【本編完結・新章スタート】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい

文字の大きさ
94 / 97
今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜

4.ヴェリティ嬢がやって来た

しおりを挟む

母のファビオラ夫人との話から十日後、質素なトランク一つでヴェリティ嬢がエヴァンス公爵家を訪れた。
ドレスは、あの日に着ていた物と同じだった。

(くそぉ、ワーグナー伯爵家め!ヴェリティ嬢にドレスも誂えないなんて!!呪ってやる!)

僕は、一人怒りに震えつつ、母の執務室に行った。
そこには、緊張したヴェリティ嬢がソファに腰掛けていた。
そして、僕を見ると立ち上がった。

「エヴァンス公子様、ご機嫌麗しゅう存じます。
あの時は、通りすがりの私に、薔薇の髪飾り、ありがとうございました。」

「あの日は助かりました。でも、迷子になるなんてと、母上や父上には叱られました…あははは…」

ヴェリティ嬢がくすりと笑い、僕は怒りも忘れて、テンションが上がりまくりだ。

「ヴェリティ嬢、お座りなさい。私は、ファビオラ・エヴァンス、隣はグラナード・エヴァンスよ。」

「初めまして、公爵様、公爵夫人様。」

ヴェリティ嬢は、美しいお辞儀をしてからソファに座り直した。

「ワーグナー伯爵から、我が家の侍女として働いてもらうことは聞いているわね?」

「はい。よろしくお願いいたします。」

「それでね、あなたにはエミリオン付きの侍女を頼みたいの。
あなたも察しているとは思うけど、迷子になるようなおっちょこちょいなところがあってね。
だから、しっかりエミリオンを見て欲しいの。」

「畏まりました。精一杯、公子様にお仕えいたします。よろしくお願い申し上げます。」

「こちらこそ、お願いね。」

その場の雰囲気から、母がヴェリティを気に入ったような気がして、僕は嬉しかった。

「母上、ヴェリティ嬢に邸を案内してもいいですか?」

「そうね、初日だし、そうしてちょうだい。」

「はい!ヴェリティ嬢、参りましょう!!」

「公子様、よろしくお願いいたします。」

僕は、ヴェリティ嬢を連れて執務室を出た。

「あっ、あの、公子様…」

「ん?なぁに?」

「私のことはヴェリティとお呼びください。」

「じゃあ、僕のことはエミリオンて呼んで?」

「エ、エミリオンさ、ま…」

「うん、それでいい。ヴェリティ、行こうか!」

僕はヴェリティの手を握って、公爵邸内を隈なく案内した。
広い邸内で、ヴェリティとデートをしているようで、僕は浮かれていた。
ヴェリティの立場など何も考えずに。
翌日、僕は自分の愚かさを悔やむ羽目になるとは思いもしなかった。
しおりを挟む
感想 246

あなたにおすすめの小説

許すかどうかは、あなたたちが決めることじゃない。ましてや、わざとやったことをそう簡単に許すわけがないでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者を我がものにしようとした義妹と義母の策略によって、薬品で顔の半分が酷く爛れてしまったスクレピア。 それを知って見舞いに来るどころか、婚約を白紙にして義妹と婚約をかわした元婚約者と何もしてくれなかった父親、全員に復讐しようと心に誓う。 ※全3話。

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

妹の方が良かった?ええどうぞ、熨斗付けて差し上げます。お幸せに!!

古森真朝
恋愛
結婚式が終わって早々、新郎ゲオルクから『お前なんぞいるだけで迷惑だ』と言い放たれたアイリ。 相手に言い放たれるまでもなく、こんなところに一秒たりとも居たくない。男に二言はありませんね? さあ、責任取ってもらいましょうか。

【完結】元サヤに戻りましたが、それが何か?

ノエル
恋愛
王太子の婚約者エレーヌは、完璧な令嬢として誰もが認める存在。 だが、王太子は子爵令嬢マリアンヌと親交を深め、エレーヌを蔑ろにし始める。 自分は不要になったのかもしれないと悩みつつも、エレーヌは誇りを捨てずに、婚約者としての矜持を守り続けた。 やがて起きた事件をきっかけに、王太子は失脚。二人の婚約は解消された。

公爵令嬢ローズは悪役か?

瑞多美音
恋愛
「婚約を解消してくれ。貴方もわかっているだろう?」 公爵令嬢のローズは皇太子であるテオドール殿下に婚約解消を申し込まれた。 隣に令嬢をくっつけていなければそれなりの対応をしただろう。しかし、馬鹿にされて黙っているローズではない。目には目を歯には歯を。  「うちの影、優秀でしてよ?」 転ばぬ先の杖……ならぬ影。 婚約解消と貴族と平民と……どこでどう繋がっているかなんて誰にもわからないという話。 独自設定を含みます。

次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛

Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。 全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

新妻よりも幼馴染の居候を優先するって、嘗めてます?

章槻雅希
恋愛
よくある幼馴染の居候令嬢とそれに甘い夫、それに悩む新妻のオムニバス。 何事にも幼馴染を優先する夫にブチ切れた妻は反撃する。 パターンA:そもそも婚約が成り立たなくなる パターンB:幼馴染居候ざまぁ、旦那は改心して一応ハッピーエンド パターンC:旦那ざまぁ、幼馴染居候改心で女性陣ハッピーエンド なお、反撃前の幼馴染エピソードはこれまでに読んだ複数の他作者様方の作品に影響を受けたテンプレ的展開となっています。※パターンBは他作者様の作品にあまりに似ているため修正しました。 数々の幼馴染居候の話を読んで、イラついて書いてしまった。2時間クオリティ。 面白いんですけどね! 面白いから幼馴染や夫にイライラしてしまうわけだし! ざまぁが待ちきれないので書いてしまいました(;^_^A 『小説家になろう』『アルファポリス』『pixiv』に重複投稿。

処理中です...