駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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背中で感じる

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15階層、2つ目のセーフエリアを通り過ぎる。

「休憩無しで行くの?慎重なルカちゃんにしては珍しい」

「バカが一人で騒ぐから他の冒険者の目が気になるんだ。20階層過ぎれば多少減る。それまで耐えろ、お前は寝なくても平気だろ」

時間にしたら感覚的に、もう日の暮れてきた時間だろう。通り過ぎたセーフエリア内も結構な人数が休んでいた。

「2日ぐらいなら完徹いけるけど、ルカちゃんのご飯は食べたい。昼も抜いたじゃん……3食ちゃんと漏らさず全部食べたい」

「これでも齧ってろ」

アイテムバッグから取り出した白い紙に包んでいた間食用のクッキーを投げる。

「何?クッキー?ルカちゃんお菓子も作れるの?ん~~サクサクしてて美味しい!!」

どっちがガキなんだか……。
一旦は満足してくれたのか大人しくなってくれた。

「奏、仕事……あいつら魔法しか効かない」

前方、道を塞ぐように並んで浮いているレイス達を指差す。普段なら無視して走り抜けるがせっかく奏がいるんだしお願いしよう。

「アンデッド?聖魔法でいいのかな?『ホーリーレイン』」

光の粒が雨の様に降り注ぎ、レイス達はその姿を煙に変えて霧散していった。
炎で焼き払うのかと思ったのだが、いいのかな?で聖魔法まで使えるとか本当に卑怯だよな。

「奏ではズルい」

「え?なんで、ここはカッコいいとか称賛してくれるとこじゃないの?」

「ズルいからズルい」

奏が開いてくれた道を進み、度々出くわすレイス達は奏が全て煙に還してくれた。
良いな……魔法。諦めていたはずの魔法だけど、やはり羨ましい。

その妬みを紛らわす様に17階層、岩陰から飛び出してくるポイズンサラマンダーを斬り捨てつつ18階層へ。

「20階層のボスは余裕だったな」

「うん、ルカちゃんの圧勝」

デスヘビーナイト。
アンデッド系だが、装備の破壊で倒せるので俺でも攻撃を通せる。奏に貰った武器の性能が高過ぎるせいもあるが、手こずる事なく勝利出来た。

「21階層からは毒ガスや瘴気が充満してるエリアも出てくる。気分悪くなったら無理は駄目」

「わかってるよ。ルカちゃんもだよ?」

「とりあえず23階層へ向う。セーフエリアがあるからそこは安全、飯にし……」

言い終わる前に抱き上げられ階段を駆け降りられる。

「早く行こ!!クッキー食べたら余計にお腹空いちゃってたんだ!!」

多少の緊張感は持て、しかたない奴……と呆れながらもここまで楽しみにされたら、美味しい物を作らなければなとやる気も出る。

こんな関係になるなんて思ってなかった。
恐怖と恨みと憧れと……もっと忌み嫌いながら傷つけ合いながら続くパーティーだと思ってた。

捨てられ踏みにじられた料理。
俺だけを残し死んでいくメンバー。
俺を置いて走り去るメンバー達の後ろ姿。

いろんな記憶の残るダンジョンだが、こいつと居ると思い出すのも馬鹿らしくなるな。

契約だからしかたないと思っていたけれど……奏が食べたいと望むもの全てを食べさせてやりたいと今は思う。

「奏には……全部食べて貰うからな……」

奏の体が前のめりにバランスを崩し、顔面から階段を滑り落ちていく。俺は倒れる前に腕から抜け出せたので安全に21階に着地する事が出来たが……。

「大丈夫か?お前でもこける事があるんだな」

動かない奏での側に腰を下ろして頭を突付くとゆっくりと顔をあげ恥ずかしそうに笑った。

確かに顔面から階段を滑り落ちて行くのは、なかなか恥ずかしい姿ではあったが無傷かよ。
むしろダンジョンの階段の方が欠けている……今までどんなに魔物に壁に投げつけられたり、踏み付けられたりしても傷つかなかったダンジョンの壁なのに、どんだけ厚い面の皮をしてるんだろうな。

「ルカちゃん突然あんな事言うから」

「突然?飯の話の流れだっただろ?」

「そうですね……良からぬ事を考えてた俺が悪いです」

立ち上がり服の砂埃を払うと俺を抱こうとする腕を断る。

「お前ほど速くは走れないだろうが自分で走る」

「わかったよ。罠とか俺も後ろでサポートするから信じて走ってね」

誰かに頼ることなんて忘れてた。
全部自分でやらなきゃと意固地になってたのかもな。

「安心して全力で走れるな」

きっと『もしも俺が倒れたら』は来ない『もしも』があっても奏がなんとかしてくれるだろうという安心感。
魔人が出ても奏がなんとかするだろうという他人事の安心感とは違う、背中を預けて行動できる安心感。

そして俺に任せてくれたら道に迷う事はないだろうという奏からの信頼感。
長く冒険者をしてきたけれど、ただ役割を果たすだけじゃない。初めて『パーティー』という関係を理解できた気がする。

角を曲がった先に居た防御力の高いハルトライノを飛び越え後頭部を蹴って後ろに任せても奏はなんなく処理してくれるし、食料として確保しておきたいアサルトガーヴの首をすれ違いざまに切り落として進めば奏が収納してくれている。
物理攻撃の聞きにくいスカルウォーリアなどのアンデッド系は俺が気づく前に聖魔法が発動している。

こんな快適でいいんだろうかと、他の冒険者に申し訳なくなりつつ23階層のセーフエリアへと辿り着いた。

中にはすでにテントが一つ張られていたので、なるべく離れた場所で腰を下ろした。

「途中、毒ガスが噴き出している場所がいくつかあったが大丈夫か?」

「今のところ平気みたい。それよりお腹空いちゃった。お腹っていうか心?早く満たされたいな」

「準備する。奏はテント頼めるか?」

「見てたからわかるよ」

テントを取り出し、組み立てに時間がかかるわけではないがなんとなく奏に頼み、俺は竃や鍋の準備に取り掛かった。休んでいる冒険者もいる事だし、あまり音は出さない方がいいだろうから煮込み系にするか。

鍋にキャベルシュの葉を一枚敷いて、グラングリドンピッグの薄切り肉を並べ、またキャベルシュの葉を一枚敷いてを繰り返す。そこにデヴォルペガサスの骨を煮込んで作っておいたスープと細かく切ったレッドマートを加えて煮込んでいく。

あとは煮込むだけだし奏の様子でもと視線を向けると、テントはとうに張り終えたようで、テントの前で奏は何かを捏ねていた。俺は捏ねるというとパンなどの生地が真っ先に思いつくんだが、料理をしない奏が何を捏ねているのだろうか?
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