駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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見合った対価を渡したいだけ

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俺がほぼ手を貸す事なくパーティーは順調にホセのダンジョンを下っていく。

撃ち漏らした魔物や背後からきた魔物を担当していたのだが……初心者くんから買い取った木剣の予想外の使い心地に驚いている。
すぐに折れて使い物にならなくなるだろうと思っていたが、下手な金属より硬いし丁寧に研がれた刃は魔物の体を抵抗なく切り裂いてしまう。

何より木なので通常の剣より軽く、体の小さな俺にはかなり扱いやすい……これは銀貨6枚では申し訳なくなる代物かもしれない。

何度かボス手前までは進んでいたので道順も罠も間違える事なく進み、あっという間にボスのいる10階層へ辿り着いた。

つい先日まではあの初心者くんの様に先輩冒険者から洗礼を受けていたとは思えない成長っぷりだ。
希望に満ちた瞳……というよりも決意をした瞳をしていた3人、剣士のエリオと魔法使いのジャンと回復士のローラ。同じ教会で暮す孤児らしいが、どうもその教会の運営がなかなか厳しいらしく……少しでもシスター達の役にたちたいと勝手に冒険者になったらしい。
そんな中で登録料を貯めるのは大変だった事だろうな。

そんな彼らの献身などお構いなく、先輩ヅラで暴力を奮おうとしたアホどもにやり返すでも媚びるでも怯えるでもなく、ただ二人を守ろうと真っ直ぐにアホを睨むエリオの姿に気まぐれな気持ちが起こって、一緒にダンジョンへ行かないかと誘ってしまった。

バランスはともかく経験が足りない彼らにアドバイスをしながら……子供の成長は早いなと親のような気持ちで頷いていると、

「ルカさん!!やりましたよ!!ついにオークを倒しました!!」
「ドロップ品もお肉がいっぱい!!」

不安はなかったがオークを難なく倒せたようだ。はしゃぐ三人お頭を順番に撫で……おかしい、初めて会った時は同じぐらいだったのに、子供の成長は本当に早い。

「10階層までを周回してれば教会は十分潤うだろ。まず目的を見失うなよ、自分の力を過信するな。先に進むのはもう少し大きくなって……」

必死に背伸びをして一番成長したエリオの頭を撫でながら最後のアドバイス。

「わかってますって!!ルカさんは本当に過保護なんだから」

これでやっと他の街へ移れるな。ハーフリングの血のせいか、どうにも一と所に留まっておくのが苦手だ。

ーーーーーー

優秀な三人のおかげで明るいうちに街まで戻ってくることができて、受けていた依頼の報告と素材の買取をお願いして……。

「よく頑張ったな、これからも頑張れよ」

預かっていたオークの肉をアイテムバッグ(小)ごとエリオに手渡す。

「ルカさんこれ!?」

「俺はアイテムバッグ(大)があるから、使い古しだがやるよ。時間経過ありだから気をつけろよ」

「ルカさん……」

エリオは「昨日魔道具屋で買ってるの見ちゃいました」と余計なことを言いながら涙を流す。
うん、そういうのはそっと胸に秘めておこうな。

フードブースでジュースで乾杯をしながら少し感動の別れをしていると、後ろの席から不穏な会話が聞こえてきた。聞き耳を立てるまでもなく大声で話す馬鹿達。

「マジかよ?あの新人を連れてフリックスがナキワルドのダンジョンへ?あんなとこ初心者どころか中級者だって近づかねぇ魔物の巣窟じゃねぇか。なんだってフリックス達もなんでそんな面倒な事してんだ?別にいつも通りみんなで心折ってやればいいんじゃねぇか?」

「あ~、俺は見てなかったけど昼頃依頼から戻ったフリックス達となんか一悶着あったらしいぞ?ほら急にスキルに目覚めたヤツにありがちなイキりっての?」

「よりにもよってフリックスに……馬鹿なヤツだな、今頃は魔物の餌ってか?」

ナキワルドのダンジョン?
一番弱い魔物でもAランクで、入るにはAランク冒険者が一人は……そうかフリックスはあんなバカでもAランク冒険者だった。だからって登録したばかりのFランクを連れて行く場所じゃない。

「ルカさん?どうしたんですか?」

「いや、ちょっと急用ができたから俺はもう行くよ。お前達の成長を見られてよかった。下の子達を飢えさせる事なく、ちゃんとシスター達を、教会を守るんだぞ?」

「「「はいっ!!」」」

感動の別れを早々に切り上げると俺は冒険者ギルドを飛び出した。

昼頃に戻ってきたフリックス達と揉めて、それからナキワルドへ向かったのならまだ間に合うかもしれない。
ナキワルドなんてAランク冒険者だって一人で挑めば生存率は10%の難関ダンジョンだぞ?なんだってわざわざそんなところへ?新人一人をいたぶるにしては手が込みすぎている。

別に初心者くんと何か繋がりがあるとか、特別な感情があるわけではないけれど……この木剣のこの硬度と切れ味は、きっとただの木剣ではなくレアアイテムだろう。それに対して銀貨6枚では心苦しいから、残りの対価を払うだけ。

速く、もっと速く、間に合え俺。

谷を飛び降り、木々の合間を飛び抜けながら最短ルートでナキワルドのダンジョンへと向かった。
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