ハーレム王~俺の全てをお前に捧ぐ~

有好日日日

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異世界生活

10.55 サイドストーリー ヴォルフの想い

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 初めてあいつと出会った時、俺はジョズ爺さんの遣いで街の外に出ていたんだ。
 奴隷をそとに一人で出すんなんて何考えてんだってお思ったりもしねぇではねぇが、多分あの人なりの俺に対する気遣いだったんだろうな。
 まぁそのおかげでアイツと出会えたんだから、感謝しなくちゃいけねぇ。

 
 あいつとの出会いは、街道沿いの森の中だった。
 街への道を進んでいたら、ゴブリンに襲われている奴がいたんで咄嗟に助けちまったんだ。
 なんであの時助けに入ったのかはよく分からねぇ。
 まぁジョズ爺さんの教育の賜物かもしれねぇな。
 
 でもまぁすぐに離れるつもりだった。
 だって誰だって黒狼族と一緒には居たくはねぇだろうからな。
 でも俺は思わずあいつに声を掛けちまった。
 だってあいつ何故か森ん中で靴以外全部脱いでんだぜ?
 意味わかんねぇんだろ。
 思わずなんでそんな恰好してんのかって聞いちまったよ。
 そしたらあいつ、言われてやっと服脱いでることに気づいたみたいで

「あ! え、えっと、その慌ててて、ちょっとテンパっちゃってさ……」

 ってに答えたんだ。
 いや、答えた内容は焦ってたみたいだが、俺をが普通だった。
 あん時は俺も何故か焦っちまった。
 こんな風に俺のことを普通に見る奴なんて、ガキん時に村にいた時以来だったからよ。
 なんか昔のことを思い出しちまって、今の自分が壊されそうで……
 俺は平然を装うので一杯一杯だった。

 まぁ結局、全然装えてなかったみたいなんだけどな。
 でも今思えば、あん時すでに俺の中の仮面みたいなやつは、壊れていってたんだと思う。
 それがあいつのスキルのせいなのか、それともあいつが俺と対等に接してくれたおかげなのかは分からねぇ。
 けど俺は、あいつと一緒にいることのを、あの時すでに感じていてしまったんだ。

 俺はあいつを旅に誘った。
 短い時間かもしれねぇが、もう少しこの心地よさを味わっていたいって、すがっちまったんだ。
 だから俺の提案を受けてくれて嬉しそうにしていたあいつを見た時は、なんだか無性に胸が痛んだ。
 あいつは俺の善意だと思っていたかもしれねぇが、全然そんなことはねぇ。
 完全に俺のエゴに巻き込んだだけだったんだ。

 俺はそんな自分の罪悪感を少しでも払しょくしようと、あいつに色々教えたし、敵も倒してやったし、甲斐甲斐しく世話なんて焼いてやったりもしてた。
 でもそんなのは所詮は全部俺のエゴ。そう、初めは思ってた。
 
 あいつさ、俺が世話してやったり構ってやったりすると、すげぇ嬉しそうに返してくるんだ。
 もしあいつに尻尾が付いてたら、絶対ブンブン振り回してるんじゃねぇかってくらい。
 それ見てたら、余計に嬉しくなって、罪悪感も大きなって。
 自分でも段々わけわかんなくなっちまった。

 気づけばあいつを意識していて、あいつを目で追っかけて。
 川で体を洗う時にあいつの裸をみて興奮しちまった時は、なんか知んねぇけどあとでスゲー自己嫌悪。
 
 まぁその時にはすでにあいつに惹かれてたんだろうな。
 あいつの喜ぶ顔がもっと見たい。
 あいつの時々向ける熱い視線をもっと見たい。
 あいつの綺麗に締まった体が見たい。
 あいつの体温を感じてみたい。
 あいつの、あいつの……

 だけどそんな自分の気持ちに、俺は全力で気づかねぇ振りをした。
 だって俺は奴隷だ。 
 そして何より呪われた黒狼族だ。
 期待しちゃいけねぇ。
 何も望んじゃいけねぇ。
 諦めていないと、自分が苦しくつらくなるだけなんだ。

 そんな矛盾を抱えながら、俺たちはあっという間にドゥヤムの街へとたどり着いた。
 なんつーか、あの時程街に入りたくねぇなんて考えたのは生まれて初めてだった。
 ここに入れば、俺はこいつと別れなくちゃいけねぇからな。
 最後まで、イイヤツぶって頑張ってあいつに良く思われようなんて訳わかんねぇことしちまったよ。
 
 でもまぁそんな思いも、街の奴らの視線をぶつけられて一気に冷めちまったけどな。
 あぁ、やっぱり俺は何も望んじゃいけねぇんだっていう現実を突きつけられた気分だった。
 でも街に入ってあいつが道にフラフラと出ていったとき、馬車に撥ねられそうになったんだ。
 俺は咄嗟にあいつの肩を掴んで引き寄せた。
 そんでアイツを抱きしめた時、俺の中で何かが爆発しちまったんだ。

 あぁ、俺はこいつが好きなんだ。
 たまらなく惹かれている。
 こいつと一緒にいられたら、どれだけ幸せなんだろうって。

 焦った。
 そりゃもう盛大に。

 だから俺は頑張ってあいつと距離を置いた。
 出来るだけ優しくしないようにした。
 
 それで結局最後の最後で呪い子のことがバレちまって、あいつにも迷惑かけちまった。
 ……まぁこれも良いきっかけか。
 そう思うことにして、俺はあいつに別れを告げた。
 最後ぐらいあいつの記憶には笑顔を残して置きてぇと思って頑張って笑ってみたんだが、どうだったんだろうな。

 

 逃げ出す様にしてギルドに駆け込み、俺は訓練場へと向かった。
 自分の中でグチャグチャになった感情をどう処理していいのか分からねぇで、ただただ的に打ち込み続けた。
 そんな時、ジョズさんから声が掛った。

 なんでも後で話があるから、準備が出来次第来いってことだった。
 正直今の状態では勘弁して欲しかったが、ジョズさんの命令だ。
 聞かねぇ訳にはいかねぇ。
 俺は着替えてすぐに応接室に向かった。

 すると部屋の中ですでに誰かと話しているジョズさんの声。
 俺はふと気になり、ドアに耳を押し当てた。

 自分の鼓動が高鳴ってくるのが分かった。

 ……なんでーー

 あいつはなんでこんな所まで来て、俺の話をしているんだ。
 俺にはもう関わらないでくれって言ったじゃねぇか!

 そんなことを頭で考えながらも、俺はあいつが俺を追いかけてきてくれた事実に無性に嬉しくなっちまっていた。
 でもそんな気持ちも、あいつの言葉で引き戻される。

「彼を俺に売ってください」

 一瞬意味が分からなかった。
 売る?
 つまりあいつは奴隷として俺を買いてぇのか。
 そうか、あいつも所詮は他の奴らと同じ……

 段々と俺の中にくろいものが広がっていく。
 けれど、あいつの言葉でまた引き戻された。

「あなたがそうして彼を守ってきたように、私も彼の飼い主となって、一生傍に立ち、そして彼を守り続けて見せます」

 ……は?
 どういうことだよ。
 守る?
 飼い主なら飼い主らしくしてりゃいいじゃねぇか。

 ……違う、分かってる。
 ジョズ爺さんに、そうやって俺が今守られてきていたことを。
 必死に考えないようにしていた事実。
 考えてしまえば、もっと先を期待してしまうから。

 だけど、あいつの口からそれをきいて、あいつもそうありたいと言ってくれて。
 俺は胸が張り裂けそうになった。
 その場で叫び出したかった。

 くそっ、くそっくそっ!!

 俺は今、あいつにしちまっている。
 自分の頭がブレーキを掛けようとするが、もう止まりそうにねぇ。
 そしてジョズさんがアイツの想いを受け入れた時、その思いは一気に加速した。
 俺は嬉しくなって部屋の中に飛び込もうとしたよ。

 けど、あいつの言葉に躊躇しちまった。

――命を賭ける契約。

 意味が分からねぇ。
 なんで俺なんかの為に、お前が命を賭ける必要があるんだよ。
 お前は俺のことをまだ何も知らねぇじゃねぇか。
 俺と違って、俺なんかにすがんなくても、お前には無限の可能性があるじゃねぇか。
 なんでわざわざの為に――

 結局その時は、理由はわかなかった。
 スキルの話もしてたけど、アレは多分直接的な理由じゃねぇ気がする。
 けど俺は、話が俺の期待通りにどんどんと進んでいくことに舞い上がっちまっていて、それ以上深く考えるのをやめた。
 そしてあいつに言われたあの言葉。



――諦める必要なんてないよ。これからは、なんだって諦める必要なんてないんだ。


 
 俺が今まで一番欲して、でも決して期待してこなかった魔法の言葉。
 俺はそれを聞いた瞬間、今まで俺をからめとって離さなかった言葉ものから、一気に解き放たれた様な感覚を覚えた。
 それからはもうわけわかんなかったよ。
 自分の中のグチャグチャになった感情をどうしたらいいのか分かんなくなっちまって、あいつに思いっきり泣きついちまった。
 あとでジョズ爺さんたちもいることを思い出して、赤っ恥かくことになったけどな。


 思いっきり泣いたおかげか、俺の心はさっきまでが嘘みてぇに軽くなっていた。
 そして俺はもう一度あいつに向き合うことにした。
 
 こいつはなんで、俺を選んだんだろう。
 そしてなぜ、自分の命までも賭けようとしているんだろう。
 
 ハッキリとしたことは分からねぇが、なんて言うかもっとあいつの人としての根っこ? みたいなところと関係してんじゃねぇかと俺は感じた。
 そしてそれをあいつ自身も気づいてねぇんじゃねぇかって。
 
 あいつの笑顔は、なんつうかのか、汚れてねぇんだ。
 俺は散々人のきたねぇ所ばかり見せられてきたからか、その辺の人の闇っつうか、裏の部分にはかなり敏感になっていると思う。
 そんな俺の感覚に、あいつのそれは反応しねぇんだよ。くらいに。

 かといって、自分でそれを隠しているようにも見えねぇ。
 多分あいつの心ん中に、何か鍵をして閉じ込めている感情もんがあるんじゃねぇかな。
 ま、全部俺の推測なんだがな。

 でもまぁ俺は、俺自身には、そんなの関係ねぇ。
 だってそうだろ? 俺を救ってくれたのは、間違いなくアイツなんだ。
 だからあいつにどんな過去があって、あいつの中に何が眠っていようと、俺には関係ねぇ。
 俺はただあいつに寄り添い、そしてこの身全てを使ってあいつを守ってやるだけなんだ。


 この顔に刻まれた刺青あかしに誓って、俺はあいつに全てを捧げる。


 だからサック、今度はお前が俺を頼ってくれよ。
 お前が俺を救ってくれたように、俺もお前の力になりてぇんだ。
 いつかお前のと心から繋がれる日を、俺はずっと待っているからな。
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