同じ地獄で眠りたい

佐藤シオ

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七日間と少し

七日間と少し 六

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 暖炉の簡単な掃除を終えて火を入れた。

 少し見守って安定したことを確認してから顔を洗い、サイフォンの準備をする。以前教えたがりの客から使い方を教わっていて良かった。

 カップを出しながら浴室に向かう足音を聞き、ちゃんと彼が起きたことに安心しながら進めていく手元はまだおぼつかないが、それでもこの一週間で上達はしている。

 立ち上るコーヒーの匂いに冷たくなった鼻を解かれながら、ぽこぽこと可愛らしい音に耳を預けていたとき。

「……まだ寒いじゃないか」

 背中にぶつかったものに肩を抱かれ、体重をかけられたところで調理台に手をつき体を支えた。

 いつもの彼と起きたばかりの彼とのギャップには未だに慣れる気配がない。どうしてこんな甘えたがりになってしまうのだろう。

「暖炉はついてるから、そっちに行けばいくらかマシ。ほら、すぐコーヒーも持っていくから離れて」
「つれないな……」

 寒さに耐えかねたのか、思っていたよりも素直に離れていった。横目で追った背中は微かにふらついていて頼りない。

 よくもまぁ今まで生きていたものだと思う。寝込みを襲われれば呆気なく殺されてしまいそうだが、普段の抜け目のなさが上手く本性を隠しているのか、それとも自分の家を持った金持ちは娼婦と違って身の危険がそもそも少ないのか。

 出来上がったばかりのコーヒーをリビングに運ぶと、彼は暖炉の傍に置かれたロッキングチェアに揺られているところだった。

 寝ているのか起きているのかわからない瞳に炎の光を写しながら、どこか彼方へゆらゆら意識を飛ばしている。

「はい、コーヒー。今パンも焼くから待ってて」

 ソーサーを置いた音で戻ってきたのか、こちらを振り向くと無言で立ち上がった。

 シワ一つないテーブルクロスに覆われた大きなテーブルに備えつけられた四つの椅子のうち、いつも彼が座る席。まるでそこに真っ直ぐ道が引かれているかのようにその椅子に腰を下ろし、カップに口をつけたところまで見届けてキッチンに戻る。

 どうやら買った女に毒を仕込まれて財産を盗まれる、なんてことも考えていないようなのだ、この男は。

 朝食の支度は至って簡単だ。

 というのも、事前にメニューは決められている。朝はあまり腹に物を入れたくないらしい彼と、そもそも朝に起きて食事をとることさえ稀だった私の意見を擦り合わせた結果、朝食はトーストになった。

 足りなければ卵でも焼くか、別のジャムを使ってもう一枚食べればいい。質素だが合理的で素晴らしい朝食と言える。
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