アサシンとよばれた公爵令嬢エルの物語

たまる

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エルの初体験

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 裸の口論は、後ろからそっとバスローブを持ってきたギデオンによって終わる。

「エメラルド、見せてくれてありがとう。よくわかった」

「……そうか、よかったな。あ、やっぱりギデオンも男だから、あれなのか、やっぱりマティアスみたいに色々したくなるのか?」

 その答えはマティアスの絶叫によって終わりを告げる。

 マティアスがなぜかカッカしている。
 バスローブをつけたエルが心配して、「マティアス、どうした」と語り始めた。

 ギデオンは、もう今日は寝るといいだし、隣の部屋に消えた。
 なにかマティアスとエルが話し合うことが必要だと思ったらしい。

 マティアスがそのギデオンの行動にちょっと驚いて、座っていた椅子から顔をあげ、自分も部屋から下がろうとする。

「マティアス、エメラルドと話せ、それで気がすむなら……」

 ギデオンが話す。

 沈黙がマティアスとエルの間にあった。

 エルが「ああ、なんだか今夜は疲れたけど、こんな気分は悪くない。お前達のお陰だな……」
と言い出した。

「エル、お前……」

 マティアスはエルに聞きたいことや言いたいことがたくさんあった。
 どうやら、ギデオン様はそれらを自らの観察眼ですべて解いてしまったような感がある。

 でも、自分は……まったくわからない。

「エル……」

 マティアスは今まで自分がエルに対して抱いてきた感情がなんなのか、考えたくなかったし、認めたくなかった。

 でも、エルが裸でギデオンと自分の前に現れたとき、とてつもないドス黒いものが彼を襲ったのだ。
 ギデオン様にその肌を見せないでくれと……。

 出会いは最悪、殺されかかったのに。
 彼女のはまるで天からの使いのように美しい。
 しかも、性格はまったくの天真爛漫。というより野生児だ。

 それでも、彼女は、元アサシンで元海賊で、きっと犯罪歴なんて、とは比べものにならないくらいひどいと思うが、なにかが彼を惹きつけた。

 エル、君を…好きかもしれない。

 君が何者であれ……。

 ただ、ここで彼女になにを問えばいいのかわからない。
 あの五階の建物の高さの木から平然と飛び降りたことを追求すればいいのだろうか?
 それとも、好きな男が今いるのかと問い詰めればいいのか?

 ギデオン様をどう思う?
 
 お、俺はどう思う?

 ああ、だめだ。
 どれもこのエルからまともな答えが出てくるようには思えなかった。

「どうした? マティアス。なにかビビったのか?今晩のことについてはお前達がなにも聞かないから、ありがたい。だけど、お前も疲れたんだろ?精神的にも尾行でやられたか?」
「あ、いや、そんなんじゃない」
「そっか。じゃー、一緒に寝るか?」

 エルがバスローブを脱ぎとり、裸のままで寝台に入り込んだ。

 ええええ?とした顔のマティアスがそこにいる。

「な、なんだよ。ど、どういう意味だよ!」

 裸を一応、布団の中に隠して、エルはにこやかに微笑んだ。

「母ちゃんのおっぱいでも恋しいかもしれんだろ? 人肌ぐらいは感じさせてやるよ……」

 マティアスの顔が真っ赤になる。
 恥ずかしさと怒りでだ。
 彼はがっと起き上がり、エルの部屋の棚から彼女の寝着を出した。
 そして、ボンっと音を立てて、エルが寝ている寝台に座る。

 目の前にはすでに横になっているエルがいた。

「な、なんだよ!」
「お前、男と、その、したことあるのかよ?」
「はあ、なんだ。それ、意味がわかんない」

「んも!!!!!!」
「なんだよ。訳わかんないなーー!」

「だから、こういうことだよ』

 マティアスがぐいっとエルの両肩を抑えた。
 自分の唇をエルの柔らかな唇に当てた。

 !!!!!

 エルが固まっている。

「ど、どうだ!! こういうことは見るのとするのでは大違いなんだぞ! したことあるのかぁ?」

 殴られると思っていたのに、目の前のエルはまるで違う行動をとった。
 頬を赤らめて、自分の唇を触っている。
 彼女の肩でさえ赤くなってきている。

 今度はその表情にマティアスがやられた。

「な、なんだよ。その表情かお、マジ、反則だろう?」

 エルは、「こ、こんなこと……したことない……」と言い出した。

「ええ、ギデオン様の腹にしてたじゃんか!」
「う、うん、でも、唇ってなんだが、ドキドキする……」

 マティアスは自分の理性がキレそうだった。

「エル!!!!」

 彼女に襲いかかろうとしてしまう。
 そこにいきなり、首えりをぐいっとうしろに掴まれた。

 ええっと思って後ろを振り返ると、眉間にいつものようにシワを深く寄せて、鬼の形相をしたギデオンが立っていた。

「マティアス、お休みのキスにしては、ちょっとやりすぎではないのか……」
「ぎ、ギデオン様!! す、すいません」

 マティアスは自分がしてしまった失態に初めて気がついた。
 エルがどういう女で、どういう過去を持っていようが、今、彼女は彼が庇護する令嬢なのだ。
 それに無断に口づけなど、ありえない。

「申し訳ございません。ギデオン様」

 自分の欲が先走りしてしまったことをマティアスは恥じた。

 ギデオンが無言でエルを見る。

「エメラルド、マティアスはいいやつだ。お前がコレを殺さないことはわかっている。でも、ほかの男たちはお前の全てが欲しいと思うかも知れない。快楽は人に隙をつくる。特にお前のように見た目と中身が違ったようなものは正直、私も心配だ。だから、今日はたまたま確認事項があって見せてもらったが、他人にはその裸体を見せてはならない。これは公爵令嬢とかではなく、普通の女性としてのマナーだ。いや、ルールと言ったほうがいいか。わかるか? エメラルド」

「うーーん、よくわからない。でも、あれかな、キスとかしちゃうっと隙が出来すぎるのは、今よくわかった。かなりドキドキした。うん、だから、みんなするのか。なるほどな」
などと、呑気なことを言っている。

「だったらさ、確認するわ。裸見せなければいいんだろう?」

 エルがシーツを引っ張りながら、立ち上がる。

 えっと思っているギデオンとマティアスを前に、エルがちゅっと音をたてて、ギデオンにキスをした。

「おおお、すごい、やっぱりドキドキする!」

 今度はギデオンが震え出した。
 顔が赤いのか青いのかよくわからないほど動揺しているらしい。

「え、エル!! お前な!! そういう行動だよ! いささかやめろ」
「え、なんだよ。お前だってオレに急にしただろ? お返しだよ。やっぱり突然っというのは来るな。隙をすくらない練習として、これ、いつもやろっか?」

「「しない!!!」」

 二人の男が悶絶した。
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