駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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帰路はサクッと

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エンシェントマジックドラゴンの肉はとても美味。

「さんざん食べておいてなんだが、貴重な肉だったんじゃないのか?」

この世界にそんなドラゴンは聞いたことがないから、いまある分が無くなればもう二度と手に入らなくなるはず。

「別にこのまま置いてあってもずっとアイテムボックスに入れたままになるだろうし、肉だって丸焦げよりルカちゃんに料理してもらって美味しく食べてもらった方が嬉しいはずだよ、俺なら嬉しい。ほらもっと食べて」

「お前を食う気はないが?」

焼けた肉から順に皿の上に乗せられていく。貰ってばかりというのもな……肉以外で何か。
そうださっき採ったばかりのあれがある。
手で縦に裂いたママタンゴを鉄板の上に乗せてやった。焼けてくるとじわじわと水分が滲み出て……。

「見た目はやっぱりアレだけど、焼いてくとすごいいい匂いがする」

鼻をくんくんと動かしながら奏は鉄板に近づいてくる。
だろうなママタンゴの最大の武器はこの香りだ、どんな香りかと聞かれるとなかなか説明はできない『ママタンゴの香り』は『ママタンゴの香り』なのだから。

焼けたところにボカチスの果汁を垂らして……。

「もう食べ頃」

「ルカちゃん、ルカちゃん!!醤油、醤油欲しい」

子供のようにはしゃぐのでセウユ豆もかけてやる……こっそり自分の分にも。
やはりこのセウユ豆の焼ける香りもいい香りだ。

一口、シャキッと齧っただけで口の中に香りがいっぱいに広がっていく。
ゆっくりと鼻から息を吐くと……ああ、幸せ。この歯応えも最高。

「わ、見た目からそうだと思ってたけどやっぱり松茸だ。味も香りも歯応えも俺が食べたことある安いのとは全然違うけど……香り強烈!!」

解体の時には青い顔をしていたが、心配はなかったみたいだ。

「美味いだろ?顔色悪かったから嫌いなのかと思った」

「解体シーンはちょっと衝撃的だったけど、茸は好きだよ……てか、顔色とかちゃんと俺のこと見てくれてんだね」

「普通パーティーの健康状態やらには気を遣うだろ」

ん、エンシェントマジックドラゴンの肉でママタンゴを巻いて一緒に食べてもこれは美味い。

「そっか……いいね、パーティーって」

「そうだな」

こうして新しい食材や知らない知識と出会えるのはとても素晴らしい事だ。

ーーーーーー

これで本当に俺の魔力の上限は上がったのだろうか?身体強化を掛けて見ると……確かにいつもより効果が高い様な気がする。

「奏」

背後から声を掛けるのと同時に、全力で殺すつもりでやったが……突然の攻撃でも俺の剣は、奏の剣に遮られる。やはりまだまだ簡単に止められるか。少し寂しく思いつつ剣を鞘に戻した。

「いつも唐突なんだから……でもいいね、ちゃんとスピードも上がってるし打ち込んでくる力も上がってた」

「他の魔法はあまり……だけどな」

炎を出してみたが威力はあまり変わらず、まだ焚き火の火種ぐらいだった。水もコップ1杯がやっと、半分しか出せなかった事を考えると進歩か?

「まだまだエンシェントマジックドラゴンの肉はあるからさ。これからだよ、これから」

「奏ではどれだけ食べてきた?」

「俺?俺はほら、転生した時に勇者としての恩恵的なもんがあるから……」

スタートラインが違うと?天才というのは羨ましいな。

「蘇生魔法とやらを使えるようになったら……良いんだけどな」

大切な人を守る事が出来る。パーティーが壊滅して……俺だけ生き残るなんて事も、もう無くなるんだ。

「それは難しいかなぁ……俺も蘇生魔法は使えない。簡単なヒールと浄化魔法で限界だよ。蘇生は長年神に仕えた神官や聖女の特殊魔法だったから」

「……お前に神官は無理そうだな」

「転生とかさせられても、神とか信じてないからね。ルカちゃんが教祖になったら神官に転職するけど」

魔人部屋を出て、リポップしていたボスを倒し、階段を登りながらコートを着込む。
奏も同じ様にコートを羽織って……いちいち言葉にしなくても、行動してくれるのは楽だ。

「お前なら転職仕放題だろ。お前の無尽蔵な魔力は魔道具師のギルドからは大歓迎されるだろ」

「えー魔道具とか細かい事は苦手なんだって」

手を繋いで、吹雪の中を出口に向かって歩いていく。

「石に魔力を込めて魔石を作り続けるだけの簡単なお仕事もある。戦争前なんかは魔石が足りなくて徹夜で延々とやらされるらしいけどな」

「何、そのブラック企業……やらないよ。ルカちゃんとこうして旅が出来るの最高に天職だと思ってるから」

ママタンゴを捕まえようと思ったが、奏に引き摺られる……残念。

「そういえば、魔石って魔物の身体から集めるんじゃ無いんだね」

「なんで魔物の体内に魔石?お前の世界ではそうだったのか?」

「強い魔物の体内には大抵あったかな?こっちでは人工物扱いなんだ。食べ物じゃないから興味が無いだけかと思ってた」

奏がわざわざ切り捨てたアーマードベアの装甲をはいで、肉と皮を解体していると不思議そうに見てきた。うーん……手間取る、勿体ないが一体一体の解体は諦めよう。だいぶん傷口も繋がってきたが……早く右手が治らないだろうか?

「別に食材以外も採取する。レイミードタランチュラの糸は服職人が喜ぶ」

フロア中に張り巡らされたレイミードタランチュラの糸を棒に巻き取って奏に渡す。

「蜘蛛の糸で布を織るの?なんかちょっとイメージが良くない……」

「キラキラと輝く半透明な布になるからな。貴族の女性がフリルに使ったり人気だ」

この蜘蛛の巣だらけの中から、粘りの無い部分を探さねばならないので面倒であまり集めないけど……レイミードタランチュラ自体は嫌がるのに、その糸で織った布は喜ぶ不思議。

「岩なんてどうするの?」

「マグマ岩を使って肉や野菜を焼くと何故か美味い。今のは古くなってきた。いい大きさのがあったから持って帰って職人に削ってプレートにしてもらう」

「溶岩焼き?良い!!食べたい!!プレートかぁ……これで良い?」

野菜を切る感覚でマグマ岩を輪切りに……同じ木剣だよな……俺にも出来るか?試してみたが、途中で剣が止まってしまう。まあ、職人に依頼する時間を省けてよかったと思おう。

「魚……刺身食べたい」

「刺身?」

こちらに向かって飛び込んでくる魚を見つめながらも奏は何処か遠くを見ている。

「そう、生の魚の身にね……こう、醤油を付けて……あぁ~寿司食いてぇ!!」

「寿司……魚を生で食べるのか?それは大丈夫なのか?」

「やっぱそういう反応だよねぇ……美味しいのにな……刺身」

よくわからないが、とりあえず一匹捕まえて絞めてアイテムバッグへ……魚の魔物は解体せずともアイテムバッグへしまえるから楽でいい。

「鑑定でも生食可って出てるからイケると思うんだよね。魔物達は基本何でも生で食べてるじゃん?」

「魔物と同じ物を食うのか?……というか、やっぱりお前は鑑定スキル持ちか。ますます魔道具師ギルドに目を付けられるな」

いっそ魔道具師ギルドに売り込んでしまおうか。

「あ~っ!!いくらダンジョン内が特殊フィールドで外と変わらなかったとは言え、外の世界はいいね!!」

ダンジョンの出口から出るなり大きく伸びをしている。言ってもダンジョンへの滞在は2日で、かなりハイペースだったんだけどな。魔人討伐も含めて2日は、外を恋しがる程の時間ではない。

「いやぁ、なんかやっぱダンジョン内って独特の魔力が流れてるじゃん?気分が違うよ」

「俺は魔力感知には長けてないから……わかるのは風の違いや陽の光の違いぐらいだな」

「え、そっちのほうがわかんない……ところで次はどっち?何処に行くんだっけ?」

「次はテネハグラス国とメラモンデ国の国境付近にあるベルゲーヌのダンジョン」

ダンジョンに入る前に野営に使った場所へ戻り、出発は明日ということで今日はもう休む事に決まった。
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