同じ地獄で眠りたい

佐藤シオ

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新月の夜

新月の夜 六

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 職業柄ひとり遊びにも慣れていたが、それでも感じたことのないほどの快楽が体を痺れさせる。

 男は今晩だけで私の体の全てを知り尽くしたようにすら思えた。的確に弱点を探り、嫌味なほど優しく、しかし容赦せずに甘ったるい闇へ引き込んでくる。

 女を抱き慣れているのか、腹の奥まで届く固い指はしっかりと手入れが行き届いているせいで傷一つ残してくれやしない。痛みに逃げることも許してはくれなかった。

 そんな私を意地悪く見下ろす男の瞳にも少しずつ情欲が覗き始めて、それに気づいて胸が満たされた自分が嫌だ。

 客に好きにされているなどと思わせるわけにいかず虚勢を張ろうと努力したが、あの深淵は全てを見通しているようでただ恥だけが堆く降り積もるだけ。

 いっそ両手を封じてくれればいいのに、彼の手は腰をしっかりと捕らえるだけで、口を塞ごうが彼の首に巻きつこうが気にも留めない様子だった。

 私の恥を材料に興奮を強く燃え上がらせている彼は今まで相手にしたどの男よりも悪趣味だ。体を好き勝手される分にはまだいい。心まで掻き乱されているのが気に入らない。こんなの、どの暴力よりもずっと酷い。

 全身が熱くて、頭の奥まで蕩けてしまって、娼婦のキャシーという皮が破けた中から他人に見せてはいけないはずの弱さが零れそうになる。屈辱だ。侮辱だ。馬鹿にされている。そこまで暴くことは許されない。

 意識を飛ばしてしまえればどんなに楽かと思いながら、それでも男が行為の終わりを告げるまでは道具に徹していた。途中から言葉はなくした。男は何か話しかけてきていたが、上手く働かない頭では自分を取り繕う余裕がなく、返事と呼べるようなものを提供することは諦めたのだ。

 これ以上乱されたくなくて、深いところまで知られたくなくて、幼稚で貧弱で情けない自分を必死に守った。
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