駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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童心

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朝目覚めてちゃんと回復出来たらしく体は軽そうだ……が、ベッドから起き上がれずにいる。

至近距離にある奏の寝顔と抱き寄せられるように体に回された腕。

昨夜はなかなか眠れなくて……お酒飲んで……飲んで……のまれて……お酒恐い。なんでみんな平気で飲んでんだ?
あれじゃまるでクロードに嫉妬してるみたいじゃないか。

「んん……あ……ルカちゃんおはよ~……」

「おは……よう」

額にキスをされて、寝起きの奏の声に……むず痒さを感じて腕から逃れようとしたけれど、逆に抱き寄せられる。

「目を覚まして一番にルカちゃんの顔が目に入るっていいねぇ……でももうちょっとお布団での微睡みの幸せ浸ってようよ……また暫くは布団で寝られないだろうしさ……」

確かに布団の中は気持ちいいが奏とこうしているのは落ち着かない。

「昨夜のアレは酒のせいだからな」

「ん……わかってる……」

わかってるのかわかっていないのか、寝ぼけた声。もしかしたら奏も酔っていて覚えていない可能性もある。そういう事にしておこう。

奏の腕から抜け出せないが目は覚めてしまったので体を動かしベッドの天蓋を眺めていると……昨夜の行為が頭に蘇ってきたので慌てて目を閉じる。
くそっ、呑気に寝ている奏が憎らしい……。

そもそもクロードのせいだ。アイツがあんなモノを勝手に俺のアイテムバッグに入れるからだ。
文句を言ってやりたいが口でアイツに勝てる気がしない……だからといって幾ら一流の魔導具師とはいえ、普段戦闘をしない相手に暴力を振るうのはよろしくない。俺が全力で殴りかかればただの怪我程度ではすまないだろう。

クロード相手に力任せは駄目、口でも駄目……と、なると?

クロードへの仕返し方法を考えているうちに奏もしっかり目が覚めた様だった。

ーーーーーー

「本当に会わなくて良いの?」

宿屋の受付に鍵を返しながら改めて奏に確認された。

「いい。もう用は無い」

寝巻きや石鹸にタオルといった欲しい物は昨日のうちに貰っている。
仕返しを考えた結果、会わないのが一番という結論に至った。会ってアイツに文句を言ってもイライラが積もるだけだ。

「何も言わずにさよならしたら寂しがるんじゃない?」

「寂しがるとか、そんな奴じゃない」

鍵の返却も済ませて出口へ……。

「んなこったろうと思ったぜ?本当に分かりやすい奴だよな」

宿屋の出口……ラスボスが仁王立ちで立ち塞がっていた。

「実際寂しくなんてないだろ」

「寂しいさ……玩具がいなくなっちまったら、つまんねぇだろ?お前は昨夜いっぱい楽しめましたぁ?最新のやつばっか用意してやったんだからな」

クロードの悪びれない態度に怒りで体が震える。
俺は勝手に入れられていたあの魔導具のせいであんなみっともない姿を晒させられたというのに。

「お前……お前のせいで……」

「なになに?真っ赤な顔しちゃって?へぇ~……やぁっとわかったわけ?どうだったよ?どれ使った?感想教えてもらおうかねぇ」

メモとペンを取り出して笑うクロードに怒りが沸々と湧いてくる。やっぱり会いたくなかった。
睨む俺と馬鹿にしたように見下してくるクロードの間に奏が割って入ってきた。

「クロード……挨拶なく出ていかれるのに怒ってるのはわかるけど、あんまり苛めないでね。あの、その……俺が悪いから、俺にグサグサ刺さるから」

「え~製作者としては使用感の感想も純粋に聞いときたかったんだけど……しゃあねぇな。ルカ、餞別だ。ほらよ」

投げられて受け止めたのは昨日キッチンで見かけた魔導具。

「んな嫌そうな顔すんなっての。それは調理用の魔導具だ……風の魔石で回転させた食材を底の刃にぶつけて細かく刻むんだ。果物をジュースにできるぞ」

ジュース……これで?魔法で回転させてぶつけてジュース?

「お子ちゃまはジュース大好きだもんなぁ。肉もミンチにできるし刃を取り替えれば泡立てにも使える」

「ジュース大好きなお子ちゃまはお前だろ」

小さい時、喧嘩するたびにいつもジュースを持ってきては分けてやるから機嫌直せというぐらい常にジュースを持っていたのはクロードだ。

「カナデに分けてもらって刃をヒヒイロカネに変えたからな。わざわざズボラなてめぇでもメンテなしで使い続けるようにしてやったんだから感謝しろよ」

いまだに仲直りはジュースかよ。
数ヶ月とはいえ俺の方が歳上だもんな……俺が大人になってやらなきゃだよな。
魔導具の事は許せはしないけど、俺が魔導具に対する知識を持っていれば避けられたといえなくもないと言い聞かせ、ぐっと拳を握りしめて怒りを堪える。

「カナデ、ヒヒイロカネのおかげで岩を砕いても刃こぼれなしだ」

「料理に岩砕く必要があるのかわからないけど、役に立ったなら良かったよ」

カナデに笑顔を向けられて嬉しそうに笑うクロードに、仕返しの妙案を思いついた。
クロードに近づいて首に飛びつくと耳元でそっと囁いてやった。

「………………」

俺の言葉にクロードの目が大きく開かれる。驚愕したような表情にしてやったりな気分でスッキリ。満足してクロードから離れようとしたが抱きしめられて……クロードの肩が震えるのが伝わってくる。

「くっ……くくっ……ぶははははははっ!!何それ、何その勝ち誇った顔!!それで俺に勝ったつもり!?ルカ、やっぱてめぇは底抜けのバカだわ!!」

「本当だ……もん……」

ここまで笑われて……自信がなくなってきた。

「あーあー。泣きそうな顔すんなっての。そこは間違ってねぇと思うぜ。俺のが恋じゃねぇってだけ……くくっ」

「そろそろ行こうか。じゃあクロード元気でね」

クロードの腕から奏の腕へと移動させられた……こいつら人を物のように軽く扱いやがって。
奏の脇に抱えられた俺の頭をクロードにグシャグシャとかき混ぜられる。俺だって父さんの血が強ければお前らと変わらない背丈になっていたはずなんだ。一番歳上の俺に対しての扱いがひどい。

「おう、カナデも元気でな!!またいつでも魔石の充填に来てくれる待ってるぜ!!ルカ、あんまり兄貴に迷惑かけんなよ」

「お前も……またな」

奏の腕の中からなんとか抜け出してようやく出口をくぐることができた。

商店街へ向かおう。蜂蜜買ってビスマスリリーを買って、調味料も増やしたい。あとはたくさんの果物を……。

「ねぇねぇ、さっきクロードになんて言ったの?」

「秘密」

「え?クロードに告白とか、俺の悪口……とか?」

「絶対秘密だ」

「え~秘密にされるとよけい気になるよ、ルカちゃんてば~」

ゆっくりしすぎた朝の大通りには、もうたくさんの恋人たちが幸せそうに微笑み合いながら歩いていた。
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