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【第6話】魔王の好物と、愚かな盗人
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翌日、マトンは珍しく蔵から出てリビングにいた。
動きが緩慢になってきたタマの首元を掻きながら、上機嫌に読書をする。隣には蔵から持って来た本が積まれていた。早朝の散歩を終えた禅が戻ってくると、五冊目の本が読まれるところだった。
朝食を食べ終えても、マトンは蔵に戻らなかった。
「マトン、今日はこっちにいるんだね」
「……」
「お昼ご飯、蕎麦かうどんならどっちがいい?」
「肉が入っている方がいい」
「お肉はないけど、油揚げ入れる?」
「入れる、大きい奴がいい」
昼食後、自室で宿題をしていた禅が休憩時にリビングに来ると、マトンは本ではなく窓の外を見つめていた。
まるで何かを待っているかのように。
そして、ついに持って来た本を全て読み終える。マトンの忍耐力が限界を迎えた。
「むぅ、遅い!」
「何が?」
「白桃だ、今日桃を持ってくると言っていた」
「あぁ、言ってたね。もしかしたら家の手伝いが長引いているのかも。
電話しようか?」
「早く!早くかけるんだ!」
「はいはい、でも外にいたら出られないかもなぁ。留守電は入れてみるけど」
「……」
「まぁまぁ、桃なら今度の買い出しで買ってきてあげるよ」
「やだ、雨宮果樹園の桃がいい。あれじゃなきゃ嫌だ」
屋外での作業や用事があったら、電話に出られなくても不思議ではない。そもそもが口約束の上に、おすそ分けなのでこちらは無償で貰う側だ。
文句を言える立場ではないとそれとなく伝えるが、マトンは頑なに白桃の家の桃がいいと言う。
ただ、禅はマトンがどれだけ白桃の家の桃を気に入っているかを知っていた。
白桃だってそれを知っているはずだ。
禅が知っているいとこの白桃は、簡単に約束を破るような人間ではない。
必ず、何か事情があるはずだ。
「あっ、もしもし白桃?禅だけど。あのさ、約束の……うん、それは全然……えっ」
予想通り、白桃はマトンとの約束を忘れていなかった。だが状況は芳しくなかった。
「桃が、盗まれた?……わかった、一回そっちに行くよ。いいからいいから」
玄関で昼寝をしていたタロウが、異変を察知して起き上がった。
禅は祖母に事情を話すと、貴重品を持って外に出る。
帽子を被りながら自転車の鍵を取り出すと、自転車の前にマトンが立っていた。聞くまでもなく、ついてくる気だ。
「マトン、道はわかるよね?ゆっくりでいいから、後からおいで」
「私もついていく。並走すればいいだろう」
「僕、自転車で行くつもりなんだけど……?」
「問題ない。その間に説明してくれ、私の桃が盗まれた件について」
「わかった」
そこまで言うなら、とペダルを踏みしめる。
禅は焦りのあまり、マトンの履いている靴がサンダルだと気づかなかった。
彼女の口調がいつもより荒いことについても、いとこで慣れていて気にならなかった。
「白桃の農園に熊が出たんだって。それで、かなりの被害が出たみたい。
家に来られなかったのは、家族総出でその対応をしていたからだって」
「対応というのは?まだ熊がいるのか?」
「熊はいなくなったけど、警察に被害届を出して猟友会に連絡をして、被害状況を確認して……
またいつ狙われるかもしれないから、収穫できる桃は収穫しないといけないし」
「またいつ狙われるか?もう熊はいないのだろう?」
「熊は頭が良いから、果樹園に行けば桃があることを覚えたらまた来るよ。
それと、今回は果実だけじゃなくて木がやられたみたいだから……」
「じゃあ、昨日のあれは熊だったのか」
「昨日?もしかしてマトンが見たのって……っていうか、マトン、よくついてこれるね」
最初は遠慮をして走り出した禅だったが、マトンは少し後ろをぴったり並走してきた。
もう五百メートルは走っているはずなのだが、息切れ一つしていない。
長い脚を活かして跳ねるように前に進む走り方は、寧ろ余裕すら感じられる。妙なのは、ずば抜けた体力だけではない。洗練されていて無駄のない動きはどこか人間味がない。
「僕、これでも足腰強い方だし、辛かったらスピード落とすけど」
「いい、それよりもっと速く走ってくれ」
「え?いいの?」
「あぁ、遅いくらいだ。遠慮するな」
「そ、そう?ごめん……あ、見えて来たよ」
あっという間に雨宮果樹園が見えてくる。家の周囲には隣人や野次馬が集まっている。
さらに加速して近づくと、果樹園の中にも人がまばらに見えた。
禅が声を上げる頃には、マトンの目にはさらに多くの物が見えていた。
マトンにとって、人間がどこに何人いるかは問題ではない。
問題は、昨夜まであった熟れた桃がどこにもなく、実の重みでしなっていた枝が何者かによって折られていたことだ。無意識に、髪に偽装した体毛が逆立ち始めた。
「禅!本当に来てくれたの!?」
「うん、居ても立っても居られなくて」
「おぉ、祈生の坊主……と、誰だいその別嬪さんは」
「うわ、すっごい美人じゃ」
禅が駐輪場に自転車を止めると、二人に気づいた白桃が駆け寄ってきた。
周囲にはご近所さんと猟友会の会員がおり、事件について立ち話をしていた。
そこに、見たこともない美人が来たら嫌でも目を惹く。同村に住む住人の近況はお互いに共有している村民からすれば、マトンの登場は獣害よりも青天の霹靂に近い出来事だった。
白桃は、自転車の鍵をかける幼馴染の頭に優しく拳骨を当てる。
「……で、あんたって男は怪我している女の子を走らせて来たの?」
「あ、そっか。僕が走れば良かったのか。でもその、マトンは自転車乗れないから」
「マトン?」
「我が家の居候の名前だよ。昨日、僕がつけたんだ」
「……あんた、女の子に羊肉って名付けたの?」
「だめだった?覚えやすいし、マトンはマトンが好きだからさ」
「だから、そういう問題じゃないわよ」
「それで、何か手伝えることはある?」
「その気持ちだけで十分よ。私からしたら、今年もこの季節が来たなって感じ。
収穫できそうな桃はあらかた収穫したし、後片付けなんかも終わったからもう大丈夫。
猟友会の方にも来てもらったけど、熊に襲われたのは昨日の夜だろうって」
「出遅れちゃったか、遅れてごめんね」
「ううん、私の方こそ連絡が遅れてごめん。おばあちゃんと禅を心配させたくなくて。
でも、こういうのは情報共有した方が良かったわよね」
「その通りだ。禅くん、君も気を付けた方がいい」
「嵐山さん!こんにちは」
「こんにちは、元気だったかい?」
オレンジ色のベストを着用した、白髪交じりの男が挨拶を返す。
ベストは、猟友会に所属する猟師の証だ。猟師は、狩猟シーズンに限り猪爪や鹿の狩猟が認められている。
まさに山の動物のエキスパートだ。
「はい!それから、お肉をありがとうございました、すごく美味しかったです」
「相変わらず大人びているなぁ、君は。
それより、今回の熊は一筋縄では行かなさそうだ。
君のとこの畑も用心した方がいい」
「一筋縄では行かない、とは?」
「手口が巧妙だ。
電気柵を避けるために木と枝を伝っている。かなり知能が高い証拠だ。
恐らく若い熊じゃない。おまけに、足跡から見ても大きい個体だ」
「気を付けます、でも……うちはもう家庭菜園しかしてないですよ」
無表情で強面ではあるが、嵐山は面倒見がいい。
獣害が起きれば昼夜を問わず出動し、住民の話を聞き、時には罠を仕掛けている。
猟友会のネットワークで、嵐山の元には獣害の情報が集まりやすい。専門家のアドバイスは、それだけで被害者を安心させた。
嵐山は、自分とは反対に人当たりはいいが危なっかしい禅によく目をかけていた。
「そういう油断が一番危ないんだ。
君のとこの裏山と果樹園の裏山は繋がっているんだぞ。
今年はどんぐりが不作だから、熊が人里に下りてくる可能性も高い」
「ありがとうございます、用心します」
「最近だと連続強盗事件も相次いでいる。まったく、物騒な世の中になったもんだ」
「あぁ、ニュースで見ました。犯人、まだ捕まってないんでしたっけ?」
「らしいぞ、とにかく戸締りはしっかりするように。
近所の不良共も夏休みだからって好き放題だ。
うちの倅も変な輩とつるんでいるらしくてな。今日もどこで何をしているかわからん」
「正忠くんが?わかりました、僕も気を付けます」
「ところで、あの少女は?見たことのない子だ」
「あぁ、マトンです。今、うちで居候中でして」
「マトン……?ハーフか何かなのか?それとも遠縁の親戚か?」
「いいえ、山で会ってそのまま……あれ?マトン?」
「山で会って?それって、赤の他人を家に置いているということか?」
「マトン?どこー?どこ行ったのー!?」
「一緒にいた美人なら果樹園の方に入っていったぞ。君が来てすぐだ」
「え!?」
マトンは走ってきた勢いのまま、果樹園に飛び込んでいた。
一ヘクタール以上の広大な面積の農園には百本以上の桃の木がある。
桃を食べられた木はそのうち十本ほどだったが、かじられた桃や潰された桃があちらこちらに散乱していた。
食べるのに邪魔だったのか、木の上には桃に被せていた袋が並んでひしゃげている。
折れて地面に落ちた木には、これから育つはずだった小ぶりの実がついている。
マトンは、熊が一口食べて捨てた桃を拾い上げると、断面図の匂いを嗅いだ。
同じ体臭が木々や地面、そして森からもする。
「不愉快だ、これは私のだぞ」
「あ!?マトン!それは食べられないよ!」
「こら!ペッしなさい!あんたそんなにお腹が空いてたの!?」
「むぅ!まだ食べてない!」
「「まだ!?」」
すぐに駆けつけた禅と白桃に桃を取り上げられる。汚れた手を白桃に拭いて貰いながら、マトンは自分の主張が信じてもらえないことに拗ねていた。
ハムスターのように頬袋を膨らませていると、白桃に片手で頬を潰される。
「食べるなら、私がちゃんと綺麗で美味しいやつを選んであげるから」
「むぅ……わかった」
禅は被害を目の当たりにして顔を歪めていた。
熊による農作物の被害は、珍しいことではない。ないが、その中でもかなり酷い状況だ。
被害規模も被害額も相当なものだろう。
「ひどいね、こんなに荒らされて……しかも、これなんて食べかけじゃないか」
「大体、三千個くらいかしら。食べられたり、売り物にならない状態になったりね」
「三千個……」
「私の三千個の桃が……」
「いや、全部あんたのではないわよ。本当に桃が好きなのね」
「好き!大大大好きだ!」
「えへへ……看病しているとき、すり潰してあげていたのを覚えていたみたいで」
「なんで禅が照れてんのよ。つまり、間接的にあんたのせいってことね」
マトンは地面に落ちた枝を持ち上げて、本当ならいくつ実がついていたのかを指折り数えていた。
顔には、「全部自分が食べたかったのに」と書いてある。
白桃が視線を落とすと、自分と家族が決して短くない期間、丹精に育てて来た果実に泥がついている。
見上げれば、桃に一つ一つかけた保護袋が戦利品のように並べられていた。
「なぁなぁ、この枝はいつ次の実をつけるんだ?」
「いつ?その枝は完全に折れているから、もう実らないわよ」
「植物は切られても再生するんだろう?本で読んだ」
「枝の半分、もしくは皮一枚でも繋がっていたら可能かもしれないわね。
接ぎ木をするにも、そんなに成長していたら重いし無理よ」
「無理?じゃあ、この木は」
「来年か再来年、残った枝に実るのを願うしかないわ」
「来年って、じゃあ……今年は食べられないのか」
「そりゃそうでしょう?
でも約束したものね。一個くらいなら余っているかもしれないし、家を見てみるわ」
「私の三千個が一個に……」
「こらマトン、お礼を言いなさい。本当なら、マトンの桃は熊に食べられてないんだよ」
「……白桃、ありがとう」
「いいのよ、約束したのは私だし。桃を取られて悔しい気持ちはよくわかるわ」
家に戻る白桃に、マトンは完全に折れた枝が何とか幹にくっつかないか、角度を変えては断面図を合わせて試していた。恐らく、本で桜の接ぎ木か何かの知識を得たのだろう。
折れた枝には青々しい葉が生えており、折られなければ、この先数年に渡っていくつもの果実を実らせたに違いない。
「禅、私の桃を食べた熊はいつ処分されるんだ?」
「私の桃……?熊だったら、猟友会の人が罠を仕掛けてくれるらしいよ。
もし昼間に人里に下りてきたら、かわいそうだけど射殺されると思う」
「罠?熊はここを餌場にしているかもしれないんだぞ。
そんなにのんびりしていたら、また私の桃が食べられてしまう」
「そうかもしれないけど、熊は頭が良いし力も強いんだ。簡単には捕まえられないよ」
「強いといっても、銃で殺せるんだろう?」
「あのね、マトン。人間は様々な動物や植物がいないと生きていけないんだ。
正常な生態系を維持するためには、動植物を無闇に傷つけたり殺したりしてはいけないよ。
蔵の中には歴史の教科書があったよね?絶滅動物の話を思い出してごらん」
「むぅ……でも、じゃあ、何のために猟友会があるんだ」
「猟友会が駆除をするのは、人の味を覚えた熊と人里に下りて来た危険な熊だよ。
熊は雑食だけど、ほとんどの熊はどんぐりや昆虫を食べているんだ」
「それはおかしいぞ、だってこの熊は……」
「あ、白桃が帰ってきた」
「お待たせ!はい、これ」
「桃だ!白桃の桃だ!んぁ―――ん」
「ちょっと!?今ここで食べるの!?」
マトンは受け取った袋から手づかみで桃を取り出すと、空に向かって大きく口を開いた。
そのまま桃を一口で食べようとしたところで、禅が釘を刺す。
「マトン?帰ったらみんなで食べようね。
白桃、無理言ってごめん。ありがとう」
「私の桃だぞ!」
「マトン、考えてごらん。
みんながこの桃を食べて、桃って美味しいなぁって再認識したらどうなるかな?」
「私の食べる桃が減る」
「違うよ、僕とおばあちゃんが桃を買ってくる機会が増えるんだ。
結果的に、マトンが食べられる桃が増えるんだよ。
それって、マトンにとっても嬉しいことじゃない?」
「むぅ、仕方ないなぁ」
「良い子だね、あと桃は皮を剥いて食べた方が美味しいんだよ」
「美味しいって言うか、そうやって食べるのよ……。
あと、種には毒があるから食べちゃだめよ」
「私は毒では死なない」
「はいはい、死んだ人も生きていた時は同じことを言っていたでしょうね。
禅、私の家はもう大丈夫だから、暗くなる前に帰りなさいよ」
「あぁ、もう夕方か。じゃあ、そろそろ僕らは帰ろうかな」
「白桃、次に熊が来たら私を呼ぶんだ。すぐに退治してやる!」
「はいはい、ありがとうね。ちゃんと皮を剥いてから桃を食べるのよ」
「わかった。禅、帰ったら剝いてくれ!」
「あと、袋を振り回して桃を傷つけないようにね」
「わ、わかった……!」
自転車を取りに行く禅と、桃が一個だけ入った袋を大切そうに胸に抱えて歩くマトン。
騒がしい来客のお陰で、白桃のやるせない気持ちは少しだけ軽くなっていた。
害獣は天災のようなものだ。
いくら対策をしても、山で暮らす以上は必ず付き合っていかなければいけない。
自然を相手にした農業はその度に振り回されるが、同時に恩恵を受けるときもある。
だから、彼らは明日には何事もなかったかのように、また働かなくてはならない。
「何よ……ちょっとズレてて抜けてるけど、素直で良い子じゃない。
マトンのためにも、来年も美味しい桃を育てないとね……あれ?」
白桃は二人を追いかけようと一歩踏み出し、ふと違和感を覚えた。
後で片付けようと思っていた、折れた枝がどこにもない。代わりに、不自然な位置から一本の枝がのびている。
「この枝、さっきまで折れていたような……?」
その枝は、まるで誰かが無理矢理くっつけたように桃の木から生えていた。
動きが緩慢になってきたタマの首元を掻きながら、上機嫌に読書をする。隣には蔵から持って来た本が積まれていた。早朝の散歩を終えた禅が戻ってくると、五冊目の本が読まれるところだった。
朝食を食べ終えても、マトンは蔵に戻らなかった。
「マトン、今日はこっちにいるんだね」
「……」
「お昼ご飯、蕎麦かうどんならどっちがいい?」
「肉が入っている方がいい」
「お肉はないけど、油揚げ入れる?」
「入れる、大きい奴がいい」
昼食後、自室で宿題をしていた禅が休憩時にリビングに来ると、マトンは本ではなく窓の外を見つめていた。
まるで何かを待っているかのように。
そして、ついに持って来た本を全て読み終える。マトンの忍耐力が限界を迎えた。
「むぅ、遅い!」
「何が?」
「白桃だ、今日桃を持ってくると言っていた」
「あぁ、言ってたね。もしかしたら家の手伝いが長引いているのかも。
電話しようか?」
「早く!早くかけるんだ!」
「はいはい、でも外にいたら出られないかもなぁ。留守電は入れてみるけど」
「……」
「まぁまぁ、桃なら今度の買い出しで買ってきてあげるよ」
「やだ、雨宮果樹園の桃がいい。あれじゃなきゃ嫌だ」
屋外での作業や用事があったら、電話に出られなくても不思議ではない。そもそもが口約束の上に、おすそ分けなのでこちらは無償で貰う側だ。
文句を言える立場ではないとそれとなく伝えるが、マトンは頑なに白桃の家の桃がいいと言う。
ただ、禅はマトンがどれだけ白桃の家の桃を気に入っているかを知っていた。
白桃だってそれを知っているはずだ。
禅が知っているいとこの白桃は、簡単に約束を破るような人間ではない。
必ず、何か事情があるはずだ。
「あっ、もしもし白桃?禅だけど。あのさ、約束の……うん、それは全然……えっ」
予想通り、白桃はマトンとの約束を忘れていなかった。だが状況は芳しくなかった。
「桃が、盗まれた?……わかった、一回そっちに行くよ。いいからいいから」
玄関で昼寝をしていたタロウが、異変を察知して起き上がった。
禅は祖母に事情を話すと、貴重品を持って外に出る。
帽子を被りながら自転車の鍵を取り出すと、自転車の前にマトンが立っていた。聞くまでもなく、ついてくる気だ。
「マトン、道はわかるよね?ゆっくりでいいから、後からおいで」
「私もついていく。並走すればいいだろう」
「僕、自転車で行くつもりなんだけど……?」
「問題ない。その間に説明してくれ、私の桃が盗まれた件について」
「わかった」
そこまで言うなら、とペダルを踏みしめる。
禅は焦りのあまり、マトンの履いている靴がサンダルだと気づかなかった。
彼女の口調がいつもより荒いことについても、いとこで慣れていて気にならなかった。
「白桃の農園に熊が出たんだって。それで、かなりの被害が出たみたい。
家に来られなかったのは、家族総出でその対応をしていたからだって」
「対応というのは?まだ熊がいるのか?」
「熊はいなくなったけど、警察に被害届を出して猟友会に連絡をして、被害状況を確認して……
またいつ狙われるかもしれないから、収穫できる桃は収穫しないといけないし」
「またいつ狙われるか?もう熊はいないのだろう?」
「熊は頭が良いから、果樹園に行けば桃があることを覚えたらまた来るよ。
それと、今回は果実だけじゃなくて木がやられたみたいだから……」
「じゃあ、昨日のあれは熊だったのか」
「昨日?もしかしてマトンが見たのって……っていうか、マトン、よくついてこれるね」
最初は遠慮をして走り出した禅だったが、マトンは少し後ろをぴったり並走してきた。
もう五百メートルは走っているはずなのだが、息切れ一つしていない。
長い脚を活かして跳ねるように前に進む走り方は、寧ろ余裕すら感じられる。妙なのは、ずば抜けた体力だけではない。洗練されていて無駄のない動きはどこか人間味がない。
「僕、これでも足腰強い方だし、辛かったらスピード落とすけど」
「いい、それよりもっと速く走ってくれ」
「え?いいの?」
「あぁ、遅いくらいだ。遠慮するな」
「そ、そう?ごめん……あ、見えて来たよ」
あっという間に雨宮果樹園が見えてくる。家の周囲には隣人や野次馬が集まっている。
さらに加速して近づくと、果樹園の中にも人がまばらに見えた。
禅が声を上げる頃には、マトンの目にはさらに多くの物が見えていた。
マトンにとって、人間がどこに何人いるかは問題ではない。
問題は、昨夜まであった熟れた桃がどこにもなく、実の重みでしなっていた枝が何者かによって折られていたことだ。無意識に、髪に偽装した体毛が逆立ち始めた。
「禅!本当に来てくれたの!?」
「うん、居ても立っても居られなくて」
「おぉ、祈生の坊主……と、誰だいその別嬪さんは」
「うわ、すっごい美人じゃ」
禅が駐輪場に自転車を止めると、二人に気づいた白桃が駆け寄ってきた。
周囲にはご近所さんと猟友会の会員がおり、事件について立ち話をしていた。
そこに、見たこともない美人が来たら嫌でも目を惹く。同村に住む住人の近況はお互いに共有している村民からすれば、マトンの登場は獣害よりも青天の霹靂に近い出来事だった。
白桃は、自転車の鍵をかける幼馴染の頭に優しく拳骨を当てる。
「……で、あんたって男は怪我している女の子を走らせて来たの?」
「あ、そっか。僕が走れば良かったのか。でもその、マトンは自転車乗れないから」
「マトン?」
「我が家の居候の名前だよ。昨日、僕がつけたんだ」
「……あんた、女の子に羊肉って名付けたの?」
「だめだった?覚えやすいし、マトンはマトンが好きだからさ」
「だから、そういう問題じゃないわよ」
「それで、何か手伝えることはある?」
「その気持ちだけで十分よ。私からしたら、今年もこの季節が来たなって感じ。
収穫できそうな桃はあらかた収穫したし、後片付けなんかも終わったからもう大丈夫。
猟友会の方にも来てもらったけど、熊に襲われたのは昨日の夜だろうって」
「出遅れちゃったか、遅れてごめんね」
「ううん、私の方こそ連絡が遅れてごめん。おばあちゃんと禅を心配させたくなくて。
でも、こういうのは情報共有した方が良かったわよね」
「その通りだ。禅くん、君も気を付けた方がいい」
「嵐山さん!こんにちは」
「こんにちは、元気だったかい?」
オレンジ色のベストを着用した、白髪交じりの男が挨拶を返す。
ベストは、猟友会に所属する猟師の証だ。猟師は、狩猟シーズンに限り猪爪や鹿の狩猟が認められている。
まさに山の動物のエキスパートだ。
「はい!それから、お肉をありがとうございました、すごく美味しかったです」
「相変わらず大人びているなぁ、君は。
それより、今回の熊は一筋縄では行かなさそうだ。
君のとこの畑も用心した方がいい」
「一筋縄では行かない、とは?」
「手口が巧妙だ。
電気柵を避けるために木と枝を伝っている。かなり知能が高い証拠だ。
恐らく若い熊じゃない。おまけに、足跡から見ても大きい個体だ」
「気を付けます、でも……うちはもう家庭菜園しかしてないですよ」
無表情で強面ではあるが、嵐山は面倒見がいい。
獣害が起きれば昼夜を問わず出動し、住民の話を聞き、時には罠を仕掛けている。
猟友会のネットワークで、嵐山の元には獣害の情報が集まりやすい。専門家のアドバイスは、それだけで被害者を安心させた。
嵐山は、自分とは反対に人当たりはいいが危なっかしい禅によく目をかけていた。
「そういう油断が一番危ないんだ。
君のとこの裏山と果樹園の裏山は繋がっているんだぞ。
今年はどんぐりが不作だから、熊が人里に下りてくる可能性も高い」
「ありがとうございます、用心します」
「最近だと連続強盗事件も相次いでいる。まったく、物騒な世の中になったもんだ」
「あぁ、ニュースで見ました。犯人、まだ捕まってないんでしたっけ?」
「らしいぞ、とにかく戸締りはしっかりするように。
近所の不良共も夏休みだからって好き放題だ。
うちの倅も変な輩とつるんでいるらしくてな。今日もどこで何をしているかわからん」
「正忠くんが?わかりました、僕も気を付けます」
「ところで、あの少女は?見たことのない子だ」
「あぁ、マトンです。今、うちで居候中でして」
「マトン……?ハーフか何かなのか?それとも遠縁の親戚か?」
「いいえ、山で会ってそのまま……あれ?マトン?」
「山で会って?それって、赤の他人を家に置いているということか?」
「マトン?どこー?どこ行ったのー!?」
「一緒にいた美人なら果樹園の方に入っていったぞ。君が来てすぐだ」
「え!?」
マトンは走ってきた勢いのまま、果樹園に飛び込んでいた。
一ヘクタール以上の広大な面積の農園には百本以上の桃の木がある。
桃を食べられた木はそのうち十本ほどだったが、かじられた桃や潰された桃があちらこちらに散乱していた。
食べるのに邪魔だったのか、木の上には桃に被せていた袋が並んでひしゃげている。
折れて地面に落ちた木には、これから育つはずだった小ぶりの実がついている。
マトンは、熊が一口食べて捨てた桃を拾い上げると、断面図の匂いを嗅いだ。
同じ体臭が木々や地面、そして森からもする。
「不愉快だ、これは私のだぞ」
「あ!?マトン!それは食べられないよ!」
「こら!ペッしなさい!あんたそんなにお腹が空いてたの!?」
「むぅ!まだ食べてない!」
「「まだ!?」」
すぐに駆けつけた禅と白桃に桃を取り上げられる。汚れた手を白桃に拭いて貰いながら、マトンは自分の主張が信じてもらえないことに拗ねていた。
ハムスターのように頬袋を膨らませていると、白桃に片手で頬を潰される。
「食べるなら、私がちゃんと綺麗で美味しいやつを選んであげるから」
「むぅ……わかった」
禅は被害を目の当たりにして顔を歪めていた。
熊による農作物の被害は、珍しいことではない。ないが、その中でもかなり酷い状況だ。
被害規模も被害額も相当なものだろう。
「ひどいね、こんなに荒らされて……しかも、これなんて食べかけじゃないか」
「大体、三千個くらいかしら。食べられたり、売り物にならない状態になったりね」
「三千個……」
「私の三千個の桃が……」
「いや、全部あんたのではないわよ。本当に桃が好きなのね」
「好き!大大大好きだ!」
「えへへ……看病しているとき、すり潰してあげていたのを覚えていたみたいで」
「なんで禅が照れてんのよ。つまり、間接的にあんたのせいってことね」
マトンは地面に落ちた枝を持ち上げて、本当ならいくつ実がついていたのかを指折り数えていた。
顔には、「全部自分が食べたかったのに」と書いてある。
白桃が視線を落とすと、自分と家族が決して短くない期間、丹精に育てて来た果実に泥がついている。
見上げれば、桃に一つ一つかけた保護袋が戦利品のように並べられていた。
「なぁなぁ、この枝はいつ次の実をつけるんだ?」
「いつ?その枝は完全に折れているから、もう実らないわよ」
「植物は切られても再生するんだろう?本で読んだ」
「枝の半分、もしくは皮一枚でも繋がっていたら可能かもしれないわね。
接ぎ木をするにも、そんなに成長していたら重いし無理よ」
「無理?じゃあ、この木は」
「来年か再来年、残った枝に実るのを願うしかないわ」
「来年って、じゃあ……今年は食べられないのか」
「そりゃそうでしょう?
でも約束したものね。一個くらいなら余っているかもしれないし、家を見てみるわ」
「私の三千個が一個に……」
「こらマトン、お礼を言いなさい。本当なら、マトンの桃は熊に食べられてないんだよ」
「……白桃、ありがとう」
「いいのよ、約束したのは私だし。桃を取られて悔しい気持ちはよくわかるわ」
家に戻る白桃に、マトンは完全に折れた枝が何とか幹にくっつかないか、角度を変えては断面図を合わせて試していた。恐らく、本で桜の接ぎ木か何かの知識を得たのだろう。
折れた枝には青々しい葉が生えており、折られなければ、この先数年に渡っていくつもの果実を実らせたに違いない。
「禅、私の桃を食べた熊はいつ処分されるんだ?」
「私の桃……?熊だったら、猟友会の人が罠を仕掛けてくれるらしいよ。
もし昼間に人里に下りてきたら、かわいそうだけど射殺されると思う」
「罠?熊はここを餌場にしているかもしれないんだぞ。
そんなにのんびりしていたら、また私の桃が食べられてしまう」
「そうかもしれないけど、熊は頭が良いし力も強いんだ。簡単には捕まえられないよ」
「強いといっても、銃で殺せるんだろう?」
「あのね、マトン。人間は様々な動物や植物がいないと生きていけないんだ。
正常な生態系を維持するためには、動植物を無闇に傷つけたり殺したりしてはいけないよ。
蔵の中には歴史の教科書があったよね?絶滅動物の話を思い出してごらん」
「むぅ……でも、じゃあ、何のために猟友会があるんだ」
「猟友会が駆除をするのは、人の味を覚えた熊と人里に下りて来た危険な熊だよ。
熊は雑食だけど、ほとんどの熊はどんぐりや昆虫を食べているんだ」
「それはおかしいぞ、だってこの熊は……」
「あ、白桃が帰ってきた」
「お待たせ!はい、これ」
「桃だ!白桃の桃だ!んぁ―――ん」
「ちょっと!?今ここで食べるの!?」
マトンは受け取った袋から手づかみで桃を取り出すと、空に向かって大きく口を開いた。
そのまま桃を一口で食べようとしたところで、禅が釘を刺す。
「マトン?帰ったらみんなで食べようね。
白桃、無理言ってごめん。ありがとう」
「私の桃だぞ!」
「マトン、考えてごらん。
みんながこの桃を食べて、桃って美味しいなぁって再認識したらどうなるかな?」
「私の食べる桃が減る」
「違うよ、僕とおばあちゃんが桃を買ってくる機会が増えるんだ。
結果的に、マトンが食べられる桃が増えるんだよ。
それって、マトンにとっても嬉しいことじゃない?」
「むぅ、仕方ないなぁ」
「良い子だね、あと桃は皮を剥いて食べた方が美味しいんだよ」
「美味しいって言うか、そうやって食べるのよ……。
あと、種には毒があるから食べちゃだめよ」
「私は毒では死なない」
「はいはい、死んだ人も生きていた時は同じことを言っていたでしょうね。
禅、私の家はもう大丈夫だから、暗くなる前に帰りなさいよ」
「あぁ、もう夕方か。じゃあ、そろそろ僕らは帰ろうかな」
「白桃、次に熊が来たら私を呼ぶんだ。すぐに退治してやる!」
「はいはい、ありがとうね。ちゃんと皮を剥いてから桃を食べるのよ」
「わかった。禅、帰ったら剝いてくれ!」
「あと、袋を振り回して桃を傷つけないようにね」
「わ、わかった……!」
自転車を取りに行く禅と、桃が一個だけ入った袋を大切そうに胸に抱えて歩くマトン。
騒がしい来客のお陰で、白桃のやるせない気持ちは少しだけ軽くなっていた。
害獣は天災のようなものだ。
いくら対策をしても、山で暮らす以上は必ず付き合っていかなければいけない。
自然を相手にした農業はその度に振り回されるが、同時に恩恵を受けるときもある。
だから、彼らは明日には何事もなかったかのように、また働かなくてはならない。
「何よ……ちょっとズレてて抜けてるけど、素直で良い子じゃない。
マトンのためにも、来年も美味しい桃を育てないとね……あれ?」
白桃は二人を追いかけようと一歩踏み出し、ふと違和感を覚えた。
後で片付けようと思っていた、折れた枝がどこにもない。代わりに、不自然な位置から一本の枝がのびている。
「この枝、さっきまで折れていたような……?」
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