【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい

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33.光

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ミルゼの懐妊後、ラディアスの過保護っぷりが急加速した。
最初はミルゼを横抱きして移動していたが、流石にお腹が大きくなると、何処に行くにも手を繋ぎ、腰に手を添えるようになった。

「うっかり転んだら大変だ。執務は母上に任せて、俺はミルゼの傍に居る!」

次期公爵とは思えない発言だが、何故かそれがまかり通る公爵家なのだ。
寧ろアザリア夫人は、気合が入った仕事振りだ。

そうして、ラディアスの優しさに包まれて過ごす日々を送り、いよいよミルゼの出産の日を迎え、丸一日掛かったが無事に男の子が産まれた。

出産中、部屋の中には入れたのは、エマだけで、エマは新しい命の誕生に、尊さや強さや愛おしさが混ざった不思議な感情に、ただただ感動した。

ラディアスはおくるみに包まれた我が子とミルゼに、ひたすら「ありがとう」と繰り返し、母子共に無事であったことを神に感謝した。

シグネスティ公爵家一同と駆け付けたセルジオやグレイスにより、邸内はしばらくお祭り騒ぎだった。
とは言え、ミルゼをゆっくり休ませたい為、寝室から一番遠い部屋で主従関係なく祝杯を上げる気配りは忘れない。

皆からのお祝いの言葉をひと通り受けた後、ラディアスとミルゼは二人きりの時間を過ごした。

「出産て、大変なんだな…痛みに耐えてくれて、ありがとう。無事に産んでくれて、ありがとう。」

ミルゼは、ふふっと笑ったが、その顔は出産後で疲れている筈なのに、一人の女性として凛とした美しさがあった。

「ラディアス様、無事に産める環境やお心遣いをありがとうございます。確かに痛みは想像以上でしたが、不安はありませんでした。」

「そう言ってもらえたら嬉しいよ。べったりし過ぎって、皆に笑われたからなぁ。」

「それは、いつものことですよ?そんなラディアス様が大好きです。」

はにかみながらラディアスの胸にもたれ掛かり、ミルゼはすっと眠りに落ちた。
その寝顔を見て、ラディアスもミルゼをまた愛おしく思った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


産まれた子は、ルミエールと名付けられた。
この子にも希望の光が射すようにと、ラディアスとミルゼで考えたものだ。

ミルゼにとって、孤独を照らす唯一の光がラディアスだったように。
ラディアスにとって、人生の殆どがミルゼへの恋だったように。
お互いがお互いを照らす光だった。
我が子にも、そんな運命的な出会いがありますようにと願いを込めた。

そしてルミエールがよちよち歩き出した頃、セルジオとエマが結婚した。
エマの「奥様が無事に出産されたら」という希望を叶えての結婚式だった。

その後、ラディアスとミルゼは一男三女を、セルジオとエマは二男を授かり、シグネスティ公爵家とフィレンツェ侯爵家は、結果的に強固な繋がりと、仲の良い大家族になった。

大人になったレオポルトも、良き伴侶を見つけ、グレイスの配慮で伯爵となり、今ではセルジオの片腕として活躍し、二女の父となった。

そして、それを見届けるかのように、グレイスは静かに息を引き取り、皆の心にあたたかく優しい記憶だけを遺した。

残念ながら、チェルニエやリリスのその後を知る者は居ない。
影からの報告があったとしても、危険でなければハディウスは誰にも言うつもりはない。
そんなことに構うより、目の前の家族を幸せにすることの方が、いつもハディウスには重要だから。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


こうして、ミルゼは二年間、エマは媚薬が解毒出来るまでの三日間、『期間限定の妻』だと思っていた二人だが、家族となり、お互いの夫に甘やかされ蕩けさせられる妻となった。

ラディアスは相変わらず、偶然を装いミルゼとお茶の時間を過ごしたり、セルジオは外交を控えてエマと過ごす時間を増やしたり、それぞれに伴侶を大切にしている。

そして毎年、家族でミルゼの亡き母フォンティーヌのお墓参りをしている。
これはエマが言い出したことだった。
ミルゼと出会い、セルジオと夫婦になり、どうしてもこれだけは報告し、フォンティーヌの魂を受け継ぎたいと願い出たからだ。

そんなエマの意思は、もちろん皆の心にも自然と染み渡った。
人から見れば些細なことを、当たり前に行動する姿勢は必要だ。

この後も、家族を大切にし、それぞれの子ども達も両親の愛情をたっぷり受けて幸せに暮らした。

命には限りがあり、産まれる者がいれば去り行く者もいる運命だが、僅かな光を頼りにその命を輝かせることは誰しも出来る筈だ。
俯かずに前を向いていたら、きっとその光に気付くと信じて。


【完】



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ここまでお読みいただき、ありがとうございました❣️
これにて完結となります😊

この後、9時から連載スタートします💡

タイトル
二年契約の婚約者がグイグイ迫ってきます

こちらも3時間毎の更新となります

また、短編も不定期に公開しています
さくっとお読みいただけるかと😋

隙間時間に覗いていただけましたら幸いです🙇‍♀️

いつもありがとうございます💗☺️💗
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