オマケなのに溺愛されてます

浅葱

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先着の主

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(回復魔法の類いは、レベルが足りなくて習得出来なかったんだよね…)

なので自分で治療したわけでは絶対にない。ならば、誰かが治してくれたと考えるのが妥当なのだろうが…

「…………………」

うん、わからん。



よくよく考えてみてもさっぱりわからないので、奏多はとりあえず思考を放棄することにした。今考えるべきことは別にある。差し当たって重要なのは自分の置かれている現状を正確に把握することである。

(うん、立てる)

恐る恐る立ち上がってみたが、痛みは感じない。よく見ればあちこち擦り傷だらけだが、打撲の感じもなく露出した肌の部分に血が滲んでいる程度である。

(不自然だけど……まあこの際気にしない…)

大事なのは動けること、だ。



のろのろと周囲を伺いながら歩き出す。歩きはじめてみると、痛みは感じないものの身体が異様に重たく感じた。動けないほどではないが、この状態で走ったり長時間山道を上り下りするのは難しそうに思えた。

一旦、どこか落ち着ける場所を探した方がいいかもしれない。そう判断した時だった。

「あれ、なんだろこれ」

ふと足元に、赤紫色の小ぶりな木の実が落ちていることに気が付いた。

「食べられ……そう?」

以前なら、地面に落ちた木の実に口をつけることなんてしなかっただろう。
けれど今はそれどころじゃない。多少汚れていようと食べ物は貴重である。奏多は土を手で払い落とすとそれを口に含んでみた。

「甘酸っぱ!」

うんうん、イケる。これなら普通に食べられる。
よく見ると、その木の実は点々と行く先々に落ちていた。奏多はそれをひとつずつ拾いながら食べていく。口の中も潤うし、少しずつだが魔力が回復していくのも感じた。あまり見たことのない木の実だが、なんという名の実なのだろうか…


そのままもぐもぐしながら歩いていくと、その先に洞窟を見つけた。よく目を凝らさなければ見つけられないような生い茂る木々の中にぽっかりとあいた空洞が見える。こんなの、木の実が落ちていなければ素通りしてしまったに違いない。

(休むのに、ちょうど良さそう…?)

奏多は茂みをかき分けながらその洞窟へと近づいていく。座れるなら、今すぐにでも座り込みたい。そんな気持ちで。


すると、その先に予期せぬ先着者がいた。


「あっ」

洞窟の中、そこにいたのは暗闇の中で出会った、あの狼にも似た白銀の獣であった。
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