76 / 93
空は遠く 76
しおりを挟む
「誰にもなびかなかった優等生の成瀬くんがついに陥落って、学校中の女どもが嘆いてんぜ」
「彼女は俺と何の関係もないし、第一、自分のつき合ってる子のことをそんな風に人前で言うな!」
さらにふざけた言葉を投げかける力を佑人は睨みつける。
「今さら優等生ぶるこたないだろ? 俺らの前で」
力の忌々しげな言葉は容赦なく佑人を痛めつける。
「いい加減にしろよ! 力!」
キレた坂本は力の胸ぐらを掴む。
坂本がどう佑人を庇ってくれようと、当然、彼女を佑人にとられたなんて、噂にせよ力はムカつくに決まっている。
おまけに相手が佑人だったら尚更だ。
それなのに、実は佑人が好きなのは力だなんて、滑稽極まりない。
やはり、と佑人はここに自分がいるのがおかしいのだと再確認する。
もともと自分の居場所ではないのだ。
ちょっと調子に乗りすぎたのだ。
ほんの少し、仲間になれたような気になったりして。
佑人は立ち上がって踵を返す。
「おい、言い返しもしねぇで、敵前逃亡かよ! 言いてぇことがあんなら言えよ!」
力の言葉がまだ背中に追いかけてくる。
「ちょ、成瀬って!」
階段を駆け下りた佑人に踊り場で追いついた坂本は、佑人の腕を掴んで引き留めた。
「あんなやつの言うことなんか、気にするこたない。いつものことだろ? ああいうやつなんだ」
「でもまた、嫌われた」
「え………」
「わかってる。あいつは最初から俺が目障りだったんだ。なのにまた同じクラスになったり、そんな俺が彼女と変な噂たてられたり、ムカついて仕方ないんだろ」
坂本はもの言いたげな顔で佑人をじっとみつめた。
「俺がいるとみんなも面白くないだろ。坂本にも気を使わせてすまない」
「俺は……気を使ってるわけじゃない。成瀬と一緒にいたいし……」
「ありがとう、坂本」
佑人は静かに腕を離し、坂本に背を向けた。
何か、これって小学校の時と同じシチュエーションだな。
あの時から全然、変わってないってことだ。
山本との間にある大きな隔たりはちっとも縮まっちゃいないんだ。
俺ってバカ。
どうせなら徹底的に嫌われた方がいいなんて、負け惜しみ。
同じシチュエーションでも、今の方がきつい。
ずっと………。
昨夜、ラッキーと散歩していた時は満天の星空だったのだが、朝になると空は灰色の雲に覆われていた。
昼近くなる頃から雨が降り出し、季節はいよいよ梅雨に突入したようだ。
雨は苦手だな……
佑人は窓に目をやって心の中で呟いた。
梅雨寒というところだろうか、今日は半袖だと少し過ごしづらい。
中間テストも終わると、しばらく静かだった校内は球技大会を間近にして、俄かにざわめいていた。
といっても、三年生は受験の重みを感じ始めた頃で、例年、特に理系クラスは今一つ盛り上がりに欠ける。
だが今年は、一年、二年と部活に参加しているわけでもないのにそういうイベントでは何故か大活躍してきた山本力がいるというわけで、三年Eクラスは月初めに発行された新聞部の優勝候補予想に名を連ねていたし、そのサイトのコラムでも昨年の球技大会のようすがアップされていた。
いくつかの競技種目においてクラス別対抗となっていて、それぞれの勝ち点の合計で勝敗が決まり、各種目ごとだけでなく、総合優勝のクラスには生徒会から賞品が出ることになっている。
一年生でも運動部に参加している者もいるし、ハンディは一切ない。
ついこの間生徒会選挙で新しく生徒会長に就任した二年の山口は明るい積極的なタイプで、生徒会自体もどんなイベントも盛り上げていこうというやたら元気な姿勢を見せている。
中学の時、体育の時間でさえ一緒にやるのをクラスメイトに拒否られてから、チームプレイが必要な競技は佑人はどうしてもダメだった。
二年までクラスメイトにはうまい具合に運動音痴だと思われていたお蔭で、体育などでも極力参加しないで逃れてこられたし、球技大会は大概活躍しそうなメンツをそれぞれの競技に選抜するだけで、あとは応援や審判に回ればよかった。
ところが今年の球技大会は、生徒会長の掲げた今回のスローガンが「全員参加」とあるように、一人一種目は必ず出場することになっていて、そこは受験生である三年生に対しても容赦ないという。
「なーに、頑張っちゃってんだろな、生徒会長、頼むよ。辛い受験生の立場もちょっとは考えてくれよ」
ホームルームで球技大会の議題を前に、教壇に立った委員長の甲本がのっけから文句を口にした。
「甲本、去年なんかイベント軒並み張り切りまくりだったじゃない」
ビシッと切って捨てたのは隣に立つ副委員長の内田だ。
二人は二年の時同じクラスで、始めから割と親しげだったから最初内田と噂されたのは甲本だったのだが。
「あとは、大会運営委員から説明があります」
どちらかというと球技大会が終わるまではクラス委員などよりずっと大変な運営委員もまずなり手がなく、結局甲本が同じクラス出身でやはり同じ医学部志望の田淵を勝手に指名した。
「とにかく、今年は全員参加ということで、男女とも一種目テニスが増えたので、各自いずれかの競技に参加するように。各競技の優勝クラスと総合優勝クラスには豪華賞品が出ます。それ以外にも競技時間外では審判や係員も決めます。えー、女子はソフトボール、バレーボール、テニス、男子はサッカー、バスケ、バレー、テニスなんで、女子は十二人だから参加競技は話し合って決めてください。男子はまず、希望者を募るか」
正直、佑人は球技大会など欠席したい気分だった。
「彼女は俺と何の関係もないし、第一、自分のつき合ってる子のことをそんな風に人前で言うな!」
さらにふざけた言葉を投げかける力を佑人は睨みつける。
「今さら優等生ぶるこたないだろ? 俺らの前で」
力の忌々しげな言葉は容赦なく佑人を痛めつける。
「いい加減にしろよ! 力!」
キレた坂本は力の胸ぐらを掴む。
坂本がどう佑人を庇ってくれようと、当然、彼女を佑人にとられたなんて、噂にせよ力はムカつくに決まっている。
おまけに相手が佑人だったら尚更だ。
それなのに、実は佑人が好きなのは力だなんて、滑稽極まりない。
やはり、と佑人はここに自分がいるのがおかしいのだと再確認する。
もともと自分の居場所ではないのだ。
ちょっと調子に乗りすぎたのだ。
ほんの少し、仲間になれたような気になったりして。
佑人は立ち上がって踵を返す。
「おい、言い返しもしねぇで、敵前逃亡かよ! 言いてぇことがあんなら言えよ!」
力の言葉がまだ背中に追いかけてくる。
「ちょ、成瀬って!」
階段を駆け下りた佑人に踊り場で追いついた坂本は、佑人の腕を掴んで引き留めた。
「あんなやつの言うことなんか、気にするこたない。いつものことだろ? ああいうやつなんだ」
「でもまた、嫌われた」
「え………」
「わかってる。あいつは最初から俺が目障りだったんだ。なのにまた同じクラスになったり、そんな俺が彼女と変な噂たてられたり、ムカついて仕方ないんだろ」
坂本はもの言いたげな顔で佑人をじっとみつめた。
「俺がいるとみんなも面白くないだろ。坂本にも気を使わせてすまない」
「俺は……気を使ってるわけじゃない。成瀬と一緒にいたいし……」
「ありがとう、坂本」
佑人は静かに腕を離し、坂本に背を向けた。
何か、これって小学校の時と同じシチュエーションだな。
あの時から全然、変わってないってことだ。
山本との間にある大きな隔たりはちっとも縮まっちゃいないんだ。
俺ってバカ。
どうせなら徹底的に嫌われた方がいいなんて、負け惜しみ。
同じシチュエーションでも、今の方がきつい。
ずっと………。
昨夜、ラッキーと散歩していた時は満天の星空だったのだが、朝になると空は灰色の雲に覆われていた。
昼近くなる頃から雨が降り出し、季節はいよいよ梅雨に突入したようだ。
雨は苦手だな……
佑人は窓に目をやって心の中で呟いた。
梅雨寒というところだろうか、今日は半袖だと少し過ごしづらい。
中間テストも終わると、しばらく静かだった校内は球技大会を間近にして、俄かにざわめいていた。
といっても、三年生は受験の重みを感じ始めた頃で、例年、特に理系クラスは今一つ盛り上がりに欠ける。
だが今年は、一年、二年と部活に参加しているわけでもないのにそういうイベントでは何故か大活躍してきた山本力がいるというわけで、三年Eクラスは月初めに発行された新聞部の優勝候補予想に名を連ねていたし、そのサイトのコラムでも昨年の球技大会のようすがアップされていた。
いくつかの競技種目においてクラス別対抗となっていて、それぞれの勝ち点の合計で勝敗が決まり、各種目ごとだけでなく、総合優勝のクラスには生徒会から賞品が出ることになっている。
一年生でも運動部に参加している者もいるし、ハンディは一切ない。
ついこの間生徒会選挙で新しく生徒会長に就任した二年の山口は明るい積極的なタイプで、生徒会自体もどんなイベントも盛り上げていこうというやたら元気な姿勢を見せている。
中学の時、体育の時間でさえ一緒にやるのをクラスメイトに拒否られてから、チームプレイが必要な競技は佑人はどうしてもダメだった。
二年までクラスメイトにはうまい具合に運動音痴だと思われていたお蔭で、体育などでも極力参加しないで逃れてこられたし、球技大会は大概活躍しそうなメンツをそれぞれの競技に選抜するだけで、あとは応援や審判に回ればよかった。
ところが今年の球技大会は、生徒会長の掲げた今回のスローガンが「全員参加」とあるように、一人一種目は必ず出場することになっていて、そこは受験生である三年生に対しても容赦ないという。
「なーに、頑張っちゃってんだろな、生徒会長、頼むよ。辛い受験生の立場もちょっとは考えてくれよ」
ホームルームで球技大会の議題を前に、教壇に立った委員長の甲本がのっけから文句を口にした。
「甲本、去年なんかイベント軒並み張り切りまくりだったじゃない」
ビシッと切って捨てたのは隣に立つ副委員長の内田だ。
二人は二年の時同じクラスで、始めから割と親しげだったから最初内田と噂されたのは甲本だったのだが。
「あとは、大会運営委員から説明があります」
どちらかというと球技大会が終わるまではクラス委員などよりずっと大変な運営委員もまずなり手がなく、結局甲本が同じクラス出身でやはり同じ医学部志望の田淵を勝手に指名した。
「とにかく、今年は全員参加ということで、男女とも一種目テニスが増えたので、各自いずれかの競技に参加するように。各競技の優勝クラスと総合優勝クラスには豪華賞品が出ます。それ以外にも競技時間外では審判や係員も決めます。えー、女子はソフトボール、バレーボール、テニス、男子はサッカー、バスケ、バレー、テニスなんで、女子は十二人だから参加競技は話し合って決めてください。男子はまず、希望者を募るか」
正直、佑人は球技大会など欠席したい気分だった。
4
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
僕を守るのは、イケメン先輩!?
刃
BL
僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる