アサシンとよばれた公爵令嬢エルの物語

たまる

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ギデオンの体はすごいんです

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 先ほどの騒動が嘘のようだった。
 心中いろいろ思っている男子二人をほっておいて、今までの人生の中で、一番最高に幸せそうな顔でエルがご飯を食べ続ける。

 「おい、そんな急いで、食べると喉詰まって、死ぬぞ!」

とマティアスが、パンに、がぶついているエルに注意する。

 「え? あ! そういう手もあるな。まあ、いいや、今朝は気分がいいんだ。食欲が増進した!」

 驚く勢いでご飯を平らげるエルに執事のリトが声をかける。

 「エル様、このままだと、午後がペナルティの授業になりますよ」

 最近、体がなまって仕方がないというエルの不満を聞いて、令嬢として及第点、これも大変低い基準なのだが、これがリトによってクリアされたとみなされたら、ご褒美として、午後の三刻くらいからは、剣の使い方の授業に当てられた。もちろん、先生はマティアスだった。
 正しい騎士が使う長剣での正式な戦いは、全く素人なエルにとっては、目新しいことが満載だが、新しい事が習えて楽しかったし、何より体が動かせる事は気持ちがよいらしく、唯一のエルの息抜きになっていた。

 「だ、だめだ。恐ろしい事を言わないでくれ。リト。わかった。きちんとちぎって食べる。でも、リト、今朝は本当に素晴らしかった」
 「なにがそんなに素晴らしかったのですか?」

 リトがそのつぶらな瞳をキラキラさせているエルを見つめる。
 もちろん、リトもこの少女は素行や仕草、喋り方など、つまり、見た目以外は全部不合格だが、性格の素直さや外見の美しさは公爵令嬢そのもの、だったので、だんだんと彼女の教育に彼ものめり込んでいるようだった。
 ギデオンに言われて、テーブルマナーを主に教えていた。

 エルが何を答えるのかが予想できたマティアスは、
「エル、よせ! 言うな!」と言い、
「エメラルド、口をつつしみなさい!」
と、ギデオンは彼女を窘めながら、お茶を飲む。

 まあそんな事で臆病になる元海賊などどこにもいない。

 「あのね、リト、昨晩の寝台でのギデオンのはすごかった! 痺れそうなぐらい感動した!」

 あまりにも衝撃的な言葉で、ギデオンは口に含みかけていたお茶を噴き出した。
 マティアスでさえ、どうしようかと思い、
 「お、お前! 絶対公爵令嬢、無理だよ!!!」
 と唸っている。

 今まで感情の起伏を出さないリトでさえ、その頬が赤くなる。でも、ゴホゴホと咳き込んでいる主人の代わりにやさしくリトが話しかけた。

 「そうですか? ギデオン様は昔は体が弱かったんですか、だいぶ苦労されて、このように強靭になられたんですよ。ですから、エメラルド様が、ギデオン様を強い方を思って感動していただくのは、リトも嬉しいですよ」
 とにっこりと話しかけた。

 「そうだろ。私もそう思う。ギデオンは立派だ。だから、祝福をあげた。ギデオンは特別だな」
 
 さっきの朝のキスを思い出し、マティアスが声を出す。

 「あ、さっきのやつだな。お前、あんなキスなんて………普通の令嬢はしないぞ。なんだその祝福とは?」
 「……妬いているのか? マティアス。お前はまだ無理だ。私の祝福はやらん!」
 「なんだそれ!! お前の乳くせえ、キスなんているかよ!」
 「ふんだ! なんとでも言え! これはオレが最高に気分がよくなって、感動した時にしかできないんだ!」
 「エメラルド。マティアスの言っていることには一理ある。ああやって肌を寄せ合うのは特別な関係しかできない。ましてや接吻はとても意味がある。だから、安易に……」

 バンッとテーブルを激しくエルが叩いた。
 目は涙目だ。

 「ぎ、ギデオンはわかってない!!」
 「「!!!!」」
 「あ、あれは特別なんだ!! 本当に特別な時にしか出来ないんだ。私がしたくても……」

 あっと言って口を塞ぎ、なにかしゃべり過ぎたかのような素振りのエルは、『ごちそうさま』と言って、部屋から飛び出した。

 「エル!」

 マティアスが呼び止めようとしたが、エルはそのままどこかに行ってしまう。

 「ギデオン様? 追わなくていいんですか?」

 はっと我にかえったギデオンが、マティアスを見る。

 「ああ、悪い、マティアス。様子を見てくれないか?」
 「……はい、わかりました。ギデオン様」

 二人が部屋から出ていくのを、ギデオンは見つめていた。
 ただ、彼の片手が、エルがキスをした胸の上に置かれていた。


 
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