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28.おばあさま
しおりを挟むセルジオとエマが話している間、ミルゼとラディアスは、グレイスと公爵家の庭園でお茶を飲んでいた。
通年咲き誇る薔薇が美しかったからだ。
「相変わらず、ここの薔薇は綺麗だね。アザリアが好きな花だし、真冬以外は何かしら咲いているわね。」
グレイスは、懐かしそうに薔薇を眺めた。
「ところで、ラディアス。ミルゼと上手くいっているようだけど幸せかい?」
「はい、長年の想いが叶って幸せですよ。ミルゼ、可愛いでしょう?公爵家の執務も母上に教わって、もう完璧なんだ。」
「そうなのね。良い子を娶ったね。」
グレイスとラディアスの会話を照れ臭くもあり、微笑ましくもあり、見ているミルゼはほんわかした気持ちだった。
「お義祖母様、こちらから出向いて、もっと早くお会いする予定でしたのに、申し訳ありません。でも、お話出来て嬉しいです。ラディアス様から楽しい方だと伺っていましたので。」
グレイスはミルゼの手を取って微笑む。
「私こそ、ラディアスからはミルゼを連れて会いに行きたいと手紙をもらっていたのだけれど、なかなか日程が合わなくてね。ごめんなさいね。でも、思い切って来てみて良かったわ。孫の危機も救えたし、もしかしたら、養子も迎えられるかもしれないし?」
「そうだったのですね…でも、その代わりにラディアス様が助かったのですから、これは神様の思し召しかもしれません。それに、養子とはエマのことですよね?エマは優しいし頼りになるし、お父様と良いご縁になるといいなと思います。」
「ミルゼは心が広いのね。地位や名声より、ミルゼは人柄を見る子なのね。」
「そうだよ、お祖母様。ミルゼの良いところは、優しくて差別のないところなんだ。だから、使用人達にも好かれてる。まあ、エマが一番のファンだろうけどな。俺には負けるけど!」
グレイスは、ラディアスのミルゼ自慢が始まると長そうなので、話題を変えることにした。
初恋のミルゼの話は、ラディアスが幼い頃から耳タコで聞いていたからだ。
「そう言えば、チェルニエ達の裁判て、来週から始まるのよね?帝国でも異例の最速で始まるらしいけど、結審も早いと噂になっていたわ。私の耳にも入る位だから、証拠はバッチリなのね?」
「父上とセルジオ侯爵が、ぐうの音も出ないほど、がっつり抑えています。それと、ここだけの話ですが、レオポルトをラギラス商会に潜入させていました。レオナルドとチェルニエの息子ではありますが、リリスなんか比べものにならないほど、賢い子のようです。父上とセルジオ侯爵は、レオポルトは救済したいようです。」
ミルゼは、弟のレオポルトまで関わっていたことを初めて知り、また驚いた。
「レオポルトが…」
殆ど会話をしたことがない、弟だと思っていた他人。
無口で何を考えているか分からなかったが、リリスと一緒にミルゼに嫌なことを言うこともなく、ただ同じ邸に暮らしていた子。
「レオポルトはね、何となく自分がセルジオ侯爵の子ではないと気付いていたんだ。でも、子どもの自分が何かを出来る気がしなくて、チェルニエとレオナルドの動向を伺う為に、ラギラス商会で会計士をしていたんだ。我が家の影としてね。」
「影…要はスパイですよね?実の父親の商会で…」
「最初は、何処に行っても役立つ知識を身につけようとしていたらしいが、違法な薬の取り引き帳簿を発見して、セルジオ侯爵に相談したそうだ。そこからは、セルジオ侯爵の味方になり、父上と会ってシグネスティ公爵家の影として採用されたそうだ。俺もさっき聞いた話だが、レオポルトは聡明な子みたいだな。」
「あら!レオポルトにそのまま商会を任せるのも面白いし、セルジオとチェルニエが離縁したら、フィレンツェ侯爵家の嫡男にはなれないから、私がエマと一緒に養子にしてもいいわよ?爵位はいくつか持ってるしね。有能な子なら私は構わないわ。」
ミルゼは、自分の知らないことが多過ぎて、情けない気持ちになった。
結局は、家族だと思っていた人達のことを知らな過ぎた。
それなのに、グレイスからは、ぽんぽん案が出てきて、身分に甘えず広い視野で生きてきた人には、やっぱり敵わないなと思う。
「私は…自分のことだけ…でしたね。何も気付かず、知らされず。守られているだけで、本当に情けないです…」
肩を落とすミルゼに、グレイスが優しく言った。
「皆に守られるミルゼが素敵だと、私は思うけど?意図を知らされていなくても、セルジオの『ミルゼが一人でも生きていけるように学ばせたい』という気持ちは叶っているし。それすら出来ずに、リリスのように育ってしまう子もいる。ミルゼが何もしてこなかった訳ではないわ。ミルゼの努力する姿に、うちの孫はデレデレになったんでしょう?」
「ぐふっ、ごほっ、ごほっ、んぐっ!お、お祖母様!」
突然話に出されて、ラディアスがお茶を吹いた。
グレイスは笑いながら、ミルゼの頭を撫でた。
「ミルゼは、ミルゼのままで居てちょうだい。ラディアスはミルゼの為なら何でもするわ。それが汚れ仕事であろうとも。」
お茶に咽せながら、うんうんと頷くラディアスに、ミルゼは明るい笑顔で応えた。
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