オマケなのに溺愛されてます

三度目の正直

地獄の始まりはいつも聖女召喚から始まる。

その原理は未だ秘匿された状態の為、詳しくはわからない。だがわかってきたこともある。それは異界から聖女を連れて来る際に、莫大な対価が必要となる事実である。

その対価を支払う為に、多くの略奪と簒奪が繰り広げられた。勿論抵抗もしたし、出来る限りの自衛もした。だがひとたび聖女が現れると全ての攻撃は無効とされてしまうのだ。これではろくな戦略も立てられず、領民たちは出来る限り身を潜め、息を殺してかろうじて生きていた。属国となってもならなくても、その日は気紛れにやってくる。ならば国を捨て、領地を捨て、遊牧民として各地を転々とする生活をしていた方がいくらかマシに思えた。そうすれば少なくともある日突然に、贄となることを強いられることもない。



だが各地をまわる生活をしていく中で、知り得た情報というものもあった。
それはいつからか聖女召喚の折、もうひとり別の人間が同時に召喚されてくる事象があるということである。
そのもうひとりがいる時、少なからず聖女の力は弱まるとされていた。
しかしそのもうひとりは、いつも聖女によって殺されてしまう。その為、結末はいつも同じである。だが、各地に残された文献を確認する限り、やはりこの苦境を脱する鍵となり得るのはこのもうひとりの存在に他ならなかった。

よって、聖女召喚が行われた際、もし聖女以外の何者かが存在していたのなら、なるべく早く聖女から遠ざけ、保護するよう努めるのがクロードの役割だった。
クロードには魔力があった。魔獣と獣人の混血だった為か、他の者より老化も遅く長命であり、獣の姿になることも出来た故の抜擢である。本来なら魔獣との交わりは忌避される傾向にあるのだが、魔力を持っているとなると話は別である。魔法は、やはりどの種族にとっても得難い能力なのだ。よってクロードは迫害されることもなく、集団のリーダーとなることが出来た。



そして、クロードは3度目の聖女召喚を経験することとなる。

聖女が召喚されると空が割れる。それは比喩でもなんでもなく、事実割れるのだ。だから直ぐに理解した。またこの世界に、新たなる災厄が落とされてしまったという現実を。


しかし、クロードはそこで見た。
割れた空から落ちる、もうひとつの肉体を。

「もうひとりが、いる…」


それは長らく待ち望んだ、救済の光のようだった。