EDGE LIFE

Case.03 Game

【Two-man Cell Battle Royaler】

　辛うじて立ち続けている建物の柱横を抜ければ、朽ちた噴水の縁へ、黄昏時に似た髪色をした男が座っている。
『よぉ、ステアのおっさん。アンタまだ生きてたのか？』
『お前の肩書きを討つまで野垂れ死ぬ気は無えよ、サラテリ。』
　ゆるりとした動きで立ち上がった、ステアと呼んだ男の重く低い、怒りに満ちた声が、耳へ響く。
　警戒する猫の様に此方を見つめていた女を背後へ退がらせ、脚に装備していた片手銃へ手を掛ける。

─ 選択キャラクターの視点で相手を見るため、自分が言われている気がして、異様な興奮に心臓が高鳴る。
互いに前作と同じ人物を使っているだけに、殊更。

『肩書きを討つ、だァ？此の国が滅ぶのは運命に有った。ただそれだけのコトだろう。』
『降伏する奴らの命を無用と斬り落とす必要性は無かったはずだ。同胞の無念、払わせてもらう。』
『払う前にアンタらの首も刎ね飛ばしてやるよ。死んだ奴らと同じ様にな…！』
　英雄、と呼ばれる銀髪の青年 － サラテリが、その肩書きには凡そ似合わない、悪どい笑みを浮かべる。

─スクリーンの向こう側、獲物を待っていた彼もサラテリと同じ顔をしている事だろう。
此処で確実に潰しておかねば、被害が更に出てしまう。

【Ｕｓｅｒ ソリュー より、ボイス変換チャットの申し出があります。受理しますか？】
「なんだ？」
「戦闘者だけだが、対戦モード中は相手に対する会話音声だけを認識して、使用キャラの音声と話し言葉に置き換えてくれるんだとさ」
この筐体の新システムらしい、と隣室の都築が小窓から解を放つ。
「なるほど。随分便利な機能だ」
　予想が間違っていなければ、日中に顔を突き合わせた相手がコンソールを握っている筈だ。
相手に自分を知られず話が出来る事は都合が良い。樹阪のことだ、間違いなく音声記録を録っているだろうし、上手く聞き出せれば言い逃れの出来ない証拠に出来る。
表示される【ＹＥＳ】の選択肢に、擬似武器の銃口を向けて撃てば、画面に映るステアが同意するように頷いた。



Solitary Mahalソリュー／蘇我野 祐里亜／Freya Weralギアノア／青山 遥
ＶＳ
Steyr Weral冬都／新堂 疾斗／Freya Weralルカ／都築 里央


腹が立つほど晴れきった薄水色の空。
焼け崩れ風化した住居が其処彼処にあり、武具の破片や枯れた草が転がってゆく。
サラテリが大剣を構えれば、ステアが銃を抜いて見据える。

【Circle of Revenge on Fate…】
【Who can laugh？】
【GO Onrush！】

開幕と同時。
すかさず地面を蹴りだして速攻で間合いへ入り、握る大剣を薙ぐ。ステアはバックステップで飛び退くも、剣先が僅かに接触。体力ゲージを数ミリ削りとる。
「攻撃は最大の防御ってなァ！」
　射撃者に距離を取られることは、ダメージが少なくとも、後々の命取りに繋がる。再度前へと踏み込み、ただの打撃になる事は承知で縦横無尽に剣を振るう。
　防御姿勢を取りつつ数回に分けて後退してゆくが、戦闘消極判定に入り、ステアの体力は徐々に大きく削れてゆく。
『ハンデのつもりか、おっさん冬都さんよ？随分と余裕だな。』
『すぐ手を休めるのは昔と変わらねぇんだないな、サラテリソリュー。』
　ガード態勢のままでいた男が呟き、一瞬生まれた攻撃の隙を捉えられて腹部に蹴りが入れられて、後方へ大きく吹き飛ばされる。
　元軍人であるステアの打撃攻撃は重い。
　油断無防備状態だった事で四分の一ほど削られた上に昏倒状態になり、動けない間は距離を置いたまま銃弾が撃ち込まれる。
『粛清警備にかこつけて、他の奴ら人達も殺拘束したのか。』
『はァ？なに言ってんだアンタ。』
　抵抗しようとするも身体を動かすことは出来ず、彼の妹であるフレイヤの支援サポートによって回復したステアが、切れた弾を再装填する。
『答えろ、そうなのか？』

（コイツ入り込みすぎ系だったのかよ、キメェ…）
こんな奴に過去の自分は負けたのかと思うと腹が立つ。

『だったら何だってんだ？邪魔だから殺った、それの何が悪い？』
　身体に力が戻り、再度剣を握り薙ぎ振るう。しかしそれは空を斬り、返された銃撃は脚へと被弾する。
銃での攻撃は、距離によってダメージ率が変わる。至近ではない一発は然程気にならないが、連撃になれば反撃の隙を狙う事は難しい。
なりふり構わず振り回しながら前進するも、気付けば体力の半分以上を失っている劣勢状態に置かれている。
『自分の栄光勝利を守る獲るの為なら、何しても構わねえってないという訳か。とんでもねェない外道だな。』
「何してんだクソ山！」
　青山の使うキャラクターは相手の支援者と同じ者で、一度だけ戦闘者を回復出来る。
　普段であれば言わずとも支援を行おこなってくるが、何故か今日は回復どころか強化支援すら無い。
大剣を体前たいぜんに構え、相手の放つ弾幕を耐えるが、防ぎ切れない分がメーターを徐々に減らしてゆく。
「っ…終夜さん、これ、負けた方が良いです…！」
「『アァ？！ふざけんな！』テメェの意見なんざ要らねンだよ！さっさと回復援護ヒールやれ！」
　家庭用ゲームのように一時停止は出来ない以上、更に戦闘を続けるならば回復が不可欠だ。
　青山からの敗北推奨に突沸した蘇我野の言動の一部が、会話として誤認されて通り抜ける。気にも止めずにまくし立てるも、彼女は指示を棄却するかの様に声を張り上げる。
「台詞変換で相手が入り込んでるように思うだけです！あのステアさんが言ってるのは、私達の行動を」
「『煩ェっつってんだよ！そんなに殺さボコられてェのか、あァ？！』」
　筐体内に反響する程の声で凄み、短く上がった声と共に画面上のゲージが半ば程まで回復する。
「最初はなっからやってりゃ良いんだよ、クソ山が…早く強化も」
『今のは、俺への挑発じゃねえではないな、サラテリソリュー。』
　自分の怒号が止んだ室内にステアの声が響く。
　画面にはその身体と握る銃には赤みのある光を帯び、此方を睨め付けるカットインが表示される。
「なっ、おいクソ山！緊急回避を」
「クソ山ってのは…いったい誰のコトなんですかねぇ？」
「はっ？！」
　支援者部屋から突然聴こえた知らぬ男の声に、思わずそちらへ振り返る。小窓から見える口元は青山のものではない、明らかに人を嘲笑する形に歪んでいる。
「だっ、誰だ？！」
「こっちみてる場合ですかねぇ…ステアの最終奥義、来ちゃいますよ？」
　間延びした様な口調の忠告に、慌ててスクリーンへ向き直る。しかし時は既に遅く、サリエリの身体はステアによって蹴り上げられて身動きが取れない。
『この負けがお前の最期これでゲームオーバーだ』
『や、やめろっ、ふざけるなっ！』
　叫ぶと同時。
　撃ち出される弾幕は流星群の如く降り注ぐ。
　空へと蹴り上げられた英雄と呼ばれる男の身体は、流星弾に次々と砕き貫かれる。
　やがて細かな影に変わり、筐体内が一瞬発光すると、サラテリの姿は消えていた。




【Winner】
【Steyr Weral冬都／Freya Weralルカ】