな。来客は誰だろうか?」
ラディアスは、執事のケンドリックを見つけ問い掛けた。
訪問者がチェルニエ夫人とリリスだと分かると、げんなりした顔で、小声でミルゼに言った。
「フィレンツェ侯爵夫人とリリス嬢が来ているそうだが、あの様子だと母上に用事だろうから、寝室に戻っていい?」
ミルゼは曖昧な顔で笑うと、それを承諾と思ったのか、ラディアスはにっこり笑って、ミルゼを横抱きにし、夫婦の寝室に行った。
ミルゼはラディアスの行動の意味を図りかねたが、大人しくしていた。
「ミルゼ、すまない。驚いたよな。俺、フィレンツェ侯爵夫人が苦手なんだよ。」
「そうでしたの…申し訳ありません。」
「ミルゼが謝ることじゃないだろう?それより…」
ラディアスは横抱きのまま、ミルゼに口付けた。
「俺はこっちがしたい。今日ずっと我慢してたんだ…」
ベッドに下ろされたミルゼは、更に深く口付けられ、ちゅっちゅっと舌を吸われる。
長い口付けの後、ミルゼの紅潮した顔と甘い息遣いにラディアスが微笑む。
「口付けも慣れてきたね。ミルゼの唇、ふわふわで気持ちいいんだ。」
ミルゼが恥ずかしがって俯くと、ラディアスは髪を撫でた。
二人がいちゃいちゃしていると、エマが部屋の外から声を掛けた。
「失礼致します。大奥様がお二人に応接室に来るようにと仰っています。」
ラディアスが露骨に嫌な顔をしたが、ミルゼの手を取り、応接室に向かった。
「母上、お呼びでしょうか?」
応接室に入り、ラディアスがアザリア夫人に声を掛けた瞬間、リリスがソファから立ち上がった。
「ラディアス様!お久しぶりです。」
駆け寄ろうとした時、ラディアスの後ろに居たミルゼを見つけたリリスは、苛立った表情に変わった。
「ふーん…お姉様もいらしたの。ラディアス様だけで良かったのに。ねぇ、お母様。」
「本当に。ミルゼに用は無いから。」
リリスとチェルニエ夫人の態度に、ラディアスは途端に不機嫌となり、チェルニエ夫人を一瞥した。
そして、アザリア夫人はリリスとチェルニエにはっきり言った。
「ここは公爵家であり、今ミルゼはその一員です。いくらミルゼの実家の者でも、公爵邸内で無礼は許しません。この場でそんな態度を取るようなら、社交界に出ても、きっと同じことが起こるでしょう。傍から見ると、侯爵家の人間が公爵家の人間を軽んじているようにしか見えません。今の状態を見ると、リリスの教育は捗ってらっしゃらないのね。」
「いえ、決してそのような意図ではありません!リリスの教育も、きちんと受けさせております。」
必死に言い訳するチェルニエ夫人を、アザリア夫人は鼻で笑うかのように遇らう。
「その態度で、きちんと教育を受けさせていると?指導する者がちゃんと教えているのなら、指導される側に問題があるということね?お金さえ積めば教育出来ると思うのは大間違いです。本人が努力し、身に付けてこその教育ですよ?」
「申し訳ありません。久しぶりにラディアス様にお会いして、リリスが有頂天になったようです…」
「今日は先触れもなしに、いきなり訪問されて迷惑です。何をしにいらしたか知りませんが、リリスがまともに淑女として行動出来るようになるまで、我が家への訪問はご遠慮ください。」
そこでリリスが声を上げた。
「ラディアス様に会いたかったから!」
「申し訳ありません!今日はこれで失礼致します!!」
リリスの度重なる不躾な行動に、ぎょっとして慌てたチェルニエ夫人は、リリスの腕を掴んで、応接室を出て行った。
これ以上、アザリア夫人の怒りは買いたくなかったからだ。
バタバタと足音を立てて出て行った二人を見て、アザリア夫人はやれやれと溜め息を吐いた。
「あれじゃ、教育費用をドブに捨てているようなものだわ。ミルゼ、よくあの家で頑張りましたね。あなたは努力家なのね。」
感心するアザリア夫人に、ラディアスが得意げに自慢する。
「ミルゼは凄いんだよ。母上も知ってるだろう?」
「そうね。私はミルゼを信頼出来るし。何より娘が出来て嬉しいわ。」
ミルゼは、アザリア夫人とラディアスの会話を不思議に思って見ていた。
そして、勇気を出して聞いてみた。
「あの…私は二年経ったらラディアス様と離縁して、ラディアス様はリリスと再婚なさるんですよね…?」
泣きそうな顔のミルゼの発言に、アザリア夫人とラディアスは驚きを隠せなかった。
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