駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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悪魔の契約 Side:奏

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挑発的な瞳が俺を真っ直ぐに見上げてくる。

「……で?あんたはルカのなんなわけ?」

「恋人志願者ってところかな?」

疑心、嫌悪、敵対……そして何かを必死に守ろうとしている瞳。
兄弟ではないようだけど、そういうところはそっくりだと思う。

「逆に聞くけど、君がルカちゃんに抱いてるのは『家族』としての親愛の情かな?それとも……その答え次第では、いくらルカちゃんの大切な『家族』でもしっかり釘はさしておかなきゃなって思うんだけど」

ルカちゃんはあんなんだから気付いてないみたいだけど……こいつのルカちゃんに対する愛情はかなりのもんだよね。恋敵は気付いた時に早目に潰すに限る……でも、その背後に父親の存在がいるんだよなぁ。

「ルカはアホだ。底抜けのな……てめぇは危険だ。てめぇがこの家に入ってきてからずっと警報が鳴り止まねぇ……アイツを丸め込んでどうする気だ……何を企んでやがる」

ルカちゃんの前ではけして見せなかった焦り……本当にそっくりで多少可愛くも思えたりはする。

出来ればこっちの手の内に入れておきたいなぁ……そうだ。

この世界の魔石は人工物だってルカちゃんが言ってたよな?この家に入ってから目にした魔導具はどれもかなり強力な魔石を使用している。
この世界の人間たちの魔力は俺から見ると総じて低いよな。これは使えるか?

「企むなんて人聞き悪いなぁ、俺は純粋にルカちゃんに恋しちゃっただけ。純愛だよ?人の恋路の邪魔はしちゃいけませんって習わなかった?」

ルカちゃんより容易くソファーに押し倒される体。首筋から胸、腹へ指を辿らせていく。

「純愛?力強くでルカ以外の人間を押し倒してる奴がかよ?てめぇまさかルカの事もこうして無理やり……」

魔導具師で戦闘員でないなら当然だけど、強気な態度は変わらない。
あ……これか……。
下腹部、ベルトのバックルが魔導具になってるな。非戦闘員で俺の魔力に気付いていて変わらない自信……おそらく相手の魔力を吸収でもする魔導具かな。

「俺とルカちゃんの関係は秘密。2人だけの問題だからね……部外者は黙っててよ」

「部外者だと思うかぁ?ルカの初めての男は俺なんだよ。2号は黙って……うあぁぁぁぁぁっ!!」

クロードの腹に手を充てて電流を流し込んでやるとベルトの魔導具はすぐに耐えきれずに砕けてクロードの体を感電させる。

ギリギリを狙ったんだが……魔導具師の体は予想よりも脆いや。
主の危機に飛び込んで来た数体の影に手を翳すと、それらは力を失い床に崩れ落ちた。

「あ……俺の……人形が……な……にを……」

「君と同じだよ。マジックドレイン。ただし君のは俺の魔力に耐えきれなくて壊れちゃったみたいだけどねぇ」

床に崩れ落ちた魔導人形達。よく出来ているとは思うけど、如何せん魔石が小さくて会話機能やらは不完全そうだな。

起き上がった魔導人形達が、主であるクロードの体を両脇から羽交い締めして拘束をした。

「な……なんで俺の人形達が……なんで俺の命令を聞かない」

「魔導人形達の魔石に魔力を流し込んで、体を乗っ取っただけ?」

「だけじゃねぇよ!!そんな簡単な代物じゃねぇんだよ!!」

そんな事を言われてもなぁ……。

床に転がっていた魔導具を拾い上げて可動させる。う~ん……ルカちゃんは何に使うか全くわかって無かったみたいだけど、どうみてもピストンバイブ。

「はんっ!!俺は全部の魔導具は自分で試してんだ。いまさら自分で作った魔導具なんかで陥落させられねぇぞ……悪魔め……」

魔王の次は悪魔にされた……。
どうやらコレで俺に拷問でもさせられるとでも思っているのだろうか?

「お望みとあらば……って言いたいとこだけど、俺いまルカちゃんからの信用を得る為に奮闘中なんだよね」

ウィンウィンとピストンを繰り返す魔導具を止めてテーブルに戻した。本当に不器用だよね。

「宿屋に無理言ってまでも備えさせて普及させたいのはルカちゃん守る為?遠すぎるって……」

不器用過ぎて溜め息でるよ。

「は?あいつは関係ねぇ。貴族からの注文が煩くて……普及させりゃ俺以外にも作れる魔導具師が出てきて俺が楽できんだよ」

「『性欲処理』なんて言葉ルカちゃんに教えたの君だよね?その点でもルカちゃんに信用されなくて困ってるんだよね……」

一体の魔導人形のズボンを下ろすと先ほどのバイブと同じ物が付いている。ここにはないが、おそらく女性型にはオナホみたいな魔導具が設置されてるんだろう。

「人形相手でもいいから性欲を処理したいんじゃなくて、ルカちゃんだから性欲を掻き立てられるんだって本人にも何度も言ってんだけどなぁ……そういう事だよ?いくらこんなの普及してもルカちゃんに向けられる情欲に濡れた目はなくなんないよ?」

勝ち気だったクロードの目が伏せられる。

「あいつは……バカだから……昔から頼られればなんでも応えようとするし、それはミレーナさんの事があってからますます加速して……でも戦えない俺には……あいつを守るには遠回りでもなんでも!!」

「頑張ったね……でもルカちゃんは君が思っているよりも強いよ。ずっと……ずっとね。ルカちゃんは屈しない。俺なんかより全然強いんだ」

クロードの体を抱きしめてやると大人しくなった。斜め方向だけど、一人で必死に突っ走ってきたんだろう。

「でも……俺だってルカは可愛いんだ……ミレーナさん俺だってあいつの為になにか……」

うんうん。分かるよ、俺だってルカちゃんの為ならなんでもしたいと思うし守ってやりたい。本人はそんな思い全く気付いてくれないけど……。

「ルカちゃんを守りたい?」

小さく頷いた頭を撫でてやって部屋を見回した。この部屋で一番大きな魔石……は……。

何の魔導具を作る予定の物かまではわからないけれど空の魔石を抜き取って、拘束を解かれても力なく座り込むだけのクロードの手に握らせる。限界まで魔力を込めた魔石を。

「え?この魔石……空だったはず……」

「ルカちゃんの為に使ってくれるなら幾らでも協力するよ?君だよね?あの宿屋考えたの。冒険者って素直で可愛いよね。豪華な部屋には萎縮しちゃうし、優遇されれば手放しで喜んじゃう。あの宿屋の評判が広まればあの宿屋に泊まる為にって頑張る冒険者も増えるだろうね……実際ルカちゃんはかなりはしゃいでたもんなぁ。風呂とか料理とか……大喜び。静かだし綺麗だし……ルカちゃんゆっくり休めていたよ」

ルカちゃんが喜んでいた話をするとわかりやすく目に宿る光が変わった。タオルやら石鹸やらはルカちゃんの父親の発明品だったみたいだが、風呂のジャグジーや連絡水晶の使い方なんかはクロードが自分で考えたんだろう。

ルカちゃんが喜んでたってだけでこの反応だもん……揃って可愛いもんだよね。

「他の街にもあんな宿屋があったらなぁともルカちゃん言ってたなぁ……魔石……もっと欲しくない?清浄魔法でも空間魔法でも……思う存分使いたくない?」

クロードの耳元で囁くと、魔石を握る手に力が込められた……。

「魔石の為に……ルカを差し出せってかよ……」

「違うよ。一緒にさ……ルカちゃんの笑顔……守らない?」

ルカちゃんいないと俺は魔王になっていたと思う……でもルカちゃんを手に入れる為なら……俺は悪魔にでもなんにでもなるよ。
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