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七日間と少し
七日間と少し
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ロバートに買われてから一週間が経った。
最初の日、名前を交換したあの夜に連れ帰られた彼の家は広く、見るからに高価そうな家具や装飾に彩られていた。
女中を探していると言っていた割には掃除も行き届いているようで、目の前の男が家事なんて人間らしいことをする様子を想像してみるが壊滅的に似合わない。
そのシュールさに少し頬が緩んだところで背後の扉を閉められ、囚われた部屋を見渡すと複数の瓶やタオルが並んだ棚と大きなバスタブが鎮座している。水道管とシャワーもあるのでおそらく浴室なのだろうとわかった。
綺麗な腰のラインを際立たせるベストから広い肩幅、白い首を通って顔を見上げてみる。彼は目を伏してシャツの袖を捲り始めていた。
「まずは風呂だ。今のお前を二度と抱くほど俺は悪趣味じゃない。わかるな?」
今更裸を晒す恥など持ち合わせていない私は素直に頷いて服を脱ぎ、蛇口を捻ってバスタブに湯を注いだ彼は私の体に指を滑らせた。
電気の通った室内はよく晴れた昼のように明るく、肌が焦げつきそうなほどの視線には少しだけむず痒さを覚えたが、商品の点検をしているのと変わらない目つきにすぐ平静を取り戻す。
「タバコの火傷、擦り傷に打撲痕……こっちは鞭で打たれたか? 身綺麗にするには時間と金がかかるな、お嬢ちゃん」
彼は棚から取った一枚のタオルを濡らし、湯を止めた。次に石鹸を擦り始めるものだからこれから何をされるのかは容易に想像できて、慌てて私はその手に手を重ねて制止する。
「待って。まさかとは思うけど……貴方が私を洗う気?」
何を今更、とでも言いたげな顔をしている。
ちゃんと体を洗っているか監視するだけならタオルと石鹸を私に放り投げればいいはずなのに、彼はそうはせずに甲斐甲斐しく石鹸を泡立てていた。
しかも私が服を脱いでいる間に裸足になってスラックスの裾まで捲っている。血管の浮いた広い足の甲が照明に照らされて淡く光った。
「良かったな、その『まさか』だ」
「一人で体も洗えないほど子どもじゃない……!」
大きな手がひらりと振り向いて、あっという間に片手で私の両手首を縛り上げる。
抵抗を封じたところで十分に泡立ったタオルを滑らせた。力は少し入っているものの、痛くはない。もう一九だというのにこんな世話を焼かれては羞恥心が少しずつ胸を蝕み始めてしまって、なんとかやめさせようと捲られたシャツを握ったが全く効果がない。
力は適わないし、濡れて泡がついたそれが腕に貼りつくことすら気にしない様子だ。
「言っただろう。俺は綺麗好きなんだ」
肌をこそげとろうとでもしているんじゃないかと疑うほどの気迫で、彼の手は二の腕を通り肩を擦り、首や耳の後ろを撫でた。
本当にこの男は数時間前に私を抱いていたのかわからなくなるほどに色気もなく、あれほど女に慣れていると感じた扱いの上手さは毛ほども残っていない。
おそらく彼は飼い犬の汚れを落とすのが上手いのだろうという考えが頭をよぎった。
最初の日、名前を交換したあの夜に連れ帰られた彼の家は広く、見るからに高価そうな家具や装飾に彩られていた。
女中を探していると言っていた割には掃除も行き届いているようで、目の前の男が家事なんて人間らしいことをする様子を想像してみるが壊滅的に似合わない。
そのシュールさに少し頬が緩んだところで背後の扉を閉められ、囚われた部屋を見渡すと複数の瓶やタオルが並んだ棚と大きなバスタブが鎮座している。水道管とシャワーもあるのでおそらく浴室なのだろうとわかった。
綺麗な腰のラインを際立たせるベストから広い肩幅、白い首を通って顔を見上げてみる。彼は目を伏してシャツの袖を捲り始めていた。
「まずは風呂だ。今のお前を二度と抱くほど俺は悪趣味じゃない。わかるな?」
今更裸を晒す恥など持ち合わせていない私は素直に頷いて服を脱ぎ、蛇口を捻ってバスタブに湯を注いだ彼は私の体に指を滑らせた。
電気の通った室内はよく晴れた昼のように明るく、肌が焦げつきそうなほどの視線には少しだけむず痒さを覚えたが、商品の点検をしているのと変わらない目つきにすぐ平静を取り戻す。
「タバコの火傷、擦り傷に打撲痕……こっちは鞭で打たれたか? 身綺麗にするには時間と金がかかるな、お嬢ちゃん」
彼は棚から取った一枚のタオルを濡らし、湯を止めた。次に石鹸を擦り始めるものだからこれから何をされるのかは容易に想像できて、慌てて私はその手に手を重ねて制止する。
「待って。まさかとは思うけど……貴方が私を洗う気?」
何を今更、とでも言いたげな顔をしている。
ちゃんと体を洗っているか監視するだけならタオルと石鹸を私に放り投げればいいはずなのに、彼はそうはせずに甲斐甲斐しく石鹸を泡立てていた。
しかも私が服を脱いでいる間に裸足になってスラックスの裾まで捲っている。血管の浮いた広い足の甲が照明に照らされて淡く光った。
「良かったな、その『まさか』だ」
「一人で体も洗えないほど子どもじゃない……!」
大きな手がひらりと振り向いて、あっという間に片手で私の両手首を縛り上げる。
抵抗を封じたところで十分に泡立ったタオルを滑らせた。力は少し入っているものの、痛くはない。もう一九だというのにこんな世話を焼かれては羞恥心が少しずつ胸を蝕み始めてしまって、なんとかやめさせようと捲られたシャツを握ったが全く効果がない。
力は適わないし、濡れて泡がついたそれが腕に貼りつくことすら気にしない様子だ。
「言っただろう。俺は綺麗好きなんだ」
肌をこそげとろうとでもしているんじゃないかと疑うほどの気迫で、彼の手は二の腕を通り肩を擦り、首や耳の後ろを撫でた。
本当にこの男は数時間前に私を抱いていたのかわからなくなるほどに色気もなく、あれほど女に慣れていると感じた扱いの上手さは毛ほども残っていない。
おそらく彼は飼い犬の汚れを落とすのが上手いのだろうという考えが頭をよぎった。
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