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第2章 魔王と聖女
29 ホラー映画は客観的なら楽しめるけど実際遭ったら楽しめない。
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ーー
ーーガタンッッ!!ゴンッッ!!!ガンッガラガラ・・・
「ひっ!ーーひぃっっっっ!!だれがっ!!だれがっっっ!!!」
冒険者の中年の男が転げる様に路地を逃げ回る。
男は追って来る者が追いかけにくい様に、障害物を作るために路地にある物を片っ端から倒し路地裏は嵐が去った後の様である。
うるさい音を立て続けているが日中であるにもかかわらず、奥まった路地に人の気配は全くなく誰も気付く様子はない。
ーーーガラガラ・・・ガラガラ・・・
何か金属を引きずる音が男をゆっくり追っていく。
逃げても逃げても音は気付けばすぐ後ろに聞こえて来る。
ーーーガラガラ・・・ガラガラ・・・
「そ、そんなっっっ!?ーー頼むっっ!許してくれっっっ!!ちょっと魔が差しただけなんだよっ!!金、金はあるだけやる!!だから許してくれっっ!!!」
「・・・」
行き止まりに追い込まれてしまい、もう逃げ疲れて立てなくなっていた男は大量の汗を流しながら袋に入ったお金を追いかけていた者に差し出す。
「ーーくそっっ!!ーーーあのガキが悪りぃんだよ!!あのガキが俺を誘って来やがったんだ!!あんな女みてぇな顔で熱っぽい目で見やがって・・・!!ああいうガキは俺みたいな奴らに奉仕するのが使命だろ!!」
追いかけて来た者は虚な目でじっと男を見下している。男は止まって初めて引きずっていた音の正体を知った。追いかけていた者が『柄の長い大きな鎌』を引きずっていた物が音の正体であった。遂に男は恐怖に負けて逆ギレし始めた。
「ーーー言い訳はそれだけ?」
追いかけて来た者はおどろおどろしい雰囲気とは違い、発した声は艶っぽい女性の声だ。しかし感情の乗っていない声色は艶っぽい声すら不気味であった。
「それだけっておまーーーー」
「ねぇ? 私だけを見て 」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
取り敢えず宿の受付にもし入れ違いでユリアナが帰って来た時の為に、4人で買い物に出かける事を伝えた。これでもしユリアナが一人で戻って来ても行き先が分かっているから安心するだろう。
「じゃあ、まずは歯ブラシとか日用品買いに行くか?」
「シロもみんなが買った物持ってくれるか?」
ーーーぱこんぱこん♪
たくさん買っても問題なさそうだ。
シロのお陰で安心して買い物が出来る。
「シロが持つって言っているので、買い物したら任せてやってください」
「ま、俺はぶっちゃけそれを期待してたんだけどな?」
アクスは人好きする笑顔でシロに期待していた事をバラす。
このパーティーにさえいなければアクスはさぞかしモテていた事だろう。
女にも男にもモテるってカリスマ性高すぎだろ!
ーーーまぁ、このパーティーに所属している間はそのカリスマ性、絵に描いた餅って感じなんだけど・・・。このパーティー知らない地域に入ったらモテ期到来するんじゃね?じゃあ王都に行ったらアクスモテモテじゃん!!
俺ら見捨ててヒャッハー!!な感じになったら嫌だな・・・。
『無慈悲なる運命』は元領主の息子主導である『暗黒竜に使えし四天王』の所為で悪い噂を領全体に流されていた。
それが尾ひれを付け隣町のヴァイ町でも、パーティー名名乗ると不快な顔を向けてくる者たちがいるとの事。インス町では既にマリア達の汚名は完全に晴れているが、この町にはまだ全員に伝わっていないのでパーティー名は名乗らない方が良いとカックスギルド長が冒険者ギルドで雑談している時に教えてくれた。
「わーいっ!シロちゃんのお陰で楽ちんだぁーありがとうっ」
マリアはセイが抱えているシロの蓋の上部を撫でにこにこと嬉しそうに笑っている。
撫でられてシロも嬉しそうである。
そういやシロが木から鉄に変わっても重たく無いんだよな。
元のシロ位の重さはあるんだけど変わってないんだよ。
シロは見た目が変わってもシロって事なのかもしれない。
まぁいいや、そのうち考えよう。今は買い出しと1番のトラブルメーカーユリアナだ。
取り敢えず奴がヤバいのは悪魔疑惑が拭えてないからなんだよ!!
はぁ・・・俺こんなヤバいパーティー抜ける事出来るのか?
向こうの世界に戻らない限り抜けられない未来しか見えないんだよな。
「ここの町に来てもインス町と変わらないから用事無い限り来ないよねぇ。なんか久しぶりに来たねぇ?」
「そういやそうだなー。用事ねーもんな」
「ここまで来なきゃいけない依頼も受けなかったしね」
「まぁ、確かに見た限り名所も無さそう感漂ってるもんな」
ヴァイ町はインス町と比べても活気に大差はない。
「ーーーっておい待て、マリア。どこに行く」
セイはマリアの腕を掴んで引き戻す。
マリアが何故か目を離すと勝手にどこかへ行こうとするので、セイは町並みや会話を楽しむ余裕はない。まるで小さい子供があっという間に親の目を離した隙にどこかに行ってしまうのと同じだ。油断できないのでシロが常に俺の腕の中にいても見張ってくれている。
みんなが目を逸らした間にどこかに行こうとするとすぐにシロがガタガタ身体を揺らし、ばこんばこんっっ!!といつもより大きい音を出してみんなに伝えてくれるのだ。流石俺の愛犬!!優秀で可愛いシロは子供の面倒すら見ることの出来るこの完璧さよ・・・。
どうだ、世界よ。俺のシロは気高く優しいーーん?んん??
視界の隅に一瞬ユリアナと思わしき姿を捉えた。
セイ以外のメンバーは気付かなかった様で、喋りながら進んでいく。
「どうしたんだセイ?忘れもんか?」
アクスが足を止め戻って来ないセイ不思議に思い振り返りセイに尋ねる。
セイはユリアナらしき人物を見た事を言うべきか言わないべきか考えた。
「ーーーいや、なんでもない!行こうぜ!!」
ユリアナらしき人物が何か引きずっている風に見えた気がしたセイは何も見なかった事にした!!自分に不利益がない限りは基本長い物には巻かれろ、事なかれ主義なセイは人気の無い所に行ってまで確認する様な事はしない。安全第一と書かれたヘルメットを自身の心に被せた。
「(ホラー映画は観るのは良くても実際自分の身に起きたら、腰抜かして動けなくなって殺されるオチしか待って無さそうだからな!!俺は何も見てない!!)」
路地に向かった場合のホラー場面を想像して身震いしたセイは、シロをぎゅっと強く抱きしめて再びメンバーとお店に向かった。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
今まで冒険者の男を追いかけていた女は、動か無いモノを路地を引きずりながら一角に行くと引きずっていた物を投げ捨てた。
「.........さようなら.........」
冒険者の中年の男を追いかけていた女は、引きずって来たモノに勢いよく鎌を振り下ろした。
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