御主人様と転移奴隷のすれ違い新生活

藤雪たすく

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奴隷編4-3

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親子の話し合いに俺がいても……と席を外そうとした俺の手をご主人様が掴んで引き止められた。俺はソファーにご主人様とフレイクス様に挟まれて座っている。目の前にはご主人様のお父さんとお母さん。

体が大きくて迫力のあるお父さんは怖いけど、それでもご主人様が側にいてくれると心強い。落ち着いてお父さんを観察すると体格とか全然違うけれどやっぱりご主人様に似ている。その2人はムスッと押し黙って沈黙が続いているけど……。

「取り敢えず、今回の件。何でチハナを攫ったのか父上、ちゃんとした説明をしてもらおうか」

フレイクス様が司会役を買って出てくれた。
その言葉にお父さんはお母さんに顔を向けた。

「…………」

「オスクキュリアをみつけたから……リオにあげようと思ったの?礼拝堂に行けばリオに会えると思った?……チハナちゃんは元々リオが見つけたのよ?だからお家にいたの。リオは貴方がチハナちゃんを家から連れ出し誘拐したって怒ってるのよ、わかる?」

お父さん何も喋ってない……よね?お母さん何で分かるんだろう?以心伝心?

「チハナさん?怖い思いをさせてごめんなさいね。あの人も悪気があった訳じゃないの……チハナさんさえ良ければこれからもリオを側で支えて貰っても良いかしら?」

ふっと向けられたお母さんの微笑みに……。

「母さん……」

全然俺の母さんよりキレイで上品で……何も似ていないのに母親という存在が見せるその微笑みに涙が溢れた。
……会いたい。会いたい。会いたい……母さん、父さん。
泣き顔を隠すように俯いて涙を落とす俺の体をご主人様が引き寄せて胸に隠してくれた。

大丈夫。俺にはご主人様がいてくれる。
ご主人様の為に……そう思っている間は元の世界の事を忘れていられる。図々しいと思いながら強さを分けて貰いたくてご主人様の胸に顔を擦り寄せた。

ーーーーーー

真っ暗な中……スポットライトを浴びせられたように俺の周りだけ白く明るい。
周りはただただ、闇が広がっている。

『リオルキース様……』

ご主人様の姿を探して走り出すと光もついて来る。どこまで行っても闇が続いているだけで、ご主人様はおろか、誰も……何も無い。

夢……夢か……。

そう納得して足を止めるとその場に座り込んだ。夢の中ならあがいても仕方ない。いつか覚めるだろうとその時を待つ事にした。
どれぐらいの時間がたったのだろう……数時間かもしれないし、もしかしたら数分の事だったかもしれない。

暗闇の中で闇が動いた。
何かが近づいて来る気配。その方向をジッと見つめていると光の中に黒い足がスッと現れた。つま先から足首……膝……そして全てが現れた……が、全身真っ黒。服を着ているのかも男か女かも分からない黒い影。

影……あの日……河原で夕日を眺めていた時、影に飲み込まれた事を思い出した。影が大きくなっていく……そしてあの日と同じように俺は影に飲み込まれた。

影に飲み込まれて俺はこの世界へやってきた。もう一度飲み込まれたら……俺はどこへ行くのだろう?元の世界?また違う異世界?

『「リオルキース様」』

呼んだ愛しい人の名前は誰かの声と重なった……。

ーーーーーー

目が覚めた……と思う。
見慣れた天井が見えるのに……違和感。

「チハナ、おはよう」

ご主人様だ……ご主人様の方へ視線が移動する。
それは自分の意思では無い……まるでどこかで誰かの視点の映像をモニターで見ている様な感覚。

「リオルキース様、おはようございます」

ご主人様に抱きついてその唇に唇を重ねた。

……誰?
俺では無い、誰かの言葉……誰?誰の目線?……ご主人様はチハナと呼んだ。俺?俺なのか?

「チハナ……」

嬉しそうに微笑んだご主人様は俺を抱き寄せてさらに深く唇を重ねた。
目を閉じてもその光景が浮かんで来る。ご主人様が俺なのに俺ではない誰にキスをしているのか分からないけれど……いずれご主人様が誰かと結婚するところを目の当たりにする事になると分かっていたけれど……こうして目の前でその光景を見たくなかった。

泣きたいのに……泣ける体は無かった……。


どうやら誰かに体を乗っ取られている様だ。漠然とそう感じた。

誰も俺を俺として疑わない。
俺じゃない誰かが俺として喋っている。俺の覚えてないこちらの言葉を使っている。
毎朝これだけは……と笑顔でご主人様を見送る事も、庭の手入れも……料理長にお願いして、こちらの食材で器用に……ご主人様の為に料理を作った。

「すごい……美味しいよ」

仕事から帰ったご主人様は料理を見て驚いて、嬉しそうに笑って、美味しそうに食べた。
ご主人様が何か行動しようとすれば先に動き、お風呂に入ればご主人様の体を流す。

理想的にご主人様の身の回りの世話を焼く、俺ではない俺。

ベッドの上……。

「リオルキース様……○○○○、○○○○○○」

「○○○○チハナ○○○○、○○○○」

服を脱ぎ捨て、リオルキース様の上にしなだれ掛かる俺。
リオルキース様が見つめているのは俺なのに……俺じゃない。

見たくない……見たくない……見たくないっ!!!

目を閉じても押し付けられる映像。

ご主人様……優しい目で見ないで、その手で誰にも触れないで……なんて強い独占欲。奴隷としてあるまじき……。

目を閉じても……ご主人様の顔が近づいて来る。
キス……するのかな?

目を閉じても無駄なのならば…………俺はそっと心を閉じた。
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