御主人様と転移奴隷のすれ違い新生活

藤雪たすく

文字の大きさ
20 / 42

ご主人様編3-4

しおりを挟む
痛かっただろうに、怖かっただろうに……全くそのそぶりを見せずにチハナは肩を回して不思議そうに自分の体を確認している。その強さに……危うさを感じた。

不安を打ち消すように艶のある髪を
手ですいていく。

「チハナは強いな……」

その手を肩へ移動させる。俺の背負うもの……少し盛り上がった痕をなぞる。

「ガルージア家の紋章……責任を取らせてくれ……誰よりも幸せにするから……」

「僕はリオルキース様のお側にいられるだけで幸せです」

チハナは変わらない。
その事が嬉しくもあり、不安でもあった。

ーーーーーー

風呂に入りたいというチハナに付き添って俺も風呂へ向かった。

先に体を洗い終わり浴槽に浸かるチハナから視線を感じて……それとなく背を向け気味にして頭を洗っていると……チハナが動く気配がする。
気分が悪くなったのだろうか?
すぐ側に立ったチハナを見上げた。

「リオルキース様……」

「チハナ?どうし……なっ!?」

俺の前に腰を下ろした……チ……チハナが俺のモノを口へ含んだ。

「チ……ハナ……」

初めて他人の熱に包まれて……堪え性無く立ち上がる。チラリと上目遣いに見上げられて、爆発しそうになるのを必死に抑えた。

何だ!?何でこんな事に!?何でこんな行為をチハナが知っている?
混乱と快感で思考が纏まらない。

チハナが頭を動かす度に水気を含んだ音が浴室に響いて聴覚から俺を刺激して……。

「ん……」

これ以上は……我慢が……そうチハナを見下ろした目に肩の焼き印が飛び込んで来る。

「やっぱり駄目だ……止めるんだ……」

「お願いします……させてください……お役に立ちたいんです」

役に……チハナは変わらないと思ったが焼き印に引っ張られている。紋がついたからといって、こんな奴隷みたいな真似をする必要はない。

「役に立つとか……そう言うことを考えるな……それに、チハナにはまだ早い……」

誰がこんな行為をチハナに教えたのか……怒りが芽生える。

「この世界ではわからないけど僕の世界では18歳ならそんな子供じゃないです。微妙に大人でもないですけど……でも△△△△あります!!△△△△△、△△△△……△……」

語尾は小さく、聞き取れない言葉だったが……。

「ちょっ!!ちょっと待って……」

聞き間違い?聞き間違いか!?チハナはいま何と言った?

「もう一度言ってくれ、チハナ」

「え……えっと……△△△△△……でも△△△……」

真っ赤な顔で口ごもるチハナが何を口にしているのかも気になるところが、今一番気になるのはそこではない。

「いや、18歳と言うのは本当か?」

チハナの目が少し怯えているのがわかるが、チハナの言葉に俺は余裕が無い。

「は……はい」

「18……もう子供じゃないじゃないか……見た目から12歳位かと思ってた……」

ガクリと肩から力が抜ける……今まで我慢していた期間はなんだったんだ……見た目で判断せずにちゃんと聞いておけば良かった。チラリとチハナの裸体を見る……これで18?

「……失礼しました」

逃げ出すほど余裕の無い顔をしているだろうか?必死に表情を整え立ち上がりかけた、チハナの腕を掴んだ。

「18歳と言うことは……俺はもう待たなくて良いんだな……」

何年でも待つとは言ったがすぐにでも結婚出来る……自分で判断が出来る歳なのだと分かればすぐにでも……。

男同士の結婚は前例がなく、正式な結婚として認められないかも知れないが、女神の前で愛を誓い合うだけでもいい。2人の間で繋がりを持てればそれで良い。戦闘力の無いチハナの事を俺が守り、心の強いチハナに俺を支えてもらいたい。

本当に18歳だとしてもこの体に俺のモノは……しかし元々世継ぎを残す為の結婚ではないんだ。結婚=体を繋げる事ではない。結婚してチハナの体がもう少し成長してから、その先の事は考えれば良いだろう。

「僕は……リオルキース様と……早くしたいです……」

「わかった……チハナ、愛してる……結婚しよう」

同じ気持ちでいてくれる事が心を震えさせた。
心の奥底からチハナが好きだという感情が湧き出て来た。

ーーーーーー

「チハナ……おやすみ……」

チハナの額におやすみの口付けを落とすと、チハナの望みを叶える為に俺は部屋を飛び出した。

「フレイクス、俺はチハナと家を出ようと思う。親父にはよろしく言っておいてくれ」

帰って来たフレイクスを捕まえて要点だけを簡潔に伝えた。じゃあ、と踵を返すと襟首を掴まれた。

「じゃあ……じゃねぇよ!!家を出るって……隊長としての職は……」

「勤めは続ける……城の近くに家を借りてチハナと住むつもりだ……結婚する」

「あ~……成る程ね、結婚かぁ……結婚!?は!?お前チハナちゃんが大人になるまで待つって……」

「俺も驚いたが、チハナの国の人間は小柄らしい、チハナはあれで18歳だった。年齢的にもお互いの気持ちにも何ら問題は無い……チハナに早くしたいってお願いされたしな……」

風呂場でのチハナの姿を思い出し思わず顔が火を噴いた。

「18……お前と同い年?あれで?」

にわかには信じられないという顔だ。そうだろう、俺もまだ信じきれてない。

「今すぐにでも神仕えの者を叩き起こして、オスクキュリアの前で誓いをたてたいぐらいだ……」

頭を抱えたフレイクスがわずかに頭を上げて、俺を覗き見た。

「待て、待て……何ら問題無くない。お前……金は……」

「今まで使ってないから十分ある」

「家の事なんてした事無いだろ……」

「2人で失敗を重ねながら覚えていくのも楽しそうだ」

「お前が仕事中はどうする……」

「氷鳥20匹ぐらいつけておく」

「男同士の結婚は例がない……認められるかどうか……」

「誰かに認められたい訳じゃない。チハナと俺との間にだけその誓いがあれば良い」

「親父の許可は……」

「次男など家にいない方が余計な心配をせずに済むだろ。どうせフレイクスが家督を継げば家を出て教会に入る予定だったんだ……もしチハナの事を親父が反対するなら……名を捨てる覚悟だ」

「本気の……本気なんだな?」

「ああ」

長く息を吐きながらフレイクスはソファーに体を投げ出した。

「お前が言い出したら聞かないのは分かってる。でもせめて親父が遠征から帰るまで待て、もうじき戻る予定になっている。次男だろうが何だろうが、お前がガルージア家の人間に変わりはない……それでも名を捨て今すぐ家を出るというならチハナは置いていってもらうぞ……」

「ふざけるな……なんで!!」

いつものヘラヘラしたなりを潜め、鋭い目が俺を睨んだ。

「ふざけてない……あの子の肩にあるのはガルージア家の紋だ。ガルージアの名を捨てた奴にあの子を自由にする権利はない」

フレイクスは凍りかけた髪の毛を指で弾き氷を飛ばした。

「わだかまりを持ったまま遠征へ向かってしまったが、親父だってお前を憎んでいる訳じゃない……早く結婚をしたいのは分かったが、ちゃんと段階を踏め。それがあの子の為でもある」

チハナの為……そう切り出されては何も言い返せなかった。
しかし……あの親父に話が通じる気もしない……。

「そう暗い顔をするな……お袋とヒョーイに立ち会って貰えば大丈夫だよ……多分」

フレイクスの慰めに俺は溜め息で返した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】その少年は硝子の魔術士

鏑木 うりこ
BL
 神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。  硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!  設定はふんわりしております。 少し痛々しい。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...