【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい

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15.日常の茶番

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結婚して三ヶ月。
ミルゼは、公爵夫人の執務をアザリア夫人から学び、日常業務は卒なくこなせるようになっていた。

侯爵家に居た時から、何れは他家へ嫁ぐか、一人で生きていくかを想定していたミルゼは、家庭教師から広く学んでいた為、すんなり仕事を覚えた。

「ミルゼが居るから、仕事が楽になったわ。そろそろお茶にしましょうか。」

「はい、お義母様。」

シグネスティ公爵家は、お茶の時間が決まっている。
アザリア夫人曰く、ムキになって仕事をしている方が効率が悪く、定期的に気分転換をした方が集中出来るそうだ。

そして、徹底した業務の簡素化を図り、夜まで仕事をせずに、夕食を皆で囲み、ゆっくり過ごすのが掟だそうだ。
仕事が出来て、綺麗で優しいアザリア夫人は、ミルゼの憧れの女性であり母親である。

ミルゼがアザリア夫人の美しさに見惚れていると、お茶の準備をしながら、エマがくすりと笑った。

「大奥様、奥様、そろそろいらっしゃいますよ!」

その瞬間、ラディアスが箱を手に執務室に入って来た。

「おおっ、ちょうどお茶の時間でしたか!母上、ミルゼ、一緒に食べよう。ミルゼの好きなマロンのタルトを買ってきたんだ!!」

ラディアスは偶然を装っているが、実は皆にバレている。
ラディアスが外出する度に、ミルゼの好きなお菓子を買って、一緒にお茶の時間を過ごしたいということを。

「ラディアス様、お帰りなさいませ。いつもお土産ありがとうございます。」

「いや、たまたまだよ。たまたまミルゼの好きなやつを見つけたから。」

ラディアスは、ミルゼしか見ていない。
ミルゼもラディアスが照れた顔が大好きで、にこにこと見つめる。

「ミルゼ、美味いか?」

「はい、とても美味しいです。美味しい物をいただくと幸せな気持ちになりますね。ありがとうございます。」

「そうか、そうか。くくっ。」

ラディアスがお土産を持って帰宅し、ミルゼにお礼を言われ、デレデレになるところまでがセットだ。
それに、ラディアスが執務室に入る前に、使用人達にもクッキーをくれるが、これもミルゼのおかげだと皆で喜ぶ。
エマからすると、定例化しつつあるこの茶番は、公爵家の平和を物語っていると感じている。

ちなみに、素直なミルゼは本当に偶然だと思っており、アザリア夫人は息子のくせに、一度も母の一番好きなお菓子を買って来ないと内心では思っている。
それでも、仲の良いラディアスとミルゼを見るのは楽しいのだ。

エマが執務室の隅で、ほのぼのとその光景を見ていると、アザリア夫人が真面目な顔で話し出した。

「ところで、ミルゼが我が家に来て三ヶ月だし、パーティを開く時期でもあるし、今回はラディアスとミルゼで準備する?」

「ああ、そんな時期でしたね。父上も帰って来るようだし。ミルゼは公爵家主催のパーティは初めてだから、一緒に準備しようか。」

「えっ?ハディウス、帰って来るの?」

「父上から手紙来てましたよ、俺には。」

「全く…あの人は…」

ラディアスの父、ハディウス・シグネスティ公爵は、外交を得意としており、結婚式に参列し、すぐに仕事の為に他国に行ってしまった。
それ以前も殆ど家に居ないので、ミルゼは挨拶程度しか話したことがなかった。

「お義父様は、今回はお家に長く居られるのですか?」

「染物事業も上手くいったし、調べたいことは分かったから、しばらく家に居るようなことは手紙に書いてあったよ。」

「そうなのですね。外国のお話とか聞けたら楽しいですね。でも…父のことでご迷惑をお掛けしていたら、申し訳ありません…」

「それは気にしなくていいのよ。私もハディウスも、やりたくないことはやらないし。逆に、やりたいと思えば、手間暇掛けてまでやる人間だから。例えば、ミルゼをうちの子にしたこととか。ねっ?ラディアス。」

「そうそう。母上も父上も、やるべきことの時を待っているのさ。だから、ミルゼは心配するな。ミルゼが悲しむようなことにはならない。」

ミルゼは、アザリア夫人とラディアスは、やっぱり親子だなぁと思った。
こういう話の時、顔付きがそっくりだ。
そこに更に、ハディウス公爵が加わる。
セルジオ侯爵も皆の手を借りて、どうか幸せになって欲しいとミルゼは思った。

そしてミルゼは、この公爵家に誠心誠意尽くして、守られるだけでなく、自分も皆を幸せにすると心に誓った。
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