駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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悪魔城への招待状

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自分では料理はしていないだろうになんて贅沢なキッチンだろう。

触れるだけで水が出てくる魔導具に、火力調整も可能な魔導具のコンロ、煙を吸い込んで外に排出する魔導具に食材を冷やす魔導具、調理台は手元を明るいランプが照らしてくれている。
他にも見たことのない魔導具がたくさん並んでいて、ここは魔導具店かと錯覚するほどだ。

「これは何に使う魔導具なんだろ?」

持ち上げたガラス製の容器。底の部分には刃が3枚ついている。
案内してくれたアフリトは相変わらずだし、クロードに聞いてからの方が良いだろうがキッチンにあるということは調理に関わる魔導具に違いないのだろう。

キッチンの中央に置かれている大きな調理台の上には緑色のピペリカとオニョンやルムロンといった野菜や果物とグリアードボアの肉、キングロックバードの肉とヨーグルトと塩や胡椒といった調味料。

「えっと……アフリト?だっけ。一緒に作るか?」

じっとこちらを見張るような視線が居心地が悪くて声を掛けてみたが、やはり反応はない。クロードの言葉にしか反応しないようなので、視線は頑張って無視することにしよう。

オニョンとカロッタを細かく刻んで炒めて皿に移して冷ます。
その間に、グリアードボアの肉を包丁を2本使ってミンチ状にしたところへ、二ンリックをみじん切りした物と炒めたオニョンとカロッタと調味料入れてを混ぜてよくこねる。

頭を切り落としヘタを取ったピペリカの中に肉だねを詰め込んで……後はオーブンで弱火でじっくり。

キングロックバードの肉は一口大に切って塩と胡椒を振ったものをフライパンでじっくりと焼いていく。いい感じに焼き目がついたらヨーグルトと香辛料を数種入れて蓋をして煮込んで待つ。

「あとはルムロンとペシェチとバナンを剥いて……あ、アイテムバッグからパンを取り出しておくの忘れた」

「もう終わったぞ。トロいてめぇと一緒にすんじゃねぇ」

投げられたバッグを受け取り観察するも、綺麗になったけど見た目には特に変わりはなさそうに見える。

「ルカは鑑定持ってないんだったな。外見は変えてねぇが、容量は無限。時間経過無し。収納物に制限無し。整理機能付き。間違いなくこの世界で最高、唯一のアイテムバッグだ。なぁ兄貴~このバッグ売り出させてくれよぉ~革命起こるよ、革命」

「ルカちゃんのバッグ以外に付与を手伝う気はないよ。クロードが一人で付与できるならどうぞ?」

国宝にだってなれるクラスのアイテムバッグの仕上がりに驚いて落としてしまうところだった。

「勝手に弄っちゃってごめんね。でもこれからダンジョンへ行くことが増えるのにダンジョン内で都度解体ってわけにはいかないでしょ?俺のアイテムボックスの仕様を複写したんだ。お揃いだね」

「う……うん」

元は俺のアイテムバッグだが、これは俺が受け取っていいのだろうか?頭の中は冷や汗だ。

「落としてもルカとカナデと俺しか取り出せないようにしてっから大丈夫だぞ」

「そうか、他の奴からしたら拾っても価値がないってことだな……て、なんでお前にも権限?」

「はんっ!!昔からルカの物は俺の物だって決まってんだろ?そんなことも忘れちまったか?」

相変わらずの暴君ぶり。
俺が採ってきた素材をいつも横から奪われていったのは大人になってからも健在なのか。

「あとこれ、約束してた解体用ナイフ。使い方は実際解体する時に教えるね」

先ほど話をしていた、おそらくこの世界で宝剣と呼ばれている名剣をさし置いて、最強であろうと思われる解体用ナイフを初心者用武器を渡されるノリで奏から渡された。いや、いつも使わせてもらってる双剣も防具も最強級だったんだが手に持った重みが違う気がする。

「カナデ~やっぱもう少しこの街に滞在してくれよ。兄貴がいれば今まで実現できなかった魔導具も完成できちゃいそうな気がすんだよ。ルカよりゃテクあると思うし精一杯ご奉仕しちゃうよ?」

奏の腕に甘えるように自分の腕を絡めるクロード……。

「ルカちゃん?」

名前を呼ばれてハッと掴んでいた奏のマントから手を離した。

「……なんでもない」

なんで俺は奏のマントを掴んだりしたんだろう。

受け取ったばかりのアイテムバッグからパンと蜂蜜とバターを取り出して調理台の上に並べていると、クロードに後ろからのし掛かられ、唐突に頬をベロリと舐め上げられた。瞬間に身体中に鳥肌が立つ。

「ななななっ!?何!?」

「いっちょまえに嫉妬しちゃって可愛いいねぇと思って?兄貴ほどの逸材は惜しいが、別に恋じゃねぇからな。俺の大好物ばっか作ってた健気さに免じてちょっかいはださねぇでいてやるよ」

「嫉妬してないし……材料余っただけだし……」

「ルカが頑張ってる限りは兄貴の力も俺の自由って事だよな?飽きられねぇようにしろよ?」

まだフライパンに乗ったままだったキングロックバードのヨーグルト炒めを指で摘んで食べるとクロードはうめぇなと、ニヤっと笑って見せた。

「君が体を張らなくても、ルカちゃんにもう…………そこまで無理させる気はないよ」

無理させる気ないのか、あるのか、どっち!?

「いいね!!はっきりと言い切らない、その間!!さすが兄貴だぜ。ま、俺はどっちもイケっからたまに刺激が欲しくなった時は、声掛けてくれりゃ全商品持って参戦してやるよ」

目の前に紙をひらつかせられたが、近すぎて見えないので受け取って読んでみる。

「あの宿の特別室の無料宿泊券だ。親族だとか、俺らの紹介がねぇと泊まれねぇプレミアもんだぜ?親父にはもう連絡入れてあっから今日は泊まっていきな」

あの部屋よりもさらに高ランクの部屋!?
ただの招待状なのに黄金に輝いて見えた。

「備え付けの魔導具は持ち出し不可だが全部使用して良いからな?師匠には内緒にしといてやっからアツ~イ夜をお楽しみください?そして感想教えろ」

クロードもこんな気遣いが出来るようになったのか……意外だ。
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