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第2章 魔王と聖女
25 幌馬車って西部劇っぽくてテンション上がるけど、楽しいのは初めだけ。
しおりを挟むーーーガラガラ・・・
町を離れて何も無い道を幌馬車に乗り揺られながら進んで行く。
最初の町から少し離れると土の質や、生態系が少し変わり始める。
セイは異世界に来て初めて最初にいた町を離れた。
自然の中も異世界は見た事のない植物に溢れ興味深く、シロを抱えて外を眺める。
シロは見た事のない動物を見かけると、口を開け驚いた後は威嚇する様にぱこんぱこんと口を開閉し動物の姿が見えなくなると、左右上下に身体を揺らしながら楽しそうに見ている。
自然の香りと風景に可愛いシロ、勝手にセイの口元は緩んでいく。
セイが住んでいた所は地方だったが車の交通量もそこそこ多く、ここまで田舎では無かったので自然の空気がとても美味しく肺いっぱいに空気を何度も吸い込んでいる。
今幌馬車には、商業ギルド長と俺たちパーティーの6人+1匹が乗っている。
冒険者ギルド長はフィレックスの移送や変質者の事で、火急の用向きとして先に王都へ向かったらしい。流石に王都まで俺らだけで行くのは色々と困るだろうと、商業ギルド長がついて来てくれる事になったそうだ。いやいや、あんたがついて来て証言してくれないとミラの支援魔法に使った金貨回収出来ないじゃん。危なかっよ!!それに行きの諸経費も奢ってもらう気満々だからね?・・・まぁ、王都までのお金さえ貰えればついて来なくても全然良かったって事は言わないけどさ?
町の復興はギルド長達がいない間は町長が陣頭指揮取るって言ってたんだけど、町長あの町いたんだね?ってそれ聞いて思ったよ。
一回も会わなかったな・・・。どんだけ影の薄いやつだったんだ?
ーーーガラガラガラガラ・・・
「・・・言い難い事なのだが、君達は知っていた方が良いだろう。冒険者のフィレックスは領主の館にいた領主夫妻や使用人含め31人を禁術の生贄として全員殺害していた。それからフィレックスが捕縛された事により、今まで領主によって隠されていた息子の悪事についても同時に調査していく事になった。恐らく【暗黒竜に使えし四天王】のパーティーについても調べが及ぶだろう。君達の元パーティーメンバーの事も時期に公になるだろうから、そのつもりでいて欲しい。ーーーーー今まで犯罪が放置されていた事、町の人間として心より詫びる」
「「「っっ!?」」」
ギルド長の話はセイ以外の無慈悲なる運命のパーティーメンバー全員が息を呑んだ。セイとしては「領主が死んで息子が捕まって、やっと国は重い腰を上げたんだな」・・・と、ため息をする程度の感想であった。しかし、メンバー達はずっと体内の中心に重くのしかかっていた蟠りであったので、本来当たり前の事であっても女神に感謝する程に幸運を感じていた。
「・・・う、うぅっっよがっだ・・・よがっだ・・・よぅ・・・」
「えでぃ、きっと喜んでくれるよね・・・?」
「ーーー当たり前じゃ無いの!・・・でも時間がかかり過ぎって呆れているかも、ね?」
アクスは声を殺してみんなに背を向けて泣いていた。
アクスはずっとみんなを支えていたから気を張っていたけど、その必要が無くなったからやっと隠していた悲しみや苦しみを出せるようになったんだろう。アクスはずっと一人で崩壊しそうなパーティーを繋ぎ止めていたんだから、これからはもっと自由に冒険者活動を楽しめるようになって貰いたいと思う。
まぁ、俺は流石に以前のパーティーメンバーには会った事もないから、この雰囲気からの疎外感は否めないな。空気になって落ち着くまで静かにしていよう。
俺は空気が読める男だからね!
セイは静かに流れていく景色を見ながらシロを撫でていると、背中に何かがぎゅっとくっついて来た。
驚いたセイが後ろを振り返ると泣きすぎて目を赤くしたマリアがくっついていた。
「え?どうしたの?マリア?」
「・・・セイさんのお陰だもん!」
「ん?」
「ーーセイさんが来てから僕の心の中に降っていた雨がね、止んだの!!」
「んん??」
「だから僕、セイさんの事大好きっっ!!!」
「・・・え?ま、まぁそうだな俺もマリアの事好きだぞ?」
「・・・本当?」
「うん。本当だよ」
「僕すごく嬉しいっ!!みんなセイさんは僕の事好きなんだよー」
友情の話だよな?と変な不安が過り、何が正解かが分からずに内心冷や汗をかいているとアクスも俺の肩に腕を掛けて来た。・・・んん??もしかして俺の貞操の危機的なやつ!?なにこれ野郎に野郎のハーレムってハーレムじゃねぇからな!?ただの危機感しかねぇよ!!・・・・・・もしかして、普通に異世界転移したと思ってたけど、BLゲームとかに転移してないよな???
急に余計な不安が押し寄せて来た。
ん?そういうゲームとかなら恐らく男子校とか、野郎ばっかしか出てこない世界なんじゃないか?憶測だから断言出来ないけどミラとユリアナが女なら可能性は低いか?んん・・・まさかミラとユリアナ2つの性を持っているとか言わんよな??
ーーどっちの線か分からんが取り敢えずこれからはケツを守って生きていこう・・・。
「俺もセイの事大好きだぜ!!」
「あ、兄貴!?俺も兄貴の事最初から好きだったけど・・・」
「お?相思相愛じゃねーかっっ!!」
アクスさん!?その微妙に頬を染めるのやめて貰えません!?照れる位なら好きとか言わないで欲しいんですけど!?この二人がやっぱメインヒロインとサブヒロインって括りなのか??頑張れよ!!ミラとユリアナ!!お前らのヒロイン力男に負けてんぞ!?そして何「みんなで冒険できる様になって良かったね」って感じの顔でこっち見とんねん!!!お前ら2人共、男にヒロイン力も女子力も負けてて恥ずかしくねーのか!?そりゃ、マリアは容姿もヒロイン力も女子力も完璧メインヒロインだし、アクスもお姉さんサブヒロイン枠の様な感じだけど・・・。
もしかして、俺がこの世界で彼女作ろうとしたら旅で会った女性口説かなきゃならんくないか?元の世界でナンパなんかした事ないからめちゃくちゃハードル高いし!!
「セイさんお膝に座るの」
この世界での恋愛に絶望を感じていたセイの脚をマリアがツンツン指で突く。
「ん?あぁ厚い敷物無いもんな。ほら、おいで」
円座とかあると良いけど無いから馬車の揺れでケツが痛いもんな。
マリアは軽いから膝に乗せても大して痺れないからな。
セイはシロを横に移動させマリアを膝の上に乗せる。さながら仲の良い親子である。
しかし顔は全く似ていない。
マリアは相変わらず軽くてセイは心配になる程だ。
ちゃんと好き嫌いせずに食ってるか聞いたりと、セイはマリアと仲良くおしゃべりに夢中である。
カックスギルド長は戦闘の疲れが溜まっていたのか仮眠をしている。
そして、セイとマリアから少し離れた場所でミラ達は固まって小声で話をしていた。
「...なぁ...セイって...人間だよな...」
「...う、うん...多分そうだと思うんだけど...」
「...年齢って誰か聞いた事あったか?...」
「...聞いた事ないけど15歳~18歳って所かしら?...」
「...だよな...。誰かリーダーの年齢セイに言ったか?...」
「...言ってないよ?って言うかお互いの年齢確認なんかほとんどしないよぉ...」
「...誰かリーダーの年齢セイに教えてやらないとマズイだろ...」
「...確かにセイさん年齢知らないから抱っこしている節ありますよねぇ...」
「...結構甘やかしているものね...」
「...言い難いな...43歳だって...」
「「...うん...」」
セイの近くでとんでもない衝撃の事実が話されていた。
そして、3人は言い難く相手に押し付け合い結局セイに伝える事は出来なかった。
この時誰も教えなかった事によりセイはしばらくの間、見かけは天使なおっさんを甘やかし続けることになった。
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