駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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強い遺伝子 Side:奏

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「カナデ……俺はもう腹いっぱい……」

ルカちゃんの可愛さ、強さ、優しさや凄さはまだまだこれからなのにクロードからストップがかかった。
お父さんはもう少し聞きたそうにしている気がするので話を続けようかと思ったけど、家政婦さんに、夕飯の準備が出来たと呼びにこられてしまったので中断されてしまった。

ーーーーーー

「積もる話もあるでしょうから、私はこれで失礼いたします。カナデ様、お味見をさせていただきましたがとても美味しいお肉でした。そしてカラアゲも!!初めて食べましたがとても美味しいかったです」

ヴァレリーさんは通いの家政婦らしく、食卓の準備をすませると家へと帰っていった。

大きなテーブルに並んだ料理の数々。
唐揚げとエンシェントマジックドラゴンはステーキにしたんだね。俺の前にはしっかり白米も用意してくれている。
こういう事をしてくれるから大好きが止まらなくなっちゃうんだよね。

「お!!美味そうな匂いだな!!でも……何の肉だ?こっちの料理も……鑑定でも名前が出ねぇ。バジリスクの……なんだ?」

クロードはエンシェントマジックドラゴンのステーキとバジリスクの唐揚げを持ち上げてしげしげと観察を始めた。
異世界の肉は鑑定出来ないのか。唐揚げという料理法をクロードが知らないから認識出来ない?

「…………カラアゲ?」

お父さんも不思議そうに唐揚げを見つめている。お父さんから唐揚げって言葉が出て来るって事は鑑定魔法のレベルの差って事なのか。

ルカちゃんはお父さんの反応が気になるのかチラチラお父さんの様子を伺っている。

皆が座っている椅子よりも脚の部分が長めに作られている椅子。小さめのカトラリー。全てハーフリング族用なんだろうけど、何年も帰っていなくても、ルカちゃんの実家なんだなってほっこりするね。

「これはバジリスクの唐揚げといって、小麦粉をまぶした肉を油で揚げた俺の故郷の料理です。コチラのステーキは『エンシェントマジックドラゴン』のステーキです」

「エンシェントマジックドラゴン……この魔力量増幅という効果は……」

お父さんにはそこまで見えているのか。
研究者の目で見つめられる。

「言葉のままの意味です。個人差はありますが、食べると魔力の最大値が上昇しますよ。是非お二人に食べていただきたく肉を提供させていただきました。俺がいた世界に棲息していたドラゴンの肉です」

「……奏」

バラしても良いのか?と心配してくれているのかルカちゃんが戸惑いの視線を向けてきた。もしかしたら『クロードはやっぱり特別なのか』とか思ってそうだけど……。

「カナデのいた世界?まるで違う場所から来たみたいな言い方じゃん」

「そうだよ。俺はこの世界の人間じゃない。こことは違う世界からゲートを潜ってやってきた……『異世界人』だよ」

「へぇ~……じゃあ、ありがたく頂戴するかな!!マジでこの肉食っただけで魔力上がんの?アニキはやっぱ半端ねぇな。違う世界からやってきた神の化身って言われた方がしっくりくるわ」

豪快にステーキを口へ含み『ウメェ!!』と騒ぐクロード。お父さんも特に俺の告白を気にする事なく食べ始めた。
ルカちゃんも俺が異世界人だと告げても何も気にする様子がなかったのでそういう反応だろうな、とは予想していた。

隣に座り2人が変わらない事に少し安堵したようなルカちゃんへ視線を向け、ポケットから1枚の紙を取り出した。

「そう……ゲートを潜って来たんだ。ねぇルカちゃん……ルカちゃんのお母さんが吸い込まれたって言っていたのは……こんな扉じゃなかった?」

俺の中にある記憶を頼りに絵に描いたゲートをルカちゃんに見せた。顔面蒼白になる背中に手を添えて支える。
きっと今から言う事は……ルカちゃんの半生を無駄にしてしまう。

「その反応はやっぱり同じなんだよね?ルカちゃんがお母さんを殺してしまったと思う物と……それでも一縷の望みに縋って、ダンジョンを調べ尽くして手掛かりを掴もうとしていた物と……」

俺の手から受け取った絵を握りしめて小さく頷いた。俯いてしまったその表情は見えない。

「ゲートはね……ダンジョンの異常じゃないんだ。俺がいた世界でも発生するゲートの出口を無理矢理その場に繋げるだけの召喚術に過ぎなかった。いつ何処で発生するかなんて、何処に繋がるかなんて誰にもわからない、神の悪戯。幾らダンジョンを調べても……お母さんを連れ戻すのは無理なんだ」

ごめんね。
もしも……もしもお母さんを連れ帰る事が出来たら、また家族で一緒にいられるって必死だったんだよね。

「ミレーナは……生きているのか」

「『2度と会えない』が『死』と同義なら生きているとは言えないかも知れませんが、ゲートを潜った者には他を圧倒する大きな力が授けられる事、ルカさんから聞いていたミレーナ様の性格を考えたら……恐らくは元気でいらっしゃるかと」

「……そうだな。あいつはどんな時でも、どんな状況でも笑顔でいた」

お父さんの顔が少し和らいだ。愛しい人の事を思い出し綻ぶ……そんな表情。

「ルカちゃん……俺もね。親や友達に何も伝えられないままゲートに飲まれた。突然別れさせられて、苦しかったし寂しかった……でもね、もし残された家族が俺の事を何時までも引きずって自らの人生を棒に振ってる……そっちの方が何倍も悲しい」

「…………」

肩を抱くと小さく震えてるのが伝わってくる。

「お母さんも……ルカちゃんが何時までも苦しんで、お父さんとの距離も開いちゃって、そんな事を望んでルカちゃんを助けた訳じゃないと思うんだ。忘れないでほしい、でも悲しみ続けないでほしい……少なくとも俺はそう思ってる」

忘れられるのは悲しい、それ以上に自分の事で家族を苦しめ続けるのは苦しい。

「……ルカが産まれたばかりの頃、私が抱くとルカはいつも泣いていた……ミレーナには『顔が恐いから』と笑われ、怖がらせたくなくて距離を取ってしまったが……」

立ち上がったお父さんが、ルカちゃんをしっかりとその胸に抱き上げた。

「泣き止むまで……抱き続けてやればよかったんだな……」

「父さん……」

我慢していた物が限界を迎えたのか、ボロボロとルカちゃんの目から涙が溢れ出す。
やっぱ敵わないよなぁ……父親には。

「父さん!!父さんごめんなさい!!俺、母さんの事守れなくて……」

「私もすまなかった……ルカ、お前が……お前だけでも無事で良かった。ちゃんと言葉にすべきだった」

「……父さんっ!!」

抱きしめ合う2人。
流れを大人しく見守っていたクロードと目が合い、やれやれとお互い笑いあった。

「今夜は気分が良い……ルカの産まれた年のワインを開けよう」

ルカちゃんを椅子に降ろすと、棚からワインを取り出して持ってきたお父さんにギクッと固まる。

「「え……」」

クロードとハモった。
う~ん……しかしこの機会にとことん話し合うべきか?ルカちゃんも酒が入ると素直になるし……クロードも同じ様な事を考えていたのか、目が合い頷く。
ごめんね。と謝りつつ……自動回復を停止させてもらった。

ーーーーーー

緊張の糸が切れたのか、ルカちゃんは三口目で寝落ちた。そしてお父さんは……と、言うと延々と喋ってる。
アイテムバッグを贈った時のルカちゃんの様子がとても嬉しかったらしく……十数年前の記憶だろうに、事細かに説明が続いている。

「あ~……その話、何回目だよ。俺はルカを寝室に運んで来るわ。師匠、あんた酒に弱ぇんだから程々にしとけよ。カナデも困ってんじゃねえか」

何度も聞かされてきたのだろう、呆れながらクロードは眠ってしまったルカちゃんを抱き上げた。

「クロード、君は口が悪い」

「何も喋んねぇ師匠よりゃマシだろ?俺が戻って来ても絡んでたら強制的に寝かすからな」

クロードが手にした魔導具のボタンを押すと、バチンッと火花が……尊敬している師ではないのか。

クロードが出ていき……ツッコミ役が居なくなってしまった。

「ユリウス様、お酒はそろそろその辺に……唐揚げ食べます?」

その辺にって言ってもまだ一杯目だけど……お酒の弱さも遺伝なんだね。腹を満たさせて寝かせよう。

「カラアゲ、これは美味いな。カナデ君、私の事はお父さんと呼んでくれて構わない」

「えっ?ユリウス様……あの……それは」

産まれてから身を潜めていた溺愛っぷりから、君にお父さんと呼ばれる筋合いはないとか言われるかと思ったのだが……。

「むしろお父さんと呼んでくれ給え。うん、今宵はめでたい」

クロード、早く戻って来い。

「異世界から来たなど……本当は秘密にしておきたい事だろう。君の力は強大だ。知られれば皆手中に収めたがるだろう。私もほしい……君がいればダンジョンから排出される魔導具よりも強力な魔導具を安全に作れるだろうからな」

国へ囲われるつもりはないが、お父さんの為なら何を手伝っても良いと思ってる。全てがルカちゃんが快適に旅を過ごせる様に作られた魔導具なら。

「……わざわざ伝えてくれた事に感謝する。おかげでルカと向き合う事が出来た。怖がらせたくなくて……怯えた目を向けられるのが怖くて、ただあの子の為に魔導具を作り続けるしか出来なかった」

「怖がらせたくない……その気持ち痛いほどわかります」

「クロードが冒険者向けの新しい構想の宿屋を考えていると聞いて、タオルを織る魔導具と石鹸を作る魔導具を作ったが……クロードからルカが喜んでいたと聞いてな……そうだ、その魔導具を作ろうと思ったのは家族で温泉へ行った時に……」

「まだやってたのかよ……飽きねぇな」

戻って来たクロードは椅子に座るなりグラスに残っていたワインを飲み干した。

「ルカはミレーナさんの部屋に寝かせてきた。久し振りに……温もりはねぇけどママと一緒に寝られりゃ落ち着くだろ。てなわけで、カナデはルカの部屋使っていいぜ?何の機能もねぇ魔導人形だけどルカと寝てる気分には無れんじゃね?」

「何の機能も無いとは何事だ。あの魔導人形は存在そのものに人を生かす機能が備わっているんだぞ」

「そうですね。寝顔を見るだけで……「おはよう」と言ってもらえるだけで今日も1日頑張ろうって思えます」

「ぅえっ!!わかんねぇ~そういや昔ルカがさ……」

「それを言えば幼い頃ルカが……」

「この間ルカさんが……」

そうして料理をつまみ、舌鼓を打ちながら各々が好き勝手自由に語るルカちゃん談義は明け方まで続けられた。
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