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七日間と少し
七日間と少し 十一
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その日の夜、あの時間だけでは飽き足らず、夕食後、風呂に入った後までもロバートを勉強に付き合わせて満足した私は、ノートや教本を自室のテーブルに置き、電気を消してベッドに潜り込んだ。
久しぶりに一人で入るベッドは冷たい。
しかし始めのそれにだけ耐えていれば、寝具の質の良さもあるのか、娼館の臭くて汚くて寒いベッドとは段違いに熱を溜め込んでくれる。
布団や毛布は柔らかいし、枕はしっかり頭を支えてくれて、シーツが擦れた足が痒くなることはない。素晴らしい寝床だ。
とはいえ寝つきの悪い私はすぐに眠れるわけでもなく、もぞもぞと何度も寝返りを打つ。
大きなベッドの中ではいくら体勢を変えようとはみ出た体の一部が凍りつくこともなく、思う存分手足を動かすことができた。
「……ぅうん……」
堪らず唸るが、どうも落ち着かない。
横を向けば重なった足の骨が擦れて痛い。足が重ならないように開いてみればそちらに引っ張られる体が少し不快で、仰向けになると腕の置き所に困る。体の横に放り出しているのは何か違う気がする。
うつ伏せになれば苦しいし、どこか中途半端な姿勢になると不自然に体に力が入ってしまうのが気になる。
ごそごそと髪が枕に擦れる音を聞きながら何度も何度も転がり、諦めて適当なところで全身から力を抜いてみたけどやっぱり何か変だ。
こういうことには慣れているもののストレスを感じないわけではなく、手繰り寄せた毛布を塊にして抱きしめる。少しだけ、腕や肩が支えられるのは悪くないと思った。
毛布からは微かにロバートの香水の匂いがする。使われずに彼の部屋のクローゼットに鎮座していたから、同じところに収められていた服から匂いが移ったのだろう。
顔を埋めて息をゆっくり吸い込んでみれば、胸の深いところまでそれが満たしていく感覚がする。それを繰り返すうち、つい先程とはまた違ったざわめきが体を支配し始めた。
操られるようにベッドから抜け出す。
冷えたルームシューズに指を突っ込んで、ランタンも持たずに部屋を出た。夜目は利くほうだ。別の世界に来たみたいに静まり返った廊下を歩いて、私の部屋のすぐ傍にある彼の部屋の戸を叩く。
まだ寝ていなければいいのだけど。
「……どうした?」
少しの間を置いて開いた戸の先には、ランタンを片手にロバートが立っている。
「中、入ってもいい?」
久しぶりに一人で入るベッドは冷たい。
しかし始めのそれにだけ耐えていれば、寝具の質の良さもあるのか、娼館の臭くて汚くて寒いベッドとは段違いに熱を溜め込んでくれる。
布団や毛布は柔らかいし、枕はしっかり頭を支えてくれて、シーツが擦れた足が痒くなることはない。素晴らしい寝床だ。
とはいえ寝つきの悪い私はすぐに眠れるわけでもなく、もぞもぞと何度も寝返りを打つ。
大きなベッドの中ではいくら体勢を変えようとはみ出た体の一部が凍りつくこともなく、思う存分手足を動かすことができた。
「……ぅうん……」
堪らず唸るが、どうも落ち着かない。
横を向けば重なった足の骨が擦れて痛い。足が重ならないように開いてみればそちらに引っ張られる体が少し不快で、仰向けになると腕の置き所に困る。体の横に放り出しているのは何か違う気がする。
うつ伏せになれば苦しいし、どこか中途半端な姿勢になると不自然に体に力が入ってしまうのが気になる。
ごそごそと髪が枕に擦れる音を聞きながら何度も何度も転がり、諦めて適当なところで全身から力を抜いてみたけどやっぱり何か変だ。
こういうことには慣れているもののストレスを感じないわけではなく、手繰り寄せた毛布を塊にして抱きしめる。少しだけ、腕や肩が支えられるのは悪くないと思った。
毛布からは微かにロバートの香水の匂いがする。使われずに彼の部屋のクローゼットに鎮座していたから、同じところに収められていた服から匂いが移ったのだろう。
顔を埋めて息をゆっくり吸い込んでみれば、胸の深いところまでそれが満たしていく感覚がする。それを繰り返すうち、つい先程とはまた違ったざわめきが体を支配し始めた。
操られるようにベッドから抜け出す。
冷えたルームシューズに指を突っ込んで、ランタンも持たずに部屋を出た。夜目は利くほうだ。別の世界に来たみたいに静まり返った廊下を歩いて、私の部屋のすぐ傍にある彼の部屋の戸を叩く。
まだ寝ていなければいいのだけど。
「……どうした?」
少しの間を置いて開いた戸の先には、ランタンを片手にロバートが立っている。
「中、入ってもいい?」
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