20 / 43
木の上の二人
しおりを挟む
いつものように、大きな樫の木の上にエルは登っていた。
ここからはマクレーン公爵の館の正門から、館直前まで繋がる砂利道を一望できた。
風が彼女の銀色の髪の毛をゆるやかに流していた。
エルが座っている木の下からごそごそと音がし、長剣をさしたまま、ガチャガチャと激しい音を立てながらマティアスが登ってきた。
ようやくエルの隣に恐る恐る、腰を据える。
「あーあ、本当にやめろよ。この木登り、こんなのやったら一発で公爵令嬢の仮面がとれるぞ!」
「……知らない! 公爵令嬢なんて、無理だ!」
マティアスが遠くを見つめた。張り詰めたエルの表情を見たのせいかもしれない。
マティアスは初めてあんなにギデオンの上ではしゃいで騒ぐエルを見た。そして、この泣き顔だ。くるくると表情を変えるこの少女がとても純粋なものに見えた。とても名だたるアサシンには考えられなかった。
「確かにお前には無理かもな」
「……」
エルも同じように視線を遠くに見据えていた。
「でも、あのギデオン様が、お前にしか出来ないっていうんだ。それってすごいんだぞ?」
「あの祝福は、母さんが教えてくれたんだ」
「!」
「……元海賊で、アサシンと呼ばれたオレの母さんだ」
「な、なんだよ、今、いきなり告白タイムかよ。おい、まて……お前のお袋さん、生きてんのかよ!」
「……知らない。捨てられたから」
「な、なんだと?」
「でも、何故か捨てる前に、母さんが、オレに教えてくれたんだ。身体が熱くなって何かに満たされ、その人間が素晴らしい生き物だと感じたら、貴方はソレを祝福しないといけないって……」
「なんだよ、へんな母ちゃんだな。そんな教育方針なんて、聞いたことねえや」
「それだけなんだ」
「え、それだけしか母ちゃんの思い出がないのか?」
「違う、それしか、オレが生きている意味がないんだ」
「………」
マティアスがそれ以上、なんとエルに言葉をかけていいのかわからず、礼儀作法の時間になるまでそこに二人でぼうっとしていた。次第に日が傾き始め、しびれをきらしたリトが呼びにいくまで、二人でただ、その木の上で遠くを眺めていた。
降りた瞬間、歩き出したマティアスが、思い出したように話す。
「エル、でもおれはその祝福ってやつ、まだもらえないんだろ?」
ぷっとエルが吹き出した。
「そうだな。まだお前はもらえないな。いや、一生もらえないかもな」
「ふ、ふざけんな!!」
逃げ出すエルをマティアスは追いかけていた。
そんな二人の様子を館の窓から、ギデオンは静かに眺めてた。
ここからはマクレーン公爵の館の正門から、館直前まで繋がる砂利道を一望できた。
風が彼女の銀色の髪の毛をゆるやかに流していた。
エルが座っている木の下からごそごそと音がし、長剣をさしたまま、ガチャガチャと激しい音を立てながらマティアスが登ってきた。
ようやくエルの隣に恐る恐る、腰を据える。
「あーあ、本当にやめろよ。この木登り、こんなのやったら一発で公爵令嬢の仮面がとれるぞ!」
「……知らない! 公爵令嬢なんて、無理だ!」
マティアスが遠くを見つめた。張り詰めたエルの表情を見たのせいかもしれない。
マティアスは初めてあんなにギデオンの上ではしゃいで騒ぐエルを見た。そして、この泣き顔だ。くるくると表情を変えるこの少女がとても純粋なものに見えた。とても名だたるアサシンには考えられなかった。
「確かにお前には無理かもな」
「……」
エルも同じように視線を遠くに見据えていた。
「でも、あのギデオン様が、お前にしか出来ないっていうんだ。それってすごいんだぞ?」
「あの祝福は、母さんが教えてくれたんだ」
「!」
「……元海賊で、アサシンと呼ばれたオレの母さんだ」
「な、なんだよ、今、いきなり告白タイムかよ。おい、まて……お前のお袋さん、生きてんのかよ!」
「……知らない。捨てられたから」
「な、なんだと?」
「でも、何故か捨てる前に、母さんが、オレに教えてくれたんだ。身体が熱くなって何かに満たされ、その人間が素晴らしい生き物だと感じたら、貴方はソレを祝福しないといけないって……」
「なんだよ、へんな母ちゃんだな。そんな教育方針なんて、聞いたことねえや」
「それだけなんだ」
「え、それだけしか母ちゃんの思い出がないのか?」
「違う、それしか、オレが生きている意味がないんだ」
「………」
マティアスがそれ以上、なんとエルに言葉をかけていいのかわからず、礼儀作法の時間になるまでそこに二人でぼうっとしていた。次第に日が傾き始め、しびれをきらしたリトが呼びにいくまで、二人でただ、その木の上で遠くを眺めていた。
降りた瞬間、歩き出したマティアスが、思い出したように話す。
「エル、でもおれはその祝福ってやつ、まだもらえないんだろ?」
ぷっとエルが吹き出した。
「そうだな。まだお前はもらえないな。いや、一生もらえないかもな」
「ふ、ふざけんな!!」
逃げ出すエルをマティアスは追いかけていた。
そんな二人の様子を館の窓から、ギデオンは静かに眺めてた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる