アサシンとよばれた公爵令嬢エルの物語

たまる

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婚約破棄のその後

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 マリアは殿下直属の警護隊に連れていかれた。

 「で、殿下! 違います!! 誤解です!!」

 その言葉はホールに響いたが、ミハエルはただ手をかざして、アレクに下がれとだけ命令する。

 ざわざわとしている中、微笑みながら、ミハエルがエルの前に現れた。

 「見苦しいところを見せたね。エメラルド。君にはまだ刺激だったかな……」

 少し癖っ毛のような金髪のミハエルに微笑んだ。
 そこに黒い影が落ちる。
 ギデオンが近づいてきたのだ。

 「殿下。たとえ、殿下でもここは夜会会場……。私に許可なくエメラルドに話しかけられては困ります」
 「ああ、マクレーン公爵。相変わらず、お固いな……」
 「一応、後見人ですので」
 「ああ、早く父に進言して、エメラルドを正式にお前の娘にしてもらおう。そうじゃないと私はおちおちと寝ていられないよ」

 じろっとミハエルがギデオンを見る。
 二人の間に微妙な空気が流れるが、エルはそれがなんなのか全くわからない。

 「あの……すみません」
 「「なんだ」」

 二人の男に睨まれた。
 「すっごい会場が見ているんですけど、これって……」

 二人の男が目を周りに向けた。
 確かに皆が唖然としながら、こちらを向いている。

 「ではちょっと早いが、始めようか?」

 殿下が楽団の指揮者に向かって、手を上げて、微笑みかけた。
 手で何かを始めろと指示している。
 本来なら、夜会が始まるまであと少しの時間が余っていたが、いまのこの混乱とした雰囲気を抑えるのには、ダンスを始めるのが一番だと、指揮者も同意したらしい。
 指揮者がはっとした顔とともに、その指揮棒を降り始めた。
 緩やかなワルツの序奏が始まる。

 「うん、の最初にふさわしい……」
 「??」

 エルがハテナ顔をしていると、王子がエルの前にひれ伏せた。
 これは騎士ナイトが女性にダンスを申し込む格好だった。

 「エメラルド嬢、ダンスを私と踊っていただけないだろうか?」

 キラキラの目線をエルに注ぐ。
 エルは焦って、横にいるギデオンを見た。
 何をしたらいいかわからないからだ。

 「……殿下、こんなに注目を浴びたら、断れないのをわかってやってますね。わかりました」

 ギデオンはエルを見据えた。

 「エル、殿下と踊って来なさい。でも、と同じようにやるんだぞ」

 「……はい、ギデオン様……」

 ちょっとむくれ顔なエルが公爵をみた。

 いつもと同じ……ということは、抑えてやれっということだ。

 エルが本気になると、まるでプロ中のプロが踊っているようなのだ。
 それだけではない、ただ、その身のこなしが人間ではないような妖しさと美しさがあり、それをいまここで披露させるわけにはいかないような気がしたからだ。

 「小言が多い後見人だね。ぼくはそんなにないから……」

 注目の二人が踊りだした。
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