同じ地獄で眠りたい

佐藤シオ

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七日間と少し

七日間と少し 五

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「ロバート、朝」

 天蓋に囲まれた薄暗いベッドの中、彼の肩を揺らしてみる。一つだけ漏れる呼吸と震える睫毛。得られた反応はそれだけ。

「ロバート、起こせって言ったのは貴方よ」
「……ん……」

 ちなみにこれは肯定ではない。私が腕の中から抜けて、落ちた腕の余韻で出た意味のない鳴き声だ。

「起きて」
「………………ぅ……」

 天蓋とカーテンを一思いに開けて窓からの光を取り入れると、ようやく体が動いて日光から顔を背けた。顔を覗いてみると眉間にシワが寄っている。

 柔らかい黒髪をわしゃわしゃと無遠慮に撫でて感触を楽しみ、よく整った骨格を覆う肌を手のひらで揉んだ。

「………………なんだ」

 ぼやけた目がようやくこちらを向いた。掠れた声はいつもとまた違った艶っぽさがあるが、少し甘く柔らかい滑舌がそれを打ち消している。

 これからがこの男の面白いところで、完全に覚醒するまでの間に話したことはほとんど覚えていない上、どうやら完全な素顔が一番透ける瞬間らしい。三日目の朝に気がついてから毎朝のように試すうち、だんだんと確信を持てた。

「貴方、私のどこが気に入ったの?」
「…………その、そばかす……かわいいよ、お前」

 この質問は数回してみたが、同じ回答が同じだけ帰ってくる。本当に彼は私の外見を気に入っているらしいので、近くに置くなら好みの女がいいという理由で私を買ったというのは信じることにした。少なくとも、私が油断した瞬間にグサリと刺されるようなことはなさそうだ。

 少しかさついた親指が私の頬から鼻、もう片方の頬へ力なく辿る。そして垂れ下がった赤毛を梳きながら落ちていった。何の目的もないそれは、私への欺瞞心すら感じない。

「じゃあ一週間前、なんであんなに優しく抱いたの? 娼婦なんだから、乱暴には慣れてるのに」

 彼はゆっくり瞬きを一つした。

「…………お前は、やさしくされる方が効くだろ」

 ふにゃりと、寝惚けたままの目でしてやったりな顔をする。いつもならば人を手の上で転がしてご満悦な顔に反発の声でも上げてやりたくなるが、こうも隙だらけではその気もなくしてしまう。

 もしもの話だが、これが私を懐柔するためだけに計算された無防備さだとしたら、彼が俳優になれば全世界に轟く名声を手にするだろう。

「貴方はそれで満足するわけ?」
「……………………」
「……ちょっと、ねぇってば。起きて」

 今にも閉じそうだった瞼が蕩けた。辛抱ならず布団を引っ張ってやる。この男、今までどうやって起きていたのだろう。

「……寒い……」

 信じられないほど弱々しく呻く彼の上体を無理やり起こし、ガウンを肩にかけると素直に袖を通してくれた。一応ここまですれば後は自動的に動いてくれるらしいので、放っておいて私は次の業務に移る。
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