元社畜の俺、異世界で盲愛される!?

彩月野生

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第一章<新しい世界と聖者の想い>

聖者の思惑

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カタカタカタ………。

この音は聞き覚えがある。
いや、馴染みのある懐かしい音だな。

見慣れたオフィスの一角に、人だかりができている。
その中心には人なつっこい笑顔が印象的な、同期の男が座っているのだ。

彼は俺とは正反対の性格で、コミュニケーション能力が抜群で能力も高い。
昼休みにはいつも数人の同僚に囲まれて会話を楽しんでいる。

素直にうらやましいと思うが、彼とは関わり合いにはなりたくないと常に思っていた。
調子のいい奴は嫌いだ。

あんなに人気者で顔もスタイルもいいだなんて、神に愛されてるな。

カタカタカタ……。

俺は昼休みでも構わず仕事にいそしむ。
少しでも残業時間を減らしたいからだ。

早くあの綺麗な猫のところにいきたい。
ただそれだけだ、だからあいつが時々俺を見ているのは、無視していた。


「ん……」

目の前がまぶしい。
あれ、俺どうしたんだっけ。
茶色い天井が見える……思い出した、宿にいるんだった。
固まった四肢を伸ばして起き上がろうとするが、全身が痛くて諦めた。

――あ、そうだ、俺あの男に。

痛みで完全に思い出す。
突然現れたダークエルフっぽい大男に無理矢理……。
覆い被さってくる、にやついた男の顔が脳裏に張り付いて消えない。

ガタンッ

「ひっ」

大きな物音にびっくりして悲鳴まで上げてしまった。
けっこう精神的にダメージを負っているらしいな。
人ごとみたいに考えてるけど、そうでもしないと震えが止まりそうもないんだ。

部屋のドアがそっと開かれて、顔見知りの男が姿を見せた。

「ナオキ、目が覚めたのか」
「あ、グレゴール……」
「……ごめん!」

足早に寄ってきて身体を起こされ、強い力で抱きしめられる。

「ん」

グレゴールの身体、あったかい。
それに腕や身体の大きさも、ちょうどいい。
あの大男に弄ばれた後だからか、そんな風に思ってしまう。

「そんな、震えて……怖い思いをさせてしまって……あいつが近くに来ていたのはわかっていたのに、守れなかった」
「あいつ?」

じゃあ、グレゴールはあの男を知っているのか。
背中をさすられて落ち着きを取り戻した俺は、あいつの正体を聞き出そうと疑問をぶつけた。

グレゴールは俺の肩に手を添えて静かに語り出す。

「君を襲った男は、闇の一族の王だ」
「闇の一族の、王?」

頷くグレゴールを見て、褐色の肌や巨体である事について言及すると、なんとあの王はオーガとダークエルフのハーフであるらしい。
だから、大柄なのか。恐らく二メートル半くらいあるし、筋肉質で屈強な肉体を持っていた。

――そんな奴に、俺は犯されたのか。

ごくり。

生唾を飲み込む自分に驚く。
明らかに身体が火照っているのが分かった。

「ナオキ?」
「いや、それで、なんで俺を襲ったのかわかるか?」
「それは……」

グレゴールは口ごもると瞳を伏せる。
ああ、これはやはりな。と確信せざる負えなかった。

こいつ、俺が異世界の魂を持つ者だって知ってるな。
神様が言っていた言葉を思い出す。

”私の世界では異世界の魂を持つものの血は、特別なものだ……嗅ぎつけた蛮族に命を狙われるかもしれない。”

その蛮族の一人が、闇の一族の王って事か。

そして、目の前にいるこの優男も。
俺はすうっと息を吸い込んで、意を決する。
また心臓が早く脈打つが、今度は緊張からだ。

まだ顔を背けたままのグレゴールに単刀直入に尋ねた。

「お前、俺について何か知ってるだろ」
「……っ」

息を飲む音。明らかに動揺をしているのが肩を抱く手から伝わってくる。
ゆっくりとこちらへと顔を向けたその表情には、笑みが戻っていた。

そのごまかす様な笑顔に、誰かを思い出すのだが、誰だっけ。

「もちろん、君の事ならなんでも知ってるよ?」
「じゃあ、話せよ」
「ご想像にお任せするよ」
「は!? とぼけるなよ!」

俺はいつもよりも気が荒くなってる。
まだ襲われた事実から立ち直れていないのだと冷静な思考はあるけれど、強い口調を変えられない。

「知ってるんだぞ! お前が俺を冷たい目で見るの!」
「そう……じゃ、今の僕の目を見ても怖がらないでね?」
「――う」

目が合った瞬間、まるで氷の世界に閉じ込められたような錯覚を起こした。
ぶるりと震えあがる。
ついさっき、俺を心配していた目つきとは正反対の、鋭い目つき。

肩から離れた手が、俺の両手首を掴んでベッドに押し倒された。
無理矢理ヤられたあとなのに、まさか、こいつも俺を蹂躙する気なのか!?

冗談じゃない!!

蹴りでも入れてやろうとするが、下半身を太ももと足で押さえつけられて身動きがとれなくなる。
焦って身じろいでもグレゴールの身体はびくともしない。

――なんて、非力なんだ俺……!

こんなんじゃ、神様を助けられないじゃないか!
ここでこいつに犯された上に、殺されるだなんて。
ダメだ!

「……殺さないでくれ、頼む」
「ナオキ?」
「助けたい人がいるんだ、だからどうか」

命乞いをする羽目になるだなんて。
でも、今はこうするのが最善だって思った。
闇を狩る聖者に勝てる術などないのだから。

「助けたい人って、ナオキにとってどんな人?」

額同士をくっつけられてくすぐったさに目を閉じる。
吐息が顔に触れて、甘い香りが鼻腔を刺激した。
くらりと一瞬のめまいの後、唇を塞がれて胸がきゅんとしめつけられる。

ついばむような優しいキスに、何故か安心感が胸の内に広がっていく。

どうして、こんなに切なくなるようなキスをするのだろう。
そっと瞳を開けると、顔が離れて目を細めたグレゴールが泣きそうに笑う。

いつの間にか両腕も解放されていたので、手を彼の頬にそえた。

「グレゴール?」
「……バカだな、君は。僕が、君を殺す筈がない」
「え、で、でも、殺気を」
「それくらい君が好きだって事だ」
「どうして」

――なんでそこまで、俺を?

「君は誰にも渡さない。誰が相手だろうとね」

強く暗い目が俺を射貫く。

グレゴールが抱く想いは愛なのか執着なのか、今の俺には理解できず、その強い眼差しから視線をそらせた。
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