同じ地獄で眠りたい

佐藤シオ

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七日間と少し

七日間と少し 三

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 気がつけば私はバスローブに包まれて全く知らない部屋の見知らぬベッドの上で寝ていた。

 慌てて起き上がってぼんやりと記憶にある家の中でロバートの姿を探せば、暖炉で暖まったリビングで優雅にコーヒーを飲んでいる。

 彼は私に気がつくと何もないような声で朝の挨拶をして、朝食とコーヒーの用意は明日からお前の仕事だ、とバターの塗られたトーストを差し出した。

 柔らかいパンの食感と香ばしさ、バターの絶妙な塩気に夢中になってそれを平らげた後に聞いたところによると、バスタブの中で寝てしまった私を彼が運んだらしい。

 よく寝るな、と言われてようやく時計を見て昼を過ぎていることを知った。もっと早く起こしてくれればよかったのに。

 その日の午後は初めて彼と落ち着いて建設的な会話をしながら過ごした。

 女中としての私の仕事やその手順なんかが主な内容で、その一つ一つを詳しく丁寧に説明してくれた。

 メモに書かれたところで文字が読めないため、実際に道具を見ながら口頭での説明が精一杯といったところだったが、わからなくなればすぐ聞くようにと頭を撫でられた。

 昨日は私を抱いたくせに、小さな子どもを見るかのような目をしているのがちぐはぐで変だ。

 清掃はこれといって特殊な技術も必要ないらしく、とりあえずは目立つ汚れや部屋の大まかな掃除を明日から任されることになった。

 今の状態を保つことを目標にすればいいし、気になることや間違いが出てきたらそのときに訂正してくれるのだとか。暖炉の掃除も娼館でやっていたと答えると彼は少し喜んでいたようだった。

 しかし炊事の方は、作り方どころか料理のメニューすらほとんど知らない私のために彼が直々にレッスンをしてくれるらしい。

 彼が仕事から帰ってくる途中でその日に作るメニューの食材を買い、まずは簡単なものから一緒に作っていくのが一番効率がいいだろうということで落ち着いた。

 料理もできるのかという気持ちと、どうせ料理をしている姿も美しいのだろうという気持ちで少し唇を噛んだ。それに気がついた彼は心底おかしそうに笑った。

 他にも私の仕事はいろいろあった。その中には当然彼の相手も含まれていたが、業務全般においてできないほどのことは何もなかったし、賃金も含めた労働条件は垂涎ものと言えるだろう。少なくとも、今までに相手をした客たちから聞いた賃金状況とは比べ物にならない。

 どこからそんな金が出てくるのかと聞いてみると、どうやら彼が経営する会社は随分大きく、別の国とも取引をするほどなのだという。

 そして『俺は無駄遣いはしない主義』らしい。

 何より幸運だったのは、彼が文字を教えると約束してくれたことだった。

 これは私から切り出したのだが、あっけなく快諾した上に次の日には書き心地のいいノートと高そうな万年筆、子ども用の教本を買ってきて、読み書きができるようになったらもっと多くのことを教えてやる、と優しく微笑んだ。

 私の劣等感を見透かしているのか、より使える女中に育てようとしているのかはわからないが、長年抱え続けた知識欲を拾い上げられるのは純粋に嬉しかった。

 思っていたより遥かに平穏な暮らしの気配に内心困惑しつつも、この男の思惑なんて考えるだけ無駄だと気にしないことにした。

 幸い首輪も足枷も用意されておらず、玄関の鍵は内鍵一つで開く。知識を身につけて金を貯めれば、逃げようと思ったときいつでも逃げられる。


 いよいよ危なくなるそのときまでは甘い蜜を啜ってもいいだろう――。
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