オマケなのに溺愛されてます

浅葱

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土魔法だけど木

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(野営の後がある…)

火を起こした形跡があった。しかもまだ新しい。ということは、人が近くにいるということである。

瞬間的には嬉しかった。けれどすぐにどうするべきか迷う。遭遇する人物が自分に対しすべからく好意的であるとは限らない。

(他所者を嫌うのはよくある話だし、そもそも私、この世界の地理がまったくわかっていないわけで…)

というか、今気付いた。奏多は自分が召喚された国の名も、その国を統べる王の名前すらわかっていなかった。
これでは帰り方以前に帰る場所が何処かもわからない。なんてアホなんだろうか、信じられない…

「…詰んだわ」


自分の馬鹿さ加減に嫌気がして、奏多は思わずその場にしゃがみ込む。すると、ヒュン、と何かが頭上を掠めていった。ん?と思い顔を上げると、今度は目の前を弓矢が飛んでいった。あ、これもしかしなくても私が狙われてます??

「つ、土魔法っ、えーっと」

防御壁、そう壁だ!と奏多は慌てて土魔法を発動する。練習で何度かやったことはあるが外でこのスキルを発動するのは初である。とりあえず奏多の魔法使用にはイメージがかなり重要なので、奏多は瞬時に思いついた自分なりの壁を頭の中に思い描く。

すると、突如として目前の土が盛り上がり、巨大な木の壁が出現した。その周りをつるがぐるぐるに巻きついて、まるで柵のようになって奏多の眼前ににょきっと聳え立つ。あれ、これなんか思ったのとちょっと違うかも…?と思ったのも束の間、激しい攻撃の音が聞こえてくる。うわ、めっちゃくちゃ襲われてるじゃん!と奏多は追加で同じような壁を幾つも造っていく。

すると、気付けば奏多の周囲は木とつるに囲まれた、ちょっとした閉鎖空間が出来上がっていた。いや多分、自然換気は可能だろうけど…これもう壁というより檻っぽくないか?

(しかも、視界が遮られてる…)

相変わらず、外からの攻撃の音は止まない。けれど魔法を使っての攻撃ではなく、弓矢での衝撃があるだけである。ということはつまり、外にいるのは魔法使いではないということだ。

(それなら、とりあえず良かったかな……物理攻撃だけでは、この壁は破壊されないだろうから)


とは言え、この籠城は一時凌ぎにしかならない。この状態では相手の姿も数もわからないままだし、こちらからの攻撃も難しいからである。

(困ったなぁ……どうしよう…?)

ジークベルト曰く、奏多の魔法は通常のスキルより持続性が高いのだそうだ。
ならばこのまま様子を見てみるのもアリかもしれない、と奏多は思う。木の壁は思ったより頑丈そうで安心感があるし、土の匂いもなんだか落ち着く。それによく見ると足を伸ばせるスペースも、ちゃんとあるではないか。


「…ちょうどいいから、ちょっと仮眠しちゃおうかな」

奏多はその場でごろりと横になる。外では相変わらず弓矢が飛んでくる音がしているというのに悠長なものである。
だが度重なる危機に遭遇したことにより、奏多の神経もだいぶ図太くなっていた。何より昨夜は寝ていなかったせいもあり、身体が休息を求めていた。あっという間に奏多はその場で眠りに着き、熟睡態勢に入ってしまった。外ではまだ、攻撃が続いているというのに…
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