最強勇者に転生したオレと、悪役令嬢に転生した私が異世界ですれ違う

遊野 優矢

文字の大きさ
22 / 25

第1章 幼なじみの転生は気付けない(22) SIDE ケイン

しおりを挟む
「勇者様にはりついててよかった。勇者と魔族は引き合うという伝承は本当だったんですね」

 なんかろくでもない情報が聞こえたぞ!?
 あんなのに出会い続けるの!?

「だがスキありだ!」

 オレは腰の剣を抜きざま、魔族の胴を薙ぐ……はずだった一撃は、魔族の体でぴたりと止まった。

「勇者様下がって! 魔族には魔力でしかダメージを与えられません!」

 何そのしばり!

「それなら!」

 オレはバックステップで下がると、指輪に魔力をこめ、手のひらから氷柱を打ち出した。
 氷柱は魔族を直撃。
 しかし、上半身凍傷まったなしの一撃は、魔族の表面を冷やしただけたった。
 魔族はこちらに目もくれない。

「物理現象になってしまった魔法ではだめなんです!」

 魔法ってそういう感じなんだ。

 魔族とメグが互いに放った拳大の光球が衝突し、衝撃波を撒き散らす。
 残っていた家具や壁が吹き飛んでいく。
 魔族はフードが揺れた程度だが、メグはかべまで吹き飛ばされ、ぐったりと頭を下げた。

「魔女と言ってもこの程度か……」

 魔族が愉快げにつぶやく。

 十分強いように見えるけど!?

 なにかできることはないか!?
 魔石を通じて魔法を発動はできるのだがら、魔力をそのまま操ることだってきっとできるはずだ。
 根拠なんてないがやってみるしかない。

 魔石をきっかけとするため、指輪に意識を集中する。
 これまでは撃ち出す魔法の結果をイメージしていたが、過程となる魔力の流れをイメージ。
 理屈はわからないので、上手くいくかわからない妄想だが、どうせダメもと!

 そうしている間にも、魔族が倒れたメグの頭に手をかざす。

 しかし、次の瞬間、魔族の腹を光の帯が貫通し、拳大の穴がぽっかりと空いた。
 血は出ず、ただ空洞があるのみだ。

「魔族は人間をなめて油断する。師匠の言っていた通りだわ」

 顔をあげたメグがにやりと笑う。
 気絶したフリかよ!
 これほど強い相手によくやる。
 魔族がそのまま追撃してきてたら死んでるぞ。

「凝縮魔力の隠蔽だと!? この魔女がぁぁ!」

 魔族は手に闇が集中する。
 腹に穴が空いても動けるのかよ!

「やば――」

 メグは横に転がって避けようとするが、魔族が手を振り下ろす方が速い。

 考えるより先に体が動いていた。
 それは、ここ最近魔獣を狩り続けて身についた条件反射だったのかもしれない。

 気づくと、オレの剣は魔族の首をその胴体から切り離していた。

「バカな! 剣士ごときに魔族たるこのオレが――」

 それでもなお喋り続ける魔族の首にメグが杖から出した光をあびせ、消滅させた。
 首から下も同様に、念入りに消していく。

「ふぅ……助かりました勇者様。魔力剣なんてどこで習ったんです?」
「いや、なんとなくやってみたらできた」
「て、天才……? それとも勇者様ってみんなこうなのですか?」
「他の勇者のことは知らないが、難しいのかこれ?」

 さっきと同じ要領で集中すると、こんどはあっさり剣が蒼く輝いた。
 半分無意識だったが、一度できるとコツをつかめたらしい。

「村一番と言われたあたしでも、一年かかったんですよ。ちょっと悔しいです……。でも、助かりました!」

 死闘の後なのに、とても元気の出る笑顔だ。

 魔族に魔女。
 フィクション作品では馴染みのある単語が出てきた。
 その意味が気になるところだけど……。
 
「まずはこの場をなんとかしなきゃね」
「ですね」

 これだけ派手に暴れたのだ。
 いつ警備兵がすっとんで来てもおかしくない。
 下手をすると、オレ達まで人身売買組織の一員だと思われかねない。

 瓦礫の下敷きになっていたゴロツキ達を縄でふん縛り、木の切れ端に「オレたちが人身売買の犯人です」と描いておいた。
 捕まっていた子供は、布の上に丁寧に寝かせておく。
 ちなみに子供は奥の部屋も含めて合計5人いた。
 戦闘にまきこまずにすんでよかったよ……。

 あとはもう一目散に逃走だ。
 なんか、最近も似たようなことした気がするね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...