アサシンとよばれた公爵令嬢エルの物語

たまる

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急なお膳立て

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 「エメラルドをすぐに社交界に出させると?」

 マルクスはただ頷いている。

 「まだ準備中なんですが……」

 マルクスが窓ガラスを覗き込む。淑女の憧れ、お淑やかという言葉の代名詞であるはずのが、物凄い勢いで鳥を追いかけている。
 マティアスが急いで追いかけて行き、めちゃくちゃに怒っている。
 初めて、自分があのダッカ島からわざわざ出させた暗殺者を見たマルクスは唖然としている。
 ギデオンも仕方ないという表情をしていたが、一番肝心の隠したかった眼帯は外れているし、まああの作法は、正直に付け焼き刃なのだ。

 マルクスが外を見ながら、吹き出した。
 見なくても、ギデオンにはわかっている。
 きっとさらに淑女らしからぬ行為をエルがしているに違いなかったからだ。

 「あ、そうだな。確かにあれでは、令嬢とはいえない……。でも、我々は彼女が必要だし、実践のほうが向いているんじゃないか? しかも、なんだ、アサシンというのは、本来はあんなに天真爛漫なものなのか?」

 その質問に対しては、はあっとしか、情けない答えしかギデオンはできない。
 マルクスが体勢を豪華な椅子の上で少し崩した。

 「それに、ミハエルが煩いんだ。エメラルドを早くこちらに連れてこいと……」
 「……」
 「何か、私が知らない間に彼は彼女に接触したみたいだね。公爵……」
 「はい、ちょっとアクシデントがありまして……」
 「ちょっと、困った事があってね。……誰か、その証拠を掴んでくれる者が必要なんだ……」
 「なんの証拠でしょうか? あの闇人ヴィゴンについてでしょうか? また現れましたか?」
 「いや、違うんだ。ミハエルの婚約者だ……」

 どうやら話を聞いていくと、ミハエルの幼少の頃からの婚約者、公爵令嬢 マリア・ノートルダムがどうやら不義を働いているのだが、なかなかその証拠が掴めずに、こちらも困っているという話だった。
 王家が乗り込んで婚約者の不貞を探すわけにはいかなかった。
 誇りプライドと歴史が前代未聞な事態を生んでいた。

 公爵というギデオンと同じ立場であるため、それ以下の位のものはなかなかその核心に迫ることさえ恐れ、皆証拠を見ても見ぬふり、最悪の場合、彼女がこれからもつ位の恐ろしさを危惧して、公にその事を証言するものさえいないのだ。

 相手は若き将校だった。
 恋を夢見て、愛を囁くような若き男だった。
 マリアのいいなりという噂が飛んでくる。

 誰かが、確実にその不義の証拠を掴んで証言するということが、必要だった。
 そのため、まだ社交界デビューしていないエルに白羽の矢が立った。
 正直、エルには有り難迷惑な話だったが、断る理由ももうあまりなかった。

 彼女の目はもう眼帯をしていないし、強いて言えば作法に多々問題があったが、年齢を考えて公爵が付きそうことで、問題は解消されそうだった。
 そんなわけで、エルはいきなりデビューしないで、王宮に乗り込むことになってしまった。

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