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Case.04 心情
東都 中央地区α+
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「疾風ー、何かつまむ?」
「あー…?さっき飯食ったばっかだろうよ」
「だって駅前で評判のケーキ買ってきたんだもん」
「変なところで遠回しなヤツだな。素直に食いてえって言やァ良いだろ?」
聞こえてくる問いへテキトーな返事をしながらテレビを眺めれば、画面の向こう側で男のモデルが新商品らしい缶コーヒーを一息に煽る。
世の中には似た顔の奴が数人居る、なんて言葉が旧国時代からあるが、この紫頭は随分と俺に似ているように思う。気のせいかも知れないが。
「疾風も食べたいかなーって思ったんだもの」
キッチンから顔を覗かせた嫁が、一瞬だけ視線を逸らして唇を尖らせる。「不細工なアヒル」とでも言ってやろうと思ったが、揶揄うのはこんなモンにしといてやろう。あんまり弄って機嫌損ねられると何されるかわからねえし。
一緒に食うよと苦笑って言えば、子供のように朗らかに笑って意気揚々と冷蔵庫を開けて箱を取り出す。
こんな穏やかな時間を過ごすのは、いつ振りだったっけか。かれこれ何年もこんなことはなかった様な気がする。いや、そうでもなかったか?よく分からねえ。
記憶が昔よりも曖昧になったもんだ、脳筋と言われる前に少しは頭の運動もしたほうが良いかもしれない。
…俺でも出来そうなゲーム一つぐらいもってねえかな、アイツ。
─ アイツ、って誰だ?
頭の奥が疼く感覚に首を振って、周りを軽く見る。
左眼を使うほどの事じゃない。俺ら以外の人間がいる気配もないのに、能力を使ったところで無駄に消耗するだけだ。
「どうかした?」
「軽い立ちくらみ。ずっと座りっぱなしだったから」
俺の返答に首を傾げて、嫁さんは食器棚から皿とカトラリーを取り出す。後ろを向いている内にもう数回ほど頭を振ってみるが、妙な感覚は拭えない。
深呼吸をしようと目を閉じれば、言葉にし難い僅かな色光と墨色に沈む。時間をかけて酸素を肺へと入れ込んで交代に息を抜いていけば、僅かに上がっていた心拍が落ち着きを戻していくような感覚を覚え、微かに安心して目を開く。
「ねえ、本当に大丈夫…?」
席につかない俺に気づいたらしい。隣に立って顔を覗き込んでいる茶色の瞳が不安げに伏せられている。
柔らかい頬へ手を這わせて笑えば、笑みを返して手を掴み席へ座るようへと促されて、いつの間にか皿に盛り付けられていたスイーツに目を向ける。
「……二種類しかねえの?」
「え?どうして?」
「いや、アイツの分は無えんだなと思って」
「アイツ、って?」
口から出た言葉に疑問符をつけて返され、俺自身もどうしてそんな言葉が出たか分からずに首を傾げる。
─ アイツ、って誰だ?
最近まで、会って話していたはずなのに。
最近…いや違う、つい何日か前にも話してる。
何かが押し込まれているように、頭が疼く。それ自体に痛みはない。
口にした言葉の答えを探そうと思考を巡らせるほどに、脳内へモヤが掛かっていく感覚。
体内の気道も血流も無理やり堰き止められているようで、呼吸も辛くて気分が悪い。
「疾風、ねぇハヤテ、大丈夫!?」
─ お前 は ダレ なん だ
**********
「疾斗ちゃん、悪いな…っ!」
声が切ると同時、手をかけた首筋から全身へ向けて体内電流を増幅させて奔らせる。
「っぐ!!」
身体中を巡っていったであろう激痛に、思わず腕を掴んでいた右手を離してこちらを見上げてきた副官へ、眉を下げた月原は謝罪がわりに片手を上げる。
「悪い…お前さんが自分で言った時間になっても戻ってこなかったんでよ。何か視えたか?」
「いや、呼び戻してくれて助かった。美南 龍弥に触れた時と同じだ。兄貴…疾風の声は聞こえたが、相手も映像も何も視えなかった」
「マジかい……須藤の能力にはそんなモンがあるなんて聞いてねーぞ」
苦々しく顔を歪めて頭をゆるりと振る自分の言葉に頷く疾斗は、目前で懇々と眠り続けている疾風を見つめる。
染髪剤の色が抜けて本来の色を取り戻し始めた実兄は、古びた寝台に真新しい点滴を繋がれており、その呼吸は明らかに浅い。
拘束した青年が吐いた疾風の居場所は、今回の依頼調査のために彼が臨時外科医として入った東都東中央病院だった。
日が昇るのを待って仲川に連絡を取ったところ、院長である彼もまた全く連絡の取れない状態であった疾風を捜していたらしく、本来であれば入ることの出来ない日曜の院内へ入り、空いている病室を全て回ったが居らず。
手詰まりかと思ったところで仲川に旧病棟を案内されて探したところでようやく見つけたのだ。
疾斗自身にも僅かな医療知識はないわけではないらしいが、それは彼自身が使用する睡眠抑制剤と基本的な治療方法だけだ。眠り続ける男のような専門知識もなければ成分を視る能力も持ち合わせていない。
点滴を調べてもらおうにも先程まで同行してくれていた院長は生憎呼び出しの電話を受けて外に出てしまっている。
疾斗が再度疾風の夢を共有しようにも、能力を使い過ぎれば、その代償に彼は何時間もの強制睡眠に襲われてしまう。
月原が持つ能力である【体電流能力】を使うことも提案はできるが、彼に苛む異様な睡眠に勝つだけの電流強度がどれほどなのかも分からない状態で行うわけにもいかない。
「何かヒントはなかったのか?」
「…声の穏やかさと言葉から考えるなら、話していた場所は自宅で、相手は」
「香坂 伊純、じゃないかしら?」
背後から響いた声に振り向けば、白衣姿の女が笑っていた。
**********
後ろ頭に感じる柔らかさと頭を撫でる感触に目を開ければ、困ったようなホッとしたような顔が覗き込む。
「…落ち着いた?」
「……ワリ、どのぐらい寝てた?」
「そんなには長くないけど、ずっとうなされてた」
「…そうか」
つか俺、なんで寝てたんだ?何かがずっと引っかかっている。
さっきまで話してたら、誰かが、頭に浮かんで……。
「疾風ごめん、テーブル一回片づけてきちゃっていい?」
「あぁ…今起きる」
身体を起こしてやれば、服裾を直して笑いながら嫁さんは席を立つ。
その瞬間、今までには感じなかった花のような匂いがふわりと広がって、そこを中心にリビング中へ香りが広がっていく。
「……なぁ、いま香水つけてたりするか?」
「うん?つけてないけど、何で?」
「いやなんか…さっきからお前、石鹸みてぇな匂いがする」
「なぁにそれ、おかしい。私には何にも感じないし、なーんにも付けてないわよ」
部屋中香っているのに、わからないなんて事があるのか?
声が鼻声って訳じゃねえから風邪っぽいとかではなさそうだし、そもそもこんな噎せ返りそうな匂いに気付かねえなんて事、昔はなかった。
─ 昔って、いつだ?
…やっぱり、さっきからずっとおかしい。
「…悪い、片付け任せていいか?もう少し部屋で寝てくる」
「え?ここで寝てても」
「いや。部屋に、行く」
あからさまにしょげる嫁に「ごめんな」と一言おいて、部屋を出る。
リビングのドアを閉めても、やっぱり匂いはずっと残っている。あいつの傍にいる時よりは多少薄い気はするが、それが部屋を出たからなのか鼻奥に残っているだけなのかはわからない。
(……この部屋、なんだったっけか)
玄関ポーチより少し手前の右側のドアの前で止まり、首を傾げる。一つ前の部屋は俺達の仕事道具を置いておく物置部屋だが、この部屋は何を置いていたかよく覚えていない。
─ 一緒に仕事してる奴がいたはず、だよ、な?
また怠くなってくる頭と呼吸に耐えながら、よくわからない…よく覚えていない部屋のノブを下げ、扉を押す。
カーテンが引かれて薄暗い室内に人の気配はないが、生活感は多少ある。廊下まで広がっている匂いは、此の部屋にはあまりしていない。
それどころか、俺の吸ってる煙草とは違う刻み葉の匂いすらする。
嫁さんと一緒にいた時より気楽だし、怠かった頭も苦しかったはずの呼吸も楽になっていくような気がする。
(……何でさっきまであんなキツかったのが、落ち着いてるんだ)
明かりを灯し、深海色のカバーが掛かったベッドに腰を落として、サイドチェストの携帯ゲーム機を手に取れば、電源が入れたままだったのかスリープが解除されて画面が映る。
「……何だ、こりゃ」
画面には、さっきのテレビCMに出ていたモデルの男が点滴に繋がれた俺の手首を掴んでいる映像が、不鮮明に映し出されていた。
「あー…?さっき飯食ったばっかだろうよ」
「だって駅前で評判のケーキ買ってきたんだもん」
「変なところで遠回しなヤツだな。素直に食いてえって言やァ良いだろ?」
聞こえてくる問いへテキトーな返事をしながらテレビを眺めれば、画面の向こう側で男のモデルが新商品らしい缶コーヒーを一息に煽る。
世の中には似た顔の奴が数人居る、なんて言葉が旧国時代からあるが、この紫頭は随分と俺に似ているように思う。気のせいかも知れないが。
「疾風も食べたいかなーって思ったんだもの」
キッチンから顔を覗かせた嫁が、一瞬だけ視線を逸らして唇を尖らせる。「不細工なアヒル」とでも言ってやろうと思ったが、揶揄うのはこんなモンにしといてやろう。あんまり弄って機嫌損ねられると何されるかわからねえし。
一緒に食うよと苦笑って言えば、子供のように朗らかに笑って意気揚々と冷蔵庫を開けて箱を取り出す。
こんな穏やかな時間を過ごすのは、いつ振りだったっけか。かれこれ何年もこんなことはなかった様な気がする。いや、そうでもなかったか?よく分からねえ。
記憶が昔よりも曖昧になったもんだ、脳筋と言われる前に少しは頭の運動もしたほうが良いかもしれない。
…俺でも出来そうなゲーム一つぐらいもってねえかな、アイツ。
─ アイツ、って誰だ?
頭の奥が疼く感覚に首を振って、周りを軽く見る。
左眼を使うほどの事じゃない。俺ら以外の人間がいる気配もないのに、能力を使ったところで無駄に消耗するだけだ。
「どうかした?」
「軽い立ちくらみ。ずっと座りっぱなしだったから」
俺の返答に首を傾げて、嫁さんは食器棚から皿とカトラリーを取り出す。後ろを向いている内にもう数回ほど頭を振ってみるが、妙な感覚は拭えない。
深呼吸をしようと目を閉じれば、言葉にし難い僅かな色光と墨色に沈む。時間をかけて酸素を肺へと入れ込んで交代に息を抜いていけば、僅かに上がっていた心拍が落ち着きを戻していくような感覚を覚え、微かに安心して目を開く。
「ねえ、本当に大丈夫…?」
席につかない俺に気づいたらしい。隣に立って顔を覗き込んでいる茶色の瞳が不安げに伏せられている。
柔らかい頬へ手を這わせて笑えば、笑みを返して手を掴み席へ座るようへと促されて、いつの間にか皿に盛り付けられていたスイーツに目を向ける。
「……二種類しかねえの?」
「え?どうして?」
「いや、アイツの分は無えんだなと思って」
「アイツ、って?」
口から出た言葉に疑問符をつけて返され、俺自身もどうしてそんな言葉が出たか分からずに首を傾げる。
─ アイツ、って誰だ?
最近まで、会って話していたはずなのに。
最近…いや違う、つい何日か前にも話してる。
何かが押し込まれているように、頭が疼く。それ自体に痛みはない。
口にした言葉の答えを探そうと思考を巡らせるほどに、脳内へモヤが掛かっていく感覚。
体内の気道も血流も無理やり堰き止められているようで、呼吸も辛くて気分が悪い。
「疾風、ねぇハヤテ、大丈夫!?」
─ お前 は ダレ なん だ
**********
「疾斗ちゃん、悪いな…っ!」
声が切ると同時、手をかけた首筋から全身へ向けて体内電流を増幅させて奔らせる。
「っぐ!!」
身体中を巡っていったであろう激痛に、思わず腕を掴んでいた右手を離してこちらを見上げてきた副官へ、眉を下げた月原は謝罪がわりに片手を上げる。
「悪い…お前さんが自分で言った時間になっても戻ってこなかったんでよ。何か視えたか?」
「いや、呼び戻してくれて助かった。美南 龍弥に触れた時と同じだ。兄貴…疾風の声は聞こえたが、相手も映像も何も視えなかった」
「マジかい……須藤の能力にはそんなモンがあるなんて聞いてねーぞ」
苦々しく顔を歪めて頭をゆるりと振る自分の言葉に頷く疾斗は、目前で懇々と眠り続けている疾風を見つめる。
染髪剤の色が抜けて本来の色を取り戻し始めた実兄は、古びた寝台に真新しい点滴を繋がれており、その呼吸は明らかに浅い。
拘束した青年が吐いた疾風の居場所は、今回の依頼調査のために彼が臨時外科医として入った東都東中央病院だった。
日が昇るのを待って仲川に連絡を取ったところ、院長である彼もまた全く連絡の取れない状態であった疾風を捜していたらしく、本来であれば入ることの出来ない日曜の院内へ入り、空いている病室を全て回ったが居らず。
手詰まりかと思ったところで仲川に旧病棟を案内されて探したところでようやく見つけたのだ。
疾斗自身にも僅かな医療知識はないわけではないらしいが、それは彼自身が使用する睡眠抑制剤と基本的な治療方法だけだ。眠り続ける男のような専門知識もなければ成分を視る能力も持ち合わせていない。
点滴を調べてもらおうにも先程まで同行してくれていた院長は生憎呼び出しの電話を受けて外に出てしまっている。
疾斗が再度疾風の夢を共有しようにも、能力を使い過ぎれば、その代償に彼は何時間もの強制睡眠に襲われてしまう。
月原が持つ能力である【体電流能力】を使うことも提案はできるが、彼に苛む異様な睡眠に勝つだけの電流強度がどれほどなのかも分からない状態で行うわけにもいかない。
「何かヒントはなかったのか?」
「…声の穏やかさと言葉から考えるなら、話していた場所は自宅で、相手は」
「香坂 伊純、じゃないかしら?」
背後から響いた声に振り向けば、白衣姿の女が笑っていた。
**********
後ろ頭に感じる柔らかさと頭を撫でる感触に目を開ければ、困ったようなホッとしたような顔が覗き込む。
「…落ち着いた?」
「……ワリ、どのぐらい寝てた?」
「そんなには長くないけど、ずっとうなされてた」
「…そうか」
つか俺、なんで寝てたんだ?何かがずっと引っかかっている。
さっきまで話してたら、誰かが、頭に浮かんで……。
「疾風ごめん、テーブル一回片づけてきちゃっていい?」
「あぁ…今起きる」
身体を起こしてやれば、服裾を直して笑いながら嫁さんは席を立つ。
その瞬間、今までには感じなかった花のような匂いがふわりと広がって、そこを中心にリビング中へ香りが広がっていく。
「……なぁ、いま香水つけてたりするか?」
「うん?つけてないけど、何で?」
「いやなんか…さっきからお前、石鹸みてぇな匂いがする」
「なぁにそれ、おかしい。私には何にも感じないし、なーんにも付けてないわよ」
部屋中香っているのに、わからないなんて事があるのか?
声が鼻声って訳じゃねえから風邪っぽいとかではなさそうだし、そもそもこんな噎せ返りそうな匂いに気付かねえなんて事、昔はなかった。
─ 昔って、いつだ?
…やっぱり、さっきからずっとおかしい。
「…悪い、片付け任せていいか?もう少し部屋で寝てくる」
「え?ここで寝てても」
「いや。部屋に、行く」
あからさまにしょげる嫁に「ごめんな」と一言おいて、部屋を出る。
リビングのドアを閉めても、やっぱり匂いはずっと残っている。あいつの傍にいる時よりは多少薄い気はするが、それが部屋を出たからなのか鼻奥に残っているだけなのかはわからない。
(……この部屋、なんだったっけか)
玄関ポーチより少し手前の右側のドアの前で止まり、首を傾げる。一つ前の部屋は俺達の仕事道具を置いておく物置部屋だが、この部屋は何を置いていたかよく覚えていない。
─ 一緒に仕事してる奴がいたはず、だよ、な?
また怠くなってくる頭と呼吸に耐えながら、よくわからない…よく覚えていない部屋のノブを下げ、扉を押す。
カーテンが引かれて薄暗い室内に人の気配はないが、生活感は多少ある。廊下まで広がっている匂いは、此の部屋にはあまりしていない。
それどころか、俺の吸ってる煙草とは違う刻み葉の匂いすらする。
嫁さんと一緒にいた時より気楽だし、怠かった頭も苦しかったはずの呼吸も楽になっていくような気がする。
(……何でさっきまであんなキツかったのが、落ち着いてるんだ)
明かりを灯し、深海色のカバーが掛かったベッドに腰を落として、サイドチェストの携帯ゲーム機を手に取れば、電源が入れたままだったのかスリープが解除されて画面が映る。
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