駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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変わらない想い

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今まで吹きっさらしで野宿をしてきたのに、テントで寝たいとわがままを言っている。
人目の目隠し様なだけで屋外用じゃないと言っているのに結界張るから平気とどうしても譲らないのでテントを組み立てた。

「狭い」

分かっていたが狭い。

「この狭さがいいんじゃない。ルカちゃんとの距離が近い」

「近いってレベルじゃない」

昨日は背中合わせだったのに奏はこちらに体を向けており、後ろから抱きしめられるようになっていて落ち着かない。

夕飯後、例の話の続きをすることになり……なんかそのまま雰囲気に飲まれたというかそのままの流れでいたしたわけだが……なんであんなだったんだ。

やたら体を気遣ってくるしいちいち許可を求めてくるし……わざわざ口にしなくても、今までみたいにしてくれたら良いのに、新手の嫌がらせだったのかもしれない。

少し違う空気感の中、こうして密着して眠るとか落ち着かない。

「は~……触れ合ったまま眠れるとか幸せ。大好きルカちゃん」

頬擦りされそうな勢いで奏がベタベタとくっついてきてさっきから好きを連呼しているのだが。
うう……ん……こういう場合どういう反応をしていいのかわからなくなる。

「奏、あまりくっつかれると困る」

「だってルカちゃんが可愛いこと言ってくれたから、責任持ってルカちゃんを一生大切にいしていくからね」

駄目だ。今日は何を言っても聞かなそう。
別に口にしたかしないかなだけで、俺の気持ち的には何の変化もなく……。

「もういいから普通にしてくれ……」

抱きついてくる奏に鬱陶しさは感じつつ、必死に寝ようと頑張った。

ーーーーーー

「ルカちゃんおはよう」

朝からくそ眩しい……一晩寝ても落ち着かなかったか。キラキラ輝くような笑顔で朝一番の挨拶を間近で見る。

「……ぉはよ」

さっさと朝食作りを理由に逃げ出そうとテントから這い出た。

何か手伝いたいのか、そわそわと俺の周りで落ち着きない奏にパンケーキとオムレツと焼き野菜とベーコンの乗った皿を手渡す。

「いつも朝からありがとう。今日も美味しそう」

「もういいから……早く食え」

もう奏の事はスルーしてパンケーキに齧り付いた。

「つれない……100歩進んで99歩戻る感じ。ルカちゃんは寝ると何かリセットされるの?」

さて……ベルゲーヌのダンジョンの攻略も恙無く終えた。魔人の確認も討伐も報知鳥で知らせておいた。次の目的地は……。

「次のダンジョンは?メラモンデ国だっけ?」

「ここから3日もあれば行けると思う。ガイダンクのダンジョン、ここのボスはボス部屋の封鎖がない、Sランクの冒険者がボスで撤退したんだが、攻略と間近じゃないかって話だ。もしかしたら冒険者の数も多いかもな」

まだ未踏破のダンジョン故に50階層のそいつがダンジョンボスではないかと言われているが、もしかしたらまだ下がある可能性もある。

「ダンジョン発見者と初踏破者の名前が記録に残るんだっけ?」

「後は情報量が高く売れる。お前も知ってるだろ?英雄様」

ルルケーヤ沼地のダンジョンの事を思い出したのか、少しうんざりとした表情を見せた。

「何処に行っても声を掛けられて疲れたよ」

「誰にでも良い顔するからだ」

塩の効いたベーコンを齧る……また纏めてベーコンやソーセージの作り置きもしておきたい。スープストックも……ガイダンクのダンジョンから戻ったら数日自由時間を貰って1日中料理に没頭したい。

「今のところボス撃破後に魔人が出るのは確定で良さそうだよね。攻略間近なら踏破に向けてみんなやる気になっちゃってるなら気付かれないようにってかなり難しそうだよ」

「攻略間近と言っても最高到達者がSランク冒険者だから下層に行くほど人は減るだろけど」

もし先行しているのが銀翼や聖光だったなら話をつけられるんだけど、魔人の存在を知った奴らがダンジョンボス攻略に挑むとは考えにくい。
むしろ聖光の導きの奴らならダンジョンから冒険者を遠ざけようとしてるだろう。あいつら正義感の塊だからな……。

「そのダンジョンは何か気をつける事ある?」

「毒ガスエリアがある。奏は毒効かなそうだけど……街へ寄れば毒ガス対策のマスクを売ってる。どうする?」

俺は毒が効くには効くが回復速度の方が早いから少し気持ち悪いぐらいで済んでいる。

「毒耐性はあるから平気だとは思うけど、どうだろうね?こっちの世界に来てから毒は浴びてないからなぁ……でもまぁ、そのままダンジョン直行で平気だよ。ヤバイと思ったら結界張るし」

「わかった。あとは……ボスは3つの頭を持った蛇らしい、石化攻撃には注意」

確かパーティーの要が石化攻撃を受けたが為に撤退したとかの話だ。

「ルカちゃんの石像があったら毎日お供え物して拝みたいね」

「俺に死ねと言ってるのか?」

「違う違う!!偶像崇拝?したいなって話だよ。クロードにお願いしたらルカちゃんの人形とか作ってくれるかな……」

こいつが石化されたら、即砕いてやろうと思う。

いつも以上に鬱陶しい朝食の時間をさっさと終えて、苦い思い出残るメラモンデ国との国境へ向けて出発した。
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