オマケなのに溺愛されてます

浅葱

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牢の中で

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善は急げということで、それから数刻もしない内に奏多は聖女の元へと案内された。

約束通り覆面をした状態のジークベルトとフリックという名の同行予定の選抜部下を引き連れ、更に聖女からは見えない位置にメルディ、カイロス、そして聖女の護衛騎士であるヴァリエール、そして口を挟まないという条件のもとジルベール王子殿下も待機することとなった。なんだか意図せず大所帯になってしまったなと、妙に緊張した面持ちで奏多は地下へと続く階段を降りていく。

「下手な変装をするより、覆面の方が効果的だと思います。聖女様は、目から入る情報に頼りがちな方ですから」

とのヴァリエールからの助言(?)もあり、結局ジークベルトは顔を布で隠しただけの状態で同行することになった。奏多からしてみればただ顔を隠しただけのジークベルト、といった感じなのだがヴァリエール曰く、「顔を隠せばまず気付かれることはないでしょう」とのことだった。そういうものなのだろうか…?





薄暗く、黴臭い地下の通路を微かな灯りだけを頼りに歩いていく。
死角となる場所に4人を残し、ジークベルトの先導で、目当ての牢の前で奏多は立ち止まった。
灯りを目線の辺りまで持ち上げると中の様子が明瞭となる。そこは思った以上に居心地の悪くなさそうな空間に見えた。寝具も真新しく清潔な印象を受ける。もしかしたらジルベールやアーチボルト達からの差し入れなのかもしれなかった。食事や甘い菓子類の残り香もする。

(良かった、それほど悪い扱いを受けているわけではないみたい)

ひとまずホッと胸を撫で下ろしたところで奏多は牢へと近づいていく。人の気配を感じたのか、寝台で横になっていた彼女が緩慢な動きで起き上がる。その寝乱れた姿に、奏多は思わずぎょっとしてしまった。


「………ジルベール?それともヴァリエール?ねえ、お腹が空いたんだけど次の食事はいつ…」

あくびをしながらこちらを向いた彼女は奏多と目が合うと、寝ぼけたその顔を直ぐに不快そうに歪めてみせた。その険しい目つきは魔物を召喚してみせたあの時の形相を奏多に想起させるに充分なものだった。じわり、と嫌な汗が額に滲む。


「何の用?アンタなんて呼んでないけど」

梨々香はそう言うと、チラリと背後の2人に視線を向けた。バレてしまうかと思ったけれどヴァリエールの言う通り、梨々香はジークベルトに気付いた様子はなかった。一瞥しただけですぐに興味をなくしたように目線を逸らす。あれほどジークベルトに執着していたのに顔を隠しただけでこうも気付かないものなのだろうか?奏多は少し、そんな梨々香の様子に違和感を覚えた。
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