駆け抜けて異世界

藤雪たすく

文字の大きさ
54 / 95

知られて困ること

しおりを挟む
幾つかの罠は気付かずに起動させてしまうが、自分が避けて何も言わなくても、奏もちゃんと避けているだけでだいぶん楽だった。

「ボス部屋だな」

「8階とか中途半端な階にボスがいるんだね」

「定期的にボス部屋のある階層は変わるし、そのボスも強さもランダム。決まってるのは最下層のボスだけだな」

8階層まで降りてきて少し歩くとボス部屋らしき入り口にたどり着いた。中を覗くとアンガーグリズリーが闘志を剥き出しにしている。鑑定が使えたらボスの強さなんかもわかるんだけど……こんな低層でそこまで強いボスが出てくる事はないとは思うし、強そうな気配は感じないが、なんとなく奏の様子を伺ってみる。

「なぁに?」

「ボスの強さ、どんなもんかと思って」

鑑定というのが、どういう風にどこまで見えているのかというのは個人差があるようで奏の鑑定でどこまでの情報が見えるのか聞いたことがなかった。クロードの鑑定では物質の名前と特徴がわかるが人や魔物などをみる事はできない。父さんの鑑定は物質だけでなく生き物も鑑定できて、強さも数値化されているらしい。
奏の様子から俺のスキルまで見えている事はなんとなくでわかっているが、魔物に対してはどうなんだろう。前にレッドサモンを鑑定で生食がどうとか言ってたから……きっと魔物の情報も見えていると思う。

「余裕だよ。レベル11だってルカちゃんからしたらその辺の虫と一緒だよ」

レベルまで見られるのか。レベルが見えるなんて王宮に使えるレベルの鑑定士だけなのに……奏という存在はつくづく危うい存在だな。

「アンガーグリズリー美味しいんだって。ルカちゃんも鑑定使えたらいいのにね……あ、クロードに鑑定用の眼鏡とか作って貰えば良かった。眼鏡ルカちゃん見たいな」

「そんな物が出来上がったらお前もクロードも王宮行きだな」

「え~もう『王族』って人種には関わりたくない。クロードなら内緒で作ってくれるでしょ。ルカちゃんのお父さんは、宮廷仕えなら無理だよねぇ」

宮廷にいれば珍しい素材が集まってくるからってだけで忠誠心は皆無なので、父さんなら珍しい魔導具さえ作れたら王族への報告も気にしないと思うけど、それは黙っていよう。

「奏は俺のレベルも見えるのか?」

レベルなんて数年前に一度高い金を払って見てもらったきりだ。その時はレベル54だったはず。
レベル50~がAランク冒険者の目安、Sランク冒険者ならレベル70~と言われてがむしゃらにダンジョンに篭っていた時期の思い出が蘇る。

「見えるよ。知りたい?鑑定内容は聞かれなきゃ深くまでは見ないんだけど、知りたいなら何でも聞いてね。他人のことはあんまり教えたくないけどね」

「……知りたい」

けど、『何でも』が気になる。どこまで何が見えてるんだ。

「レベルは91だよ。あとは?病気はないね。体重はあった時から落ちてるからちょっと心配」

健康状態までわかるのか……身長や体重なんかの情報を鑑定する必要があるのかわからないが、随分と細かく見られているらしい。レベル91か結構上がっていたな。限界値が99と言われているから俺の力はそろそろ限界値を迎える……あと8レベル上がったところで奏に敵う気がしない……その辺の上がり幅は人それぞれだというし、俺の限界がその程度というだけのこと。

「……いやだよね。他人に勝手に見られるのって普段はそんな深く見ないようにしてるから……」

俺が考え込んだのを違う方向に解釈したらしく奏が珍しくしおらしい。

「別に、いまさらお前に隠しておきたい事はない」

ステータスなんかより見られたくない姿を散々見られてきているのだ、気にするならそっちを気にしてほしい。

「じゃあじゃあ、公平に俺のステータスも教えちゃおうかな!!ルカちゃんになら全部知ってもらいたい」

「いや、いい。とりあえずボス倒すぞ」

剣を構えてボス部屋に飛び込んだ。

ーーーーーー

「俺にもっと興味持ってくれてもいいのに……」

ボスを解体する俺の後ろで解体用ナイフが吸った血を販売用に瓶詰めしながら奏がいじけている。
奏のレベルやスキルに興味がないわけじゃないが、知ったところで桁違いさに自分が気落ちするだけの未来しか見えない。
しかしこの解体用ナイフはいいなぁ。脂で切れ味が落ちることもないし、そもそもの切れ味が気持ち良すぎる。血も邪魔してこないし本当にサクサク解体が進む。他の冒険者が来る気配がなかったので、ボスだけでなくここに来るまでに討伐してそのまま入れておいた魔物もついでに解体しておく。

「あ、俺のアイテムボックスの中の魔物も解体してもらっても良い?少しづつ整理してく」

ついでに……というサイズではない魔物の死体が目の前に現れた。

「これは?」

「デヴォルペガサスとファルシュフェニックス。似た様なのはいないの?」

翼の生えた巨大な馬と大きな体に長い尾を持つ赤い鳥。

「まだ未踏破のダンジョンの深層まで行けば会えるかもしれないが、俺は知らない。必要な素材は?」

馬と鳥だから同じように解体すれば良いのだろうか?

「一応、羽と血は取っておこうかな。肉は両方とも美味しいって書いてあるから、ルカちゃんの料理が楽しみ」

俺がこの未知の魔物の肉を料理する事になるのか。
解体ナイフを突き刺して血抜きしながら羽をむしっていくが、血と羽だけでも相当な量だ。むしった羽は奏が集めてくれているが、このファルシュフェニックスの羽は即死回避の魔導具の素材に使えるらしい。羽毛布団にしようかななどと勿体無い使い道を口にしているが……。

体の作りはほぼ同じで、大きさのせいで時間が少々かかりはしたが問題なく解体はできた。食材は管理してほしいとのことで、大量の肉と骨とが俺のアイテムバッグに入れられた。この肉の価値はわからないが、ひと財産であろうことは想像に容易い。

「骨も持っていくの?」

「アイテムバッグに余裕もできたし……何よりこんな特殊そうな魔物の残骸をダンジョンに吸わせて起こる影響が想像できなくて怖い。ダンジョンは魔物や人の死体を吸収して成長する」

こんな異世界の奏が狩るような魔物を吸収したダンジョンがどうなるか……魔人出現だけでも大問題なのにこれ以上の問題を起こされてたまるか。

普段は容量問題から捨てていく骨だが、スープを煮出して使えば良いだろう。
奏も素材をアイテムボックスにしまっていて再出発の準備は大丈夫なようだ。

「解体も出来たし次の階層へ向かうか。セーフエリアが見つかったら今日はそこまで」

ボス部屋から続く下の階層への階段を降りるとすぐに右側にポッカリと空いたセーフエリアの入り口。

「……セーフエリアだね」

本当にこのダンジョンは読めない。
セーフエリアの中を覗くと2組の冒険者たちが休んでいた。

「ボス3連続とか普通にあるし、次は何階先かわからない。休める時に休む?」

別に寝ずに最下層まで突っ切ってもいいが、その決定権は奏に託そう。

「休もう。疲れてはないけどお腹空いた」

「だな」

疲労はともかく空腹は良くない。歩きながら食べられる携帯食もあるし、何ならセーフエリアでない場所での寝泊まりも問題ないが、食事はのんびり楽しみたいものだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

勃たなくなったアルファと魔力相性が良いらしいが、その方が僕には都合がいい【オメガバース】

さか【傘路さか】
BL
オメガバース、異世界ファンタジー、アルファ×オメガ、面倒見がよく料理好きなアルファ×自己管理が不得手な医療魔術師オメガ/ 病院で研究職をしている医療魔術師のニッセは、オメガである。 自国の神殿は、アルファとオメガの関係を取り持つ役割を持つ。神が生み出した石に魔力を込めて預ければ、神殿の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれるのだ。 ある日、貴族である母方の親族経由で『雷管石を神殿に提出していない者は差し出すように』と連絡があった。 仕事の調整が面倒であるゆえ渋々差し出すと、相性の良いアルファが見つかってしまう。 気乗りしないまま神殿に向かうと、引き合わされたアルファ……レナードは、一年ほど前に馬車と事故に遭い、勃たなくなってしまった、と話す。 ニッセは、身体の関係を持たなくていい相手なら仕事の調整をせずに済む、と料理人である彼の料理につられて関わりはじめることにした。 -- ※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。 無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。 自サイト: https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/ 誤字脱字報告フォーム: https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

塔の魔術師と騎士の献身

倉くらの
BL
かつて勇者の一行として魔王討伐を果たした魔術師のエーティアは、その時の後遺症で魔力欠乏症に陥っていた。 そこへ世話人兼護衛役として派遣されてきたのは、国の第三王子であり騎士でもあるフレンという男だった。 男の説明では性交による魔力供給が必要なのだという。 それを聞いたエーティアは怒り、最後の魔力を使って攻撃するがすでに魔力のほとんどを消失していたためフレンにダメージを与えることはできなかった。 悔しさと息苦しさから涙して「こんなみじめな姿で生きていたくない」と思うエーティアだったが、「あなたを助けたい」とフレンによってやさしく抱き寄せられる。 献身的に尽くす元騎士と、能力の高さ故にチヤホヤされて生きてきたため無自覚でやや高慢気味の魔術師の話。 愛するあまりいつも抱っこしていたい攻め&体がしんどくて楽だから抱っこされて運ばれたい受け。 一人称。 完結しました!

聖獣は黒髪の青年に愛を誓う

午後野つばな
BL
稀覯本店で働くセスは、孤独な日々を送っていた。 ある日、鳥に襲われていた仔犬を助け、アシュリーと名づける。 だが、アシュリーただの犬ではなく、稀少とされる獣人の子どもだった。 全身で自分への愛情を表現するアシュリーとの日々は、灰色だったセスの日々を変える。 やがてトーマスと名乗る旅人の出現をきっかけに、アシュリーは美しい青年の姿へと変化するが……。

異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる

ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。 アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。 異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。 【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。 αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。 負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。 「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。 庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。 ※Rシーンには♡マークをつけます。

騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください

東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。 突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。 貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。 お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。 やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。

処理中です...