駆け抜けて異世界

藤雪たすく

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もう一つのダンジョン

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「ピエルブランと焼き野菜のチーズのせ、おまちどうさま」

運ばれてきたピエルブランは俺が知っていたものよりもひとまわり以上大きくて焼き野菜もの上にかけられたチーズもたっぷりで、安いのにかなり大盛りサービスの店な様だ。これで味もよければ……。

「臭みがない……丁寧に柔らかく煮込まれてるし、焼きもじっくり時間をかけてて……すごい美味いな」

店主は真面目な人なんだろうな……全ての作業が丁寧な気がする。

「本当?聞き込みしたかいがあった~」

「奏の外面の良さも役に立つな」

「素直に凄いって褒めてくれて良いのに……本当だ、柔らかい。骨付き肉なのにほろほろと骨から外れてくれるね」

軽くフォークを入れただけで骨から離れる身の柔らかさ、強めの塩味とシンプルな焼き野菜の相性が良い……そこにたっぷりの蕩けたチーズはもはや凶器。

「レッドマートの肉詰め煮込み、おまたせ。お客さん達は冒険者?」

「はい。ダンジョンへ向かう為にこちらの街へ立ち寄らせて貰いました。綺麗な街ですね」

「ダン……ジョン?まさか……こんな可愛い子を連れて?悪いことは言わないからやめておきな」

真っ青な顔になった店員に奏は不思議そうに首を傾げた。聞こえていたのであろう、周りの客も数人こちらに視線を向けてきている。

「ダンジョンに何か……」

「奏……俺たちの目的はここから先のゼノーリのダンジョン。大丈夫、ありがとうございます」

俺の答えにホッと息を吐いて、ごゆっくりと言葉を残して店員は仕事へ戻っていくのを見送る。

「ルカちゃん。ダンジョンに何かあるの?あの人顔が真っ青だったけど」

「飯が不味くなる、後でな」

食事へ意識を戻して、また和やかな空気を味わいつつ、おすすめだったデザートのチーズケーキとポミパイまでゆっくりと楽しませてもらった。

ーーーーーー

食事を終えて宿屋をとって部屋のベッドに体を投げ出した。

「いい店だった」

美味しいし空気は穏やかだし、奏に店を勧めてくれた人に感謝だ。

「美味しかったね~最後のアップルパイみたいなのも美味しかった」

奏も隣に腰を下ろしてきた。わざわざ同じベットに腰を下ろさなくてもいいのになと、思いながら話をするために体を起こした。

「さっきのダンジョンの話だけど、この街の側にはミルボルってダンジョンがあるんだよ。歩いても数時間の場所に」

「そんな近くにダンジョンあるの?なら攻略していった方が後々楽じゃない?」

「そうなんだけどな……正直行きたくないというか……半封鎖されてて誰もいかないだろうし」

このダンジョンはできる事なら避けて通りたい気持ちが強い。

「ルカちゃんがそこまで尻込みするってそんなに酷いダンジョンなの?」

「説明はしとかないとか。ミルボルのダンジョン、通称『淫虐のダンジョン』って呼ばれていて、ゴブリンやオーク、オーガとか……まぁ人を犯す魔物ばかりで、奴らに負ければ……苗床にされる」

「苗床?ダンジョンの魔物なのに生殖で増えるの?」

「雄しかいない……外から来た人間を犯し孕ませて、産まれる直前に外に放り出すんだ。そうすると外で奴等が産まれ、その子が周りの人間を襲い、また子を増やし、また襲う……だから『半封鎖』になってる」

ダンジョンの魔物は基本的にダンジョンの外には出られないが、お腹に宿った形なら外に出られるらしい。

「ダンジョンの魔物がそんな事するの?エグ……」

なんでそんな事をするのかは誰にもわからないが、目の前の敵を倒すだけの他のダンジョンの魔物とは異なり、奴らは明確な意志を持ってそう行動している。

「ミルボルのダンジョンはだだっ広い1階層だけ、ボスを中心に奴らは統率し、道具や罠も使うし、ねぐらも作る。冒険者が装備していた物も奪って魔導具だって使ってくる。ああ、男でも孕まさせられるぞ。生殖というより寄生に近い」

「そんなダンジョンが街の側にあるとか……街の人は不安だよね」

「だろうな。ダンジョンのおかげで潤う街が多いが、この街はダンジョンのせいで廃れた街だ。昔はもっと賑やかだったんだシャルナールに引けを取らないぐらい綺麗な街だったんだ。数年前にダンジョンが生まれ、魔物の子が街を襲う事件があり、人が大量に減って……今も徐々に減っていて、いずれ街でなくなるかもしれない」

半封鎖されているとはいえ、この街の住民は不安で仕方ないと思う。

「数年誰も訪れず放置されたダンジョンは魔物溜まりができたり魔物が暴走して外に溢れるのではないかという説を唱えるダンジョン学者もいるから本当に怖いと思う……俺も実際、数年前の事件の時に被害者救出の手伝いをしたけど……あの光景は思い出したくない」

新規のダンジョンで、相手はゴブリンということで舐めてかかった初踏破者を目指す野心に燃えた冒険者たちが軒並み犠牲になった。上位種たちが最初の頃に身を潜めていたのが、油断させる計画だったのだとしたら恐ろしい。
至る所で魔物たちに犯され続け、精神を病んだ冒険者たち。救出作業にあたった俺たちには知らされなかったが……おそらくは……。

「そうなんだ……寂しいね。綺麗な街なのにね」

寂しいが、冒険者個人がどうしてやることもできない。
ダンジョンの魔物を駆除したところですぐに湧いてくる。
根本的な解決策などない。
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