58 / 141
熱烈な抱擁
しおりを挟む
早朝すぐに出発して、数時間もしない内にジークベルトのいる野営地に到着することが出来た。
事前に連絡を入れていたのかはわからないが、かなりすんなりと中へと通される。奏多にとってはこんなに多くの人間がいる場所は初めてである。ジロジロ見られたり歓迎されなかったりするのかな…と漠然と思っていたのだけれど、そんなことは全くなかった。
というか、皆それどころではない雰囲気である。
(なんか……疲弊、しきってる感じ……?)
誰も顔を上げない、俯いた状態で座り込んだり、その場に立ち尽くしていたりする。心なしか顔色も悪そうで見ていて心配になる佇まいだ。
勿論それだけ過酷な任務なのかもしれない。けれどこれではあまりに士気が低すぎるような気がする。
ジークベルトは大丈夫なんだろうか?と不安になってきたそのタイミングで、勢いよく進行方向の扉がバターン!と大きな音を立てて開いた。
ついビクッと身をすくませたその瞬間、扉から出てきたその大男に抱きしめられる。力まかせに。
「ぐえっ」
「ジ、ジークベルト団長!潰れます、彼女が潰れてしまいますっ」
「大丈夫!?カナタ、息出来てる!?」
「(む、むり)」
大男の正体は勿論ジークベルトである。出会い頭の抱擁と言われれば聞こえはいいが、力加減を間違えている。感情のままに抱きしめられて肋骨を折られたのではたまらない。むり!というかまず息が出来ない!!筋肉の圧すごい!!!
「俺に会いたくて来たのか?」
「(んなわけあるかい)」
「うん?顔色が悪いな」
「(それはあなたが締め上げてるせい…っ)」
声にならない声をあげる奏多の様子に全く気付く様子もないジークベルトは、けれどとても嬉しそうである。かつてこんなにニッコニコの上司を見たことがないメルディはじめ部下たちは唖然とした表情で奏多たちを見上げている。
いやだ…これじゃあ見せものじゃないですか…
「ジークベルト団長!そろそろ離さないと彼女が窒息死してしまいますっ」
それでも必死に訴え続けてくれたカイロスのおかげで、そこでようやくジークベルトは奏多にまわした腕を緩めてくれた。
すかさず大きく息を吸い込む。と同時に爪先が地面につく感触がした。どうやらちょっと、浮いていたらしい…
ゲホゲホと咳き込む奏多の背中を労わるようにジークベルトが撫でてくる。いったい誰のおかげで咳き込んでると思ってんだと睨みつけるとめちゃくちゃに良い笑顔で返されてしまった。あ、ダメだこれ、なんにもわかってないやつだこれ…
奏多はそこで、深く考えることをやめてしまった。何はともあれ無事にジークベルトに合流出来たのだから、それで良かったのだと思うことにした。
けれど大変だったのはここからであった。その事実をまだ、この時の奏多は知らない…
事前に連絡を入れていたのかはわからないが、かなりすんなりと中へと通される。奏多にとってはこんなに多くの人間がいる場所は初めてである。ジロジロ見られたり歓迎されなかったりするのかな…と漠然と思っていたのだけれど、そんなことは全くなかった。
というか、皆それどころではない雰囲気である。
(なんか……疲弊、しきってる感じ……?)
誰も顔を上げない、俯いた状態で座り込んだり、その場に立ち尽くしていたりする。心なしか顔色も悪そうで見ていて心配になる佇まいだ。
勿論それだけ過酷な任務なのかもしれない。けれどこれではあまりに士気が低すぎるような気がする。
ジークベルトは大丈夫なんだろうか?と不安になってきたそのタイミングで、勢いよく進行方向の扉がバターン!と大きな音を立てて開いた。
ついビクッと身をすくませたその瞬間、扉から出てきたその大男に抱きしめられる。力まかせに。
「ぐえっ」
「ジ、ジークベルト団長!潰れます、彼女が潰れてしまいますっ」
「大丈夫!?カナタ、息出来てる!?」
「(む、むり)」
大男の正体は勿論ジークベルトである。出会い頭の抱擁と言われれば聞こえはいいが、力加減を間違えている。感情のままに抱きしめられて肋骨を折られたのではたまらない。むり!というかまず息が出来ない!!筋肉の圧すごい!!!
「俺に会いたくて来たのか?」
「(んなわけあるかい)」
「うん?顔色が悪いな」
「(それはあなたが締め上げてるせい…っ)」
声にならない声をあげる奏多の様子に全く気付く様子もないジークベルトは、けれどとても嬉しそうである。かつてこんなにニッコニコの上司を見たことがないメルディはじめ部下たちは唖然とした表情で奏多たちを見上げている。
いやだ…これじゃあ見せものじゃないですか…
「ジークベルト団長!そろそろ離さないと彼女が窒息死してしまいますっ」
それでも必死に訴え続けてくれたカイロスのおかげで、そこでようやくジークベルトは奏多にまわした腕を緩めてくれた。
すかさず大きく息を吸い込む。と同時に爪先が地面につく感触がした。どうやらちょっと、浮いていたらしい…
ゲホゲホと咳き込む奏多の背中を労わるようにジークベルトが撫でてくる。いったい誰のおかげで咳き込んでると思ってんだと睨みつけるとめちゃくちゃに良い笑顔で返されてしまった。あ、ダメだこれ、なんにもわかってないやつだこれ…
奏多はそこで、深く考えることをやめてしまった。何はともあれ無事にジークベルトに合流出来たのだから、それで良かったのだと思うことにした。
けれど大変だったのはここからであった。その事実をまだ、この時の奏多は知らない…
298
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語
みん
恋愛
【モブ】シリーズ②
“巻き込まれ召喚のモブの私だけ還れなかった件について”の続編になります。
5年程前、3人の聖女召喚に巻き込まれて異世界へやって来たハル。その3年後、3人の聖女達は元の世界(日本)に還ったけど、ハルだけ還れずそのまま異世界で暮らす事に。
それから色々あった2年。規格外なチートな魔法使いのハルは、一度は日本に還ったけど、自分の意思で再び、聖女の1人─ミヤ─と一緒に異世界へと戻って来た。そんな2人と異世界の人達との物語です。
なろうさんでも投稿していますが、なろうさんでは閑話は省いて投稿しています。
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのになぜか溺愛ルートに入りそうです⁉︎【コミカライズ化決定】
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。
氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす
みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み)
R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。
“巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について”
“モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語”
に続く続編となります。
色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。
ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。
そして、そこで知った真実とは?
やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。
相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。
宜しくお願いします。
召喚から外れたら、もふもふになりました?
みん
恋愛
私の名前は望月杏子。家が隣だと言う事で幼馴染みの梶原陽真とは腐れ縁で、高校も同じ。しかも、モテる。そんな陽真と仲が良い?と言うだけで目をつけられた私。
今日も女子達に嫌味を言われながら一緒に帰る事に。
すると、帰り道の途中で、私達の足下が光り出し、慌てる陽真に名前を呼ばれたが、間に居た子に突き飛ばされて─。
気が付いたら、1人、どこかの森の中に居た。しかも──もふもふになっていた!?
他視点による話もあります。
❋今作品も、ゆるふわ設定となっております。独自の設定もあります。
メンタルも豆腐並みなので、軽い気持ちで読んで下さい❋
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる